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~北山の章~
第22話北山の姫君の厄介な事情
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「先ほどは大変お見苦しい処をお見せいたしまいました」
「いいえ、そのような。しかし、何故、この寺に女人が御出でなのですか?尼君もおられましたが…」
「ははは。尼の方は私の妹でございます。今は亡き按察使大納言の正妻だったのですが、夫亡き後は出家いたしまして、先頃、気鬱の病で山籠もりしております」
「年頃の姫がおられましたが、御息女でしょうか?」
「はい。按察使大納言の忘れ形見の姫です」
「随分、美しい姫君でした。都にいれば評判になったでしょう」
「……」
「なにかあったのですか?」
「はははは。中将殿は鋭いですな。実はさる皇族の方に見初められまして、求婚されておるのですが、宮様には既に妻子ある身で、その本妻がどうやら気性の激しい女人でして、婚姻の約束もしていないといいますのに、姫君に心無い振る舞いをされるのです。妹も姫君の身の安全を考え『病療養』を名目にこちらに移ってきた次第なのです。姫君はまだ十五歳。宮様の妻の一人になったところで苦労は目に見えております。かと申して、年頃の姫を他の殿方と目合わせる事も叶わず、ほとほと困っておるのです」
ん?
かなりの美少女だったから別に問題なくね?
蔵人の中将も僕と同じように首を傾げている。
うん、あんだけの美少女なら他に幾らでも縁組がありそうだもんね。
正妻は無理でもいい家柄の坊ちゃんの側室にはなれそうだ。
「失礼ながら、かの姫君ほど美しければお世話する者に事欠かないと思うのですが」
「それが…宮様が姫を見初めて妻にすると吹聴して、姫への求婚話は全く無くなりもうした。父方の親戚とも疎遠でありまして、母君である妹になにかあれば姫は一人になってしまいます。世間知らず若い娘が人知れずつまらない男に騙されたり、落ちぶれていったりする例は数多あります。それがなくとも、対面を保つことも出来ずに家財を売って食いつないだ末に尼になるしかない者もおります。だからといって、意に添わぬ結婚を強いるのも哀れで……世俗を捨てた身として不甲斐なくも悩みは尽きませぬ」
「なんと……」
僧都の真摯な言葉に蔵人の中将はもらい泣きしてるけどさ、あの女武将さながらのお姫様がそんな軟なもんか!
本妻を相手取って大太刀回りしそうだけど?
「分かり申した!ここで出会たのは何かの縁、私たちが姫君をお守りいたします」
うん?
わたしたち?
誰と誰の事かな?
蔵人の中将?
「おおおおお!これは有難い!二の宮様と蔵人の中将様の後ろ盾があれば心強うございます」
さり気なく僕の事も入れやがった。
「何時までも北山で籠っていた処で、問題を先延ばしにして、なんの解決にもならないと妹共々嘆いていた次第でございます。二の宮様と蔵人の中将様が姫を都にお連れくだされば、憂いなく過ごせるというものにございます」
「お任せください。して、その求婚してくる宮様とは、どちらの宮様なのでしょう?」
「はい。先帝の皇子。兵部卿の宮様でございます」
「なんと!兵部卿の宮は風流人として通っておられるかた。確か、皇族出身の妻を娶られていたはず。最近では奥方に子が生まれたと聞いたことがございます」
「はい。その方でございます」
「分かりました。私と二の宮様が必ず兵部卿の宮から姫をお守りいたします!」
「ありがとうございます」
蔵人の中将と僧都は手を取り合っている。
連帯感が生まれた模様。
僕の意見を無視して話がサクサクと進み終わってるけど、蔵人の中将、君、理解してる?僕たち僧都に姫君一同を押し付けられたんだよ?
「いいえ、そのような。しかし、何故、この寺に女人が御出でなのですか?尼君もおられましたが…」
「ははは。尼の方は私の妹でございます。今は亡き按察使大納言の正妻だったのですが、夫亡き後は出家いたしまして、先頃、気鬱の病で山籠もりしております」
「年頃の姫がおられましたが、御息女でしょうか?」
「はい。按察使大納言の忘れ形見の姫です」
「随分、美しい姫君でした。都にいれば評判になったでしょう」
「……」
「なにかあったのですか?」
「はははは。中将殿は鋭いですな。実はさる皇族の方に見初められまして、求婚されておるのですが、宮様には既に妻子ある身で、その本妻がどうやら気性の激しい女人でして、婚姻の約束もしていないといいますのに、姫君に心無い振る舞いをされるのです。妹も姫君の身の安全を考え『病療養』を名目にこちらに移ってきた次第なのです。姫君はまだ十五歳。宮様の妻の一人になったところで苦労は目に見えております。かと申して、年頃の姫を他の殿方と目合わせる事も叶わず、ほとほと困っておるのです」
ん?
かなりの美少女だったから別に問題なくね?
蔵人の中将も僕と同じように首を傾げている。
うん、あんだけの美少女なら他に幾らでも縁組がありそうだもんね。
正妻は無理でもいい家柄の坊ちゃんの側室にはなれそうだ。
「失礼ながら、かの姫君ほど美しければお世話する者に事欠かないと思うのですが」
「それが…宮様が姫を見初めて妻にすると吹聴して、姫への求婚話は全く無くなりもうした。父方の親戚とも疎遠でありまして、母君である妹になにかあれば姫は一人になってしまいます。世間知らず若い娘が人知れずつまらない男に騙されたり、落ちぶれていったりする例は数多あります。それがなくとも、対面を保つことも出来ずに家財を売って食いつないだ末に尼になるしかない者もおります。だからといって、意に添わぬ結婚を強いるのも哀れで……世俗を捨てた身として不甲斐なくも悩みは尽きませぬ」
「なんと……」
僧都の真摯な言葉に蔵人の中将はもらい泣きしてるけどさ、あの女武将さながらのお姫様がそんな軟なもんか!
本妻を相手取って大太刀回りしそうだけど?
「分かり申した!ここで出会たのは何かの縁、私たちが姫君をお守りいたします」
うん?
わたしたち?
誰と誰の事かな?
蔵人の中将?
「おおおおお!これは有難い!二の宮様と蔵人の中将様の後ろ盾があれば心強うございます」
さり気なく僕の事も入れやがった。
「何時までも北山で籠っていた処で、問題を先延ばしにして、なんの解決にもならないと妹共々嘆いていた次第でございます。二の宮様と蔵人の中将様が姫を都にお連れくだされば、憂いなく過ごせるというものにございます」
「お任せください。して、その求婚してくる宮様とは、どちらの宮様なのでしょう?」
「はい。先帝の皇子。兵部卿の宮様でございます」
「なんと!兵部卿の宮は風流人として通っておられるかた。確か、皇族出身の妻を娶られていたはず。最近では奥方に子が生まれたと聞いたことがございます」
「はい。その方でございます」
「分かりました。私と二の宮様が必ず兵部卿の宮から姫をお守りいたします!」
「ありがとうございます」
蔵人の中将と僧都は手を取り合っている。
連帯感が生まれた模様。
僕の意見を無視して話がサクサクと進み終わってるけど、蔵人の中将、君、理解してる?僕たち僧都に姫君一同を押し付けられたんだよ?
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