【完結】友人と言うけれど・・・

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
14 / 23

14.メイドside

しおりを挟む
「ねぇ、結婚する気はないかい?」

「は、はい?私がですか……?」

「そう。良い相手がいるんだよ。君に紹介したいと思ってね」

「……え、でも……あの……」

「ああ。心配しないで。君はこれからも妻に仕えてほしいからね」

「は、はぁ……」

「生まれてくる僕とソーニャの子供の乳母になって貰いたいんだ」

 まだ生まれてもいない子供のために乳母が用意されるって……。
 それを私にしたいって……。

 どんなムチャぶりなの!

「もちろん、良いよね?」

 笑顔で凄まれた。
 私は頷くしかなかった。
 断わる選択肢などない。


 運が良いことに夫になる人とその家族は、私を歓迎してくれた。
 夫は女性が働くことを推奨するタイプの男性で、私がそのままま奥方ソーニャ様付きのメイドとして働くことにも反対はしなかった。まあ、そうだろう。そうでなければローレンス様が結婚を勧めるはずもない。
 それにしても意外といえば意外な相手を紹介してきたものだと最初は驚いた。
 てっきり公爵家に代々仕える家柄の男性を紹介してくるものだとばかり思っていた。
 公爵家に長年仕える家柄なら、無難だし安心だ。裏切らない意味で。
 それなのに紹介された中立派閥の家。しかも子爵家の嫡男。



「ローレンス様、本当に婚家の仕来たりに沿わなくて宜しいのですか?」

「ああ、そういう約束だからね。まあ、そこそこ合わせないといけないけど。それでもガチガチに縛られることはないよ。契約書も交わしているしね。それに、向こうの家は代々王宮に勤める文官なんだけど、最近、どうも派閥内で浮いてしまっていてね。それが仕事に影響してるみたいなんだ。それもあって今の子爵は早期退職したくらいだから相当だよね。まあ、そういう訳でソーニャが働きにでるのは逆に喜ばしいことなんだよ。でも、夫妻には貯えもあるし、老後の面倒を見る必要はないよ」

「はい、それは義両親からも聞いています」

「なら良かった。そうそう、君の伴侶も一年以内に公爵家で雇うことが決まっているから、そこのところも安心していいよ。彼も一人居心地の悪い職場にいるのは可哀想だろう?」

「ありがとうございます。確かに、お酒を飲むと職場での愚痴を溢していました」

「ははは。そうだろうね。彼ら親子は優秀なんだけど人付き合いが下手でね。大方、仕事を押し付けられたり、困った案件を上司に押し付けられたりしていたんだろうさ。まあ、公爵家はそんなアホはいないけど」

「はい」

 いたら即座にクビだ。
 微笑みながらクビを言い渡すローレンス様の恐ろしさは、この屋敷で働く者なら誰でも知っている。

 かくして、ローレンス様の思惑通り私はメイドから乳母になり、そして夫はローレンス様の秘書になった。
 ソーニャ様とローレンス様の仲睦まじいお姿を見る度に、私は思う。
 この屋敷で一番幸せなのはローレンス様だと。
 恐ろしい主人ではあるが、ソーニャ様に対する愛は本物なのだ。


『君の情報のおかげで邪魔な男も排除できたし、人材の新規開拓もできた。これからもよろしくね』

 魔王ローレンスの声を聴かなかったフリをしながら、今日も私は奥方ソーニャ様のために働くのである。



しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?

しゃーりん
恋愛
結婚して3年、今日も旦那様が離婚してほしいと言い、ロザリアは断る。 いつもそれで終わるのに、今日の旦那様は違いました。 どうやら元婚約者と再会したらしく、彼女と再婚したいらしいそうです。 そうなの?でもそれを義両親が認めてくれると思います? 旦那様が出て行ってくれるのであれば離婚しますよ?というお話です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

私は何も知らなかった

まるまる⭐️
恋愛
「ディアーナ、お前との婚約を解消する。恨むんならお前の存在を最後まで認めなかったお前の祖父シナールを恨むんだな」 母を失ったばかりの私は、突然王太子殿下から婚約の解消を告げられた。 失意の中屋敷に戻ると其処には、見知らぬ女性と父によく似た男の子…。「今日からお前の母親となるバーバラと弟のエクメットだ」父は女性の肩を抱きながら、嬉しそうに2人を紹介した。え?まだお母様が亡くなったばかりなのに?お父様とお母様は深く愛し合っていたんじゃ無かったの?だからこそお母様は家族も地位も全てを捨ててお父様と駆け落ちまでしたのに…。 弟の存在から、父が母の存命中から不貞を働いていたのは明らかだ。 生まれて初めて父に反抗し、屋敷を追い出された私は街を彷徨い、そこで見知らぬ男達に攫われる。部屋に閉じ込められ絶望した私の前に現れたのは、私に婚約解消を告げたはずの王太子殿下だった…。    

処理中です...