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5.不機嫌な家族

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 誰が流しているのかは知らない。
 クルトとヴァルター男爵令嬢の恋模様が尾ひれをつけて、社交界を賑わせていた。
 そのせいもあってか、両親と兄三人の機嫌は悪い。
 どれだけ悪いかというと、メイナード公爵家にチクチクと嫌がらせをしてくるくらいに悪い。
 まあ、嫌がらせと言っても「婚約関係の家同士。親密なお付き合い(取引などを親族価格にしてある)を見合わせる」という程度。
 徐々に効いてくる嫌がらせ。
 きっとこれは母の提案だろう。


「クソッたれ!王家も王家だ!さっさと婚約解消に応じればいいもを!」

「まあまあ、兄さん。落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか!」

「今、父上達が交渉しているんだから」

「だがな……。いっそ闇討ちするか?」

「兄さん」と三兄が宥めても、次兄は怒りが収まらないらしい。
 気持ちはわかるけど、ね?
 闇討ちはダメ。絶対。それに……。

「闇討ちは無理よ」

「何故だ?」

「だって、クルトには王家の影が付いているんだもの」

「……チッ!」

 舌打ちした次兄は、ドカッとソファに座り込む。
 そう、クルトは最近、王家の影が付いた。
 最初はわからなかったけれど、我が家の護衛は優秀だ。
 すぐに影の存在に気が付いた。

 王家の影は優秀だ。
 そんな影がクルトに付いた。これは遂に来た、と思おう。

「うちの方から婚約破棄を申し込んでいるのだけれど……」

「それって難しいんじゃないかしら?」

「ええ、まあ、それでも彼の有責で解消になるでしょうね」

「王家はそれでいいの?」

 未来の娘婿が浮気で婚約解消って……十分、醜聞になるわ。

「いいんじゃないかしら?」

 あっけらかんと言う母に、私は呆気にとられた。
 母は何を言い出すのかと目を剝く私に気づかず話を続ける。

「あれでクルト君は優秀よ。むしろ、ちょっとした若気の至りがあった方が王家にとって都合が良いでしょうしね。彼のおかげで王女の噂が貴族の間では沈静化していることだし」

「……それは、王家の狙い通りってことですか?」

「そうでしょうね。まあ、これでクルト君は王家からの縁組を絶対に断れないわ。上手く王配になれて飼い殺しね。……メイナード公爵家も王家に逆らえないでしょうし。ソーニャ、暫くの間、彼らから距離を取っておきなさい」

「距離をですか?」

「ええ。今、顔を合わせるのはよくないわ」

「……わかりました」

 母の言い分も一理あるかもしれない。
 クルトと顔を合わせるたびに彼に付いている王家の影を意識せざる負えない。そのうえ、隣に寄り添うヴァルター男爵令嬢の姿が嫌でも目に入るのだ。
 疲れそう……。


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