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19.長男side
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父は母を愛し過ぎている。
それは僕達きょうだい全員が知っている事実だ。
いや、僕達だけじゃない。父上を知る者は、誰もが知っている。
「父上は母上にご執心で、母上以外の女性には見向きもしない」
「……それは、まあ、そうだね」
一つ下の弟も頷く。
「そして父上は、その……かなり嫉妬深い。母上に近付く男は全て敵だと思っている節がある」
「……うん」
これは僕だけでなく、他のきょうだい達も知っている事だろう。
何しろ僕達は皆、父から「くれぐれも」と釘を刺されている。
『いいか、お前達。母上は父のものなんだよ。僕はね、ちょっとばかし嫉妬深い』
そう最初に言われたのは、いつの事だっただろうか。
『だからもし、母上に近付く男がいたら、父に報告しなさい』
父はそう言って、僕達をぐるりと見渡した。
その目があまりにも恐ろしかったので、僕達は思わず頷いてしまった。
「父上の母上への愛情は、ちょっと異常だよね」
「ああ、異常だ」
弟の言葉に頷く。
「父上は母上に首ったけだよ。母上が望むなら何でも叶えようとするだろうし……。問題は母上がそれを自覚していないってことだと思う」
「そうだな」
これも僕達きょうだい全員が思っている事だ。
母は自分の事には無頓着だ。いや、恋愛感情に乏しいと言った方が正しいだろう。
「父上にあれだけ愛されているというのに、それに全く気付かない母上は、ある意味すごいよね」
「……だからこそ、父上と夫婦生活を営んでいられるんだろうが」
「まあ、そうなんだけどさ」
弟は肩を竦める。
「父上のあの執着を、母上は『ちょっと行き過ぎた』程度にしか思っていないんだろうね。……でもさ、僕達はそうもいかないじゃない?」
「……そうだな」
父は母を深く愛している。それこそ異常に。母の身に何かあれば、父は正気ではいられないだろう。何をするか分からないという意味で。
母は現在、第八子を妊娠中だ。
七人いる兄弟姉妹の中で誰一人母に似ている者はいない。
そう、全員父に似ているのだ。
決して性格が、ではない。
容姿が、だ。
『今度こそ……今度こそ、ソーニャに似た子を。ソーニャに似た女児を……いやダメだ。ソーニャに似た子なら嫁に出したくない。婿入り?ダメだダメだ。そこら辺にいる男と結婚なんてさせたくない。顔良し、性格良し、家柄よしの、僕よりも優秀な男でないと。ああ、でもなぁ……』
母に似た子を欲して神に祈りを捧げている様で文句を言っている父を思い出す。
願掛けしているようでそうではない。祈られている神も大変だろう。結局どっちなんだ、というやつだ。
「そういえば、王家から縁談がきていたこと兄上知ってた?」
「は?縁談?」
「うん。ほら、前に話したでしょ。王家から『ぜひに』って」
「ああ……そういえば、そんなこともあったな」
「あれね、父上が握り潰したらしいんだ」
「……は?」
僕は思わず弟を二度見する。弟は肩を竦めてみせた。
「兄上の時もそうだったよ。父上が握りつぶして無かったことにしたんだってさ」
「そうだったのか……」
「よっぽど王家と親戚になりたくないんだろうね」
「まあ……王家と親戚になるなんて、面倒極まりないだろうな」
「ねえ。だって今の王配って母上の元婚約者でしょう?そりゃあ、父上は嫌がるよね」
そうなのだ。
これは母上だけの話しではない。
女王陛下の姉。この国においてはタブーの存在になってしまった元王女は父の元婚約者だったらしい。
そんな曰く付きの王家との縁組に良い顔する者は公爵家にはいない。
それは僕達きょうだい全員が知っている事実だ。
いや、僕達だけじゃない。父上を知る者は、誰もが知っている。
「父上は母上にご執心で、母上以外の女性には見向きもしない」
「……それは、まあ、そうだね」
一つ下の弟も頷く。
「そして父上は、その……かなり嫉妬深い。母上に近付く男は全て敵だと思っている節がある」
「……うん」
これは僕だけでなく、他のきょうだい達も知っている事だろう。
何しろ僕達は皆、父から「くれぐれも」と釘を刺されている。
『いいか、お前達。母上は父のものなんだよ。僕はね、ちょっとばかし嫉妬深い』
そう最初に言われたのは、いつの事だっただろうか。
『だからもし、母上に近付く男がいたら、父に報告しなさい』
父はそう言って、僕達をぐるりと見渡した。
その目があまりにも恐ろしかったので、僕達は思わず頷いてしまった。
「父上の母上への愛情は、ちょっと異常だよね」
「ああ、異常だ」
弟の言葉に頷く。
「父上は母上に首ったけだよ。母上が望むなら何でも叶えようとするだろうし……。問題は母上がそれを自覚していないってことだと思う」
「そうだな」
これも僕達きょうだい全員が思っている事だ。
母は自分の事には無頓着だ。いや、恋愛感情に乏しいと言った方が正しいだろう。
「父上にあれだけ愛されているというのに、それに全く気付かない母上は、ある意味すごいよね」
「……だからこそ、父上と夫婦生活を営んでいられるんだろうが」
「まあ、そうなんだけどさ」
弟は肩を竦める。
「父上のあの執着を、母上は『ちょっと行き過ぎた』程度にしか思っていないんだろうね。……でもさ、僕達はそうもいかないじゃない?」
「……そうだな」
父は母を深く愛している。それこそ異常に。母の身に何かあれば、父は正気ではいられないだろう。何をするか分からないという意味で。
母は現在、第八子を妊娠中だ。
七人いる兄弟姉妹の中で誰一人母に似ている者はいない。
そう、全員父に似ているのだ。
決して性格が、ではない。
容姿が、だ。
『今度こそ……今度こそ、ソーニャに似た子を。ソーニャに似た女児を……いやダメだ。ソーニャに似た子なら嫁に出したくない。婿入り?ダメだダメだ。そこら辺にいる男と結婚なんてさせたくない。顔良し、性格良し、家柄よしの、僕よりも優秀な男でないと。ああ、でもなぁ……』
母に似た子を欲して神に祈りを捧げている様で文句を言っている父を思い出す。
願掛けしているようでそうではない。祈られている神も大変だろう。結局どっちなんだ、というやつだ。
「そういえば、王家から縁談がきていたこと兄上知ってた?」
「は?縁談?」
「うん。ほら、前に話したでしょ。王家から『ぜひに』って」
「ああ……そういえば、そんなこともあったな」
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「……は?」
僕は思わず弟を二度見する。弟は肩を竦めてみせた。
「兄上の時もそうだったよ。父上が握りつぶして無かったことにしたんだってさ」
「そうだったのか……」
「よっぽど王家と親戚になりたくないんだろうね」
「まあ……王家と親戚になるなんて、面倒極まりないだろうな」
「ねえ。だって今の王配って母上の元婚約者でしょう?そりゃあ、父上は嫌がるよね」
そうなのだ。
これは母上だけの話しではない。
女王陛下の姉。この国においてはタブーの存在になってしまった元王女は父の元婚約者だったらしい。
そんな曰く付きの王家との縁組に良い顔する者は公爵家にはいない。
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