上 下
15 / 23

15.執事side

しおりを挟む
 俺の家は代々公爵家に仕える執事の家系なんだ。
 つまりは俺も執事ということだ。

 元は王家に仕えていたらしい。
 なんでも王子がポカやらかした時に、生贄よろしく、全ての罪を被せられ処刑されそうになったのだとか。
 それを当時の公爵に助けられ、以降公爵に仕えるようになったのだ。
 流石の王家も公爵家相手に、そう強くでれなかったらしい。
 貴族ではなくなり、平民として生きていくことになったが、公爵家は先祖を執事として雇ってくれた。

 公爵家に恩義がある。

 だからこの公爵家に仇なすものは、何者であろうと潰す。
 あの王家から嫁が来なくなってホッとした者は多い。
 当然だ。
 あの王家の王女など碌なもんじゃない。
 偏見だと言われそうだが、先祖に濡れ衣を着せた一族をどうして好きになれようか。



「旦那様がお戻りになられました!」

 執事の一人がそういうと、俺を含め執事たちが急いで玄関に向かう。
 そして玄関を開け、主を迎えるのだ。

「おかえりなさいませ、旦那様」

「ただいま」

 我が主は執事の言葉に軽く頷くと、奥方の待つ部屋に向かう。
 今、奥方は妊娠中だ。
 出産予定日は一ヶ月ほど先だが、万が一があってはと、主は出産まで仕事を控えている。
 奥方に寄り添い、慈しむ姿は、まさに理想の夫だろう。




「すごいよな。旦那様は」

 同僚がそう呟く。

「なにが?」

「だって旦那様は、奥方様に首ったけだ」

「ああ」

 それは確かに。

「良いことじゃないか。公爵家は愛妻家だ」

「ああ、そうだけどな。でもちょっと変じゃないか?」

「なにがだ?」

「俺は結婚しているし、子供だっている。だから余計に思うのかもしれないが、旦那様は変だ」

「どこが?」

「だって、奥方様の具合が悪くなる前に医者を呼んだり、看護師を配置したり、奥方様のためのこの季節に採れない果物まで取り寄せたんだぞ」

「それだけ愛しているんだ」

 そうだ。
 傍で見ていても、主が奥方をどれだけ思っているか分かる。
 ちょっとばかり愛が深いが、それも見ていて微笑ましい。

「それに俺、最近になって気付いたことがあるんだ」

「なんだよ?」

「旦那様って元婚約者を本邸に招いたこと一回もなかったな、って……」

「え?そうだったか?」

「ああ。元婚約者の王女殿下は、いつも本邸ではなく別邸にばかり来ていた」

「そういえば……そうだったような……?」

 同僚の言葉に、俺も記憶を掘り起こす。
 確かに、本邸に元婚約者が来たことは一回もない?気がする。

「それって、旦那様は王女殿下のことが嫌いだったんじゃないか?だから本邸に招かなかったんじゃ……」

「かもしれないが、だからとて、別邸にばかり招いても別におかしくはないだろう。それにどちらかといえば王女殿下は王都の屋敷にばかり来ていたし……。あの王女殿下がわざわざ領地の中央にある本邸に足を運ぶようには思えないだろう?別邸の方が良かったんじゃないのか?」

「ああ……。それは確かに」

 元婚約者の王女殿下は、我儘で傲慢な方だった。
 本邸は、どちらかといえば質実剛健な造りになっている。
 王女殿下のご趣味に合わなかったのかもしれない。
 別邸は逆に、煌びやかな造りになっている。
 王女殿下は、そういう華やかなものがお好きだったのだろう。

 本邸に来たくなかったのかもしれない。

 兎にも角にも、主の奥方がソーニャ様であったことは俺達にしても喜ばしいことだ。


「奥方様って、本当に良い人だよな」

「そうだな」

 元婚約者は酷かったが、奥方様は良い方だ。
 我が公爵家に相応しいと、常々思う。
 奥方一筋で浮気もしない。純愛だ。
 だからこそ、公爵家は安泰だと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

国王陛下が愛妾が欲しいとおほざき遊ばすので

豆狸
恋愛
よろしい、離縁です! なろう様でも公開中です。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

今の幸せを捨て新たな幸せを求めた先にあったもの

矢野りと
恋愛
夫トウイ・アロークは13年間も連れ添った妻エラに別れを切り出す。 『…すまない。離縁してくれないか』 妻を嫌いになったわけではない、ただもっと大切にするべき相手が出来てしまったのだ。どんな罵倒も受け入れるつもりだった、離縁後の生活に困らないようにするつもりだった。 新たな幸せを手に入れる夫と全ての幸せを奪われてしまう妻。その先に待っていたのは…。 *設定はゆるいです。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

処理中です...