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12.公爵子息2

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地下室に閉じ込められて暫くすると、姉上が意識を取り戻したと父上から聞かされた。なのに僕は地下室に閉じ込められたままだ。

その数週間後に父上から有り得ない事を言われる。


「お前の婿入り先が決まった」

は!?
婿入り?
なんで?

「父上? 跡継ぎの僕がいなくなったら誰が公爵家を継ぐんですか?」

だってそうだろ?
公爵家には跡取りの男子が僕しかいないんだ。
僕の代わりなんていないはずだろう?

「……コリン、一体何を言っているんだ?お前が跡継ぎ?有り得ない話だ」
「え?」
「何故そんな勘違いをしているんだ。お前は庶子だぞ?嫡子のアレクサンドラがいるというのに、何故お前を跡継ぎにする必要があるんだ」
「だって、僕は男だし…姉上は王家に嫁ぐはずだったし…え?」
「はぁ~~~~~。そこからか。我が国の後継者は以外は、嫡子が跡を継ぐ決まりだ。アレクサンドラが王家に嫁ごうがそれは関係ない。アレクサンドラが産んだ第二子がヘッセン公爵家の次期当主になることは王家との契約でも決まっている!」
「で、でも母上が……」
「お前の母親は伯爵家の出だったが、余り賢くない部類だった。私としてはそこが可愛らしく思っていたのだが、勘違いもここまできてはな……。そのバカさ加減が日々の癒しになっていたし、私も可愛く思っていたものだが…」

なんで?
母上が言ったんだ!
僕がいずれ公爵家を継ぐんだって!

「お前が言いたいことは分かる。確かにお前の母親であるコーリアと私は学生時代に恋に落ち、別れることなく私はコーリアをに迎え入れた。
伯爵家の出身では正妻に出来なかったし、コーリアにはその素質もなかったからだ。コーリアがお前にを吹き込んでいたかは知らんが、おかしいとは思わなかったのか? 
コリン、私はお前に当主教育など施してこなかっただろう?
家庭教師から小言を貰おうと、私が一度でもお前に勉強しろと言ったことがあるか?ないだろう?学園での成績が中の下であっても文句を言った事も無かったはずだ。そもそも領地に一度も足を踏み入れた事のないお前に領地経営が出来ると思っていたのか?無理だろう?辛うじて高位貴族の振る舞いが出来るぐらいのお前が当主になどなれるわけがない」

はくはくと口は動くのに声が出ない。
それだけ衝撃だった。
出来の良い姉上に比べたら僕は出来損ないだと、密かに言われていた事は知っている。でも父上は僕がどんなに悪い成績でも怒る事が無かった。期待しているからだと、愛されているからだと、そう思っていた。
母上も言っていたんだ!!!
父上の正妻が王女だったせいで、母上は父上と結婚出来なかった。
病弱で結婚出来なかった年増の王女を、王命で父上が娶らざるを得なかったんだって。

「私とアレクサンドラの母親は王命での婚姻だった。だからといって愛情が無い訳ではないぞ?
私はセレーネ王女殿下を敬愛していた。体が弱い事を除けば、美しく聡明で、理想的な王族であった。王女殿下であるにも拘らず、気配り上手で謙虚であり、夫の私を常に立ててくれていた。妻としても母としても素晴らしい女性だった」

初めて聞く内容だった。
正妻である王女のことは母上からしか聞かなかったせいだろうか?
母上は、父上を奪った女だと。
体が弱いから他国に嫁ぐことも出来ないだとも言っていた。弟である国王陛下が憐れんで、父上に娶るように命じたのだとも。

「これ以上の勘違いがないように伝えておくが、仮令、アレクサンドラになにかあった不幸な出来事としても、お前が跡継ぎになる事はない。私の従弟の家系に後継が渡るだけだ。
もっとも、あのままアレクサンドラが儚くなってしまったら爵位どころか、国そのものがなくなっていただろうがな」
「父上……?」
「王家の正当な嫡出は、国王陛下ではなく、セレーネ王女殿下だ。彼女が亡くなった今は、アレクサンドラこそが正当な世継ぎといえる」
「え?」
「陛下のご生母は一介の女官だった。当時の王妃様が我が子同様に愛しまれ、養子にされたからこそ即位出来たのだ」

陛下は女官の子供?
嘘だ!
そんなこと習った覚えはない!

「知らなかったという顔だな。まあ、お前には教えていないが、高位貴族なら大抵が知っている話だ」
「で、殿下も?」
「……フリッツ殿下はご存知ないだろうな。知っていればアレクサンドラを蔑ろには出来なかったはずだ。父親の国王陛下だけでなく、自身にとっても王になるために必要不可欠な存在なのだから」
「???どういう」
「フリッツ殿下のご生母は伯爵家出身の側妃だ。弟の第二王子殿下は有力貴族である侯爵家出身の側妃を母に持つ身だ。当然、第二王子の方に軍配が上がる。だが、お二人は年も離れている上、婚約者がアレクサンドラだったからこそフリッツ殿下は王太子位にいられたんだ」

姉上が血筋の上ではフリッツ殿下より上だということは理解出来た。
でも家柄からしたら王子であるフリッツ殿下の方が上で、姉上は公爵令嬢だ。

「今回の騒動で、フリッツ殿下は廃嫡になった。そのうち毒杯を賜るだろう」
「そんな!!!」
「アレクサンドラに対して婚約破棄を宣言しただけでは飽き足らず、冤罪まで被せたのだぞ? 当然の結果だろう。寧ろ、温情を与えられたぐらいだ。この国の王族と貴族が寄ってたかってを害しようとしたのだからな」
「皇族…?」
「アレクサンドラのことだ。言ったであろう? セレーネ王女殿下は正妃の唯一の御子。先の王妃は帝国の皇女殿下だ。帝国は我が国と違って皇女にも皇位継承権がある。アレクサンドラも当然、継承順位を持っている。分かるか?コリン、お前たちはこの国よりも遥かに大国の皇位継承権を持つ皇族に無礼を働いたのだ。知らなかったで済む問題ではない」
「………っ」

知らなかった。知らなかったんだ!!!
姉上が皇族だったなんて!
父上が始めから教えてくれていたらこんな事にならなかったんだ!!!

「ここまで言っても、アレクサンドラに対する謝罪が出てこないとはな」
「……あ」
「まあよい。アレクサンドラを排除しようとしたくらいだ。自分達の立場どころか、我が国の国際的立場にすら思い至ることができなかったのも無理はない」
「ぼ、僕はそんなつもりは……」
「明後日には相手先の家が迎えの馬車を用意してくる。お前はなにも言わずに乗ればいい。それでしまいだ」
「……」
「お前の母親も実家の伯爵家に戻す」

目の前が真っ暗になるのを感じた。
数日前までは未来は明るかった。
それが今では真っ暗闇だ。
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