1 / 54
本編
1.妻が出て行った
しおりを挟む
結婚して早数年。
愛する妻が俺を捨てて実家に戻ってしまった。
何が起こったのかサッパリ解らない。
最近、仕事が忙しくて妻サービスを怠っていたのが原因だろうか?
繫忙期で夜遅くまで残業が続いたせいか?
帰る時間の手間を省くために会社の近くのホテルに泊まっていたから、それが不満だったのか?
でも、それは妻も納得していたことだ。「仕事なんだから仕方ない」と笑っていたのを覚えている。
だから俺に不満などはないはずだ。
とにかく俺は妻と連絡を取りたかった。
でも妻は電話に出てくれないし、メッセージを送っても返信してくれない。
妻の実家は日本だ。
俺とは国際結婚でイギリスに住んでいる。なので、直ぐに妻の実家に行ける距離ではない。繁忙期を過ぎたとはいえ依然と忙しい状況が続いているため長期休暇は申請できない。俺をリーダーとして任されているプロジェクトもある。
それに恐らく兄貴の許可を得られないのは必定だ。父同様に仕事の鬼だからな。
妻が出て行く前日の夜。
久しぶりの家。仕事に疲れて帰ってきた俺を妻は玄関で待っていてくれていた。その姿を一目見て喜び、疲労も一瞬で消し飛んだほどだった。
それが、妻の一言で疲れはピークに達した。
『実家に帰るね』
まるで明日の天気を話すかのように言われたセリフ。その言葉を耳にした瞬間目の前が真っ暗になった気分だった。それから後のことはよく覚えていない……気がつけば朝になっていたんだ。ただ一つだけ確かなことがある。それは妻がいなくなってしまったという現実。そして、離婚の危機だという事だ。
目が覚めた俺が二人の住まいであるマンションを見渡すと、どうやら妻は出て行った後だった。慌てて部屋を粗探しすると妻の服などが数点なくなっている事に気づいた。
やはり、妻は実家に戻ったのだと確信した俺は急いで妻の実家に連絡をした。しかし繋がらなかった……何度もかけ直したが一向に出てくれなかった。
俺の頭に「離縁」の二文字が何度も浮かぶ。
いや、まさか。
いやいや、そんなはずは無い。
否定しても何度も「もしかすると」という思いが浮かび上がってくる。
信じたくない!!
消しても消しても浮上してくる「離婚」の文字。
一日考えてもまったく解決策が見出せなかった。グルグル回る思考。それでも朝が来る。俺は仕方なく仕事に向かう。
妻の最後の笑顔が頭から離れない。
俺との別れがそんなに嬉しいのか!?
鬱々した想いのまま仕事に取り掛かったのが悪かったのか、いつもなら起こる事のないミスを犯しトラブルが連発する始末。
マンションに帰る頃にはとっくに深夜になっていた。
灯のない暗い部屋。
人の気配がない部屋。
静かすぎる部屋。
それに耐えられない。
この世の終わりだ。
愛する妻が俺を捨てて実家に戻ってしまった。
何が起こったのかサッパリ解らない。
最近、仕事が忙しくて妻サービスを怠っていたのが原因だろうか?
繫忙期で夜遅くまで残業が続いたせいか?
帰る時間の手間を省くために会社の近くのホテルに泊まっていたから、それが不満だったのか?
でも、それは妻も納得していたことだ。「仕事なんだから仕方ない」と笑っていたのを覚えている。
だから俺に不満などはないはずだ。
とにかく俺は妻と連絡を取りたかった。
でも妻は電話に出てくれないし、メッセージを送っても返信してくれない。
妻の実家は日本だ。
俺とは国際結婚でイギリスに住んでいる。なので、直ぐに妻の実家に行ける距離ではない。繁忙期を過ぎたとはいえ依然と忙しい状況が続いているため長期休暇は申請できない。俺をリーダーとして任されているプロジェクトもある。
それに恐らく兄貴の許可を得られないのは必定だ。父同様に仕事の鬼だからな。
妻が出て行く前日の夜。
久しぶりの家。仕事に疲れて帰ってきた俺を妻は玄関で待っていてくれていた。その姿を一目見て喜び、疲労も一瞬で消し飛んだほどだった。
それが、妻の一言で疲れはピークに達した。
『実家に帰るね』
まるで明日の天気を話すかのように言われたセリフ。その言葉を耳にした瞬間目の前が真っ暗になった気分だった。それから後のことはよく覚えていない……気がつけば朝になっていたんだ。ただ一つだけ確かなことがある。それは妻がいなくなってしまったという現実。そして、離婚の危機だという事だ。
目が覚めた俺が二人の住まいであるマンションを見渡すと、どうやら妻は出て行った後だった。慌てて部屋を粗探しすると妻の服などが数点なくなっている事に気づいた。
やはり、妻は実家に戻ったのだと確信した俺は急いで妻の実家に連絡をした。しかし繋がらなかった……何度もかけ直したが一向に出てくれなかった。
俺の頭に「離縁」の二文字が何度も浮かぶ。
いや、まさか。
いやいや、そんなはずは無い。
否定しても何度も「もしかすると」という思いが浮かび上がってくる。
信じたくない!!
消しても消しても浮上してくる「離婚」の文字。
一日考えてもまったく解決策が見出せなかった。グルグル回る思考。それでも朝が来る。俺は仕方なく仕事に向かう。
妻の最後の笑顔が頭から離れない。
俺との別れがそんなに嬉しいのか!?
鬱々した想いのまま仕事に取り掛かったのが悪かったのか、いつもなら起こる事のないミスを犯しトラブルが連発する始末。
マンションに帰る頃にはとっくに深夜になっていた。
灯のない暗い部屋。
人の気配がない部屋。
静かすぎる部屋。
それに耐えられない。
この世の終わりだ。
62
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました
ミズメ
恋愛
感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。
これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。
とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?
重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。
○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる