【完結】婚約破棄だと殿下が仰いますが、私が次期皇太子妃です。そこのところお間違いなきよう!

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
7 / 7

7話

しおりを挟む
 イオリが思った以上に機織りという仕事に造詣があると知ったグラバーは熱心に工場見学をさせてくれた。

 初期の機織り機が見たい。

 イオリの願いを叶える為に機織り達の小屋を出て、敷地の奥に向かう事になった。

 案内された広場では年老いたエルフの男女が若い職人に手解きをしているところだった。

「カロス、ダイダ、お邪魔しますよ。」

 気兼ねなく入っていくグラバーに2人の老エルフは何事かと顔を上げた。

「こちらのイオリ様は、ハニエル様とフェンバイン様もお認めになられた、大切なお客様です。
 是非、イオリ様に初期の織り機を見せて頂きたいのです。」

 2人は人族のイオリの周りにエルフのナギと獣人のラックとコーラルが纏わりついているのを見て、微笑んだ。

 「イオリ様、こちらは長年、職人を勤め上げられた御2人です。
 今は、若い職人を育てる事に尽力してくださっているんですよ。」

 突然やってきた人族の若者にも2人は挨拶をすると手招きしてくれた。

「皆が騒いでた人族だね。
 若い人。
 機織りに興味があるのかい?」

 グラバーを引き連れて近くの小屋に入っていったダイダを見送るとカロスは嬉しそうにイオリに椅子をすすめた。

「子供の頃、祖母が使っていました。」

「おや、それじゃ祖師様と故郷が同じなのかい?」

「祖師様?」

 カロスは楽しそうに頷いた。

「機織り機をルーシュピケにもたらした、かつての恩人の事さ。」

「もしかして、その方は十蔵という名ではないですか?」

「ふむ・・・。
 確かに、そんな名の響きだった気がするが・・・よく考えれば、ずっと祖師様としか呼んだ事がなかったな。
 そうだ、獣人のとこに医者がいるんだが、その夫が詳しいぞ。」

「キキ医師の旦那さんのグリーズさん?」

 確かに、歴史学者とキキ医師が言っていたのをイオリは思い出した。

「そう、その男だ。
 学者というらしい。
 もし、直接の話を聞きたければハニエルの爺様だな。
 あの人はワシらよりも500年は年寄りだからね。
 歴史の生き字引だよ。」

 国の成り立ちから知っているハニエル老が十蔵を直接知っている可能性があると聞いて、イオリは胸を高鳴らせた。

「お前さんも祖師様の事を知っていなさるのか?」

 カロスの問いかけにイオリは、どう答えればいいのか迷った。

「俺、アースガイルから来たんですよ。
 十蔵さんはアースガイルを建国した初代アースガイル王であるマテオ様の親友なんです。
 それで、折に触れて聞く名前なんですよ。」

「ほう、なんと なんとな。
 それは初めて聞いたな。
 学者の男が喜びそうな話だ。」

 「カカカっ」と笑うカロスの後ろからダイダが戻ってきた。

「人の子。
 これが、初期の織り機だよ。
 祖師様が己の手で作られた希少な物だから、大切に扱っておくれ。」

 ダイダが差し出すソレは、イオリが知っている機織り機よりも小さく抱えられる程しかない。
 しかし、それ以上に重く感じるのは時を重ねてきた先人の置き土産だったからかもしれない。
しおりを挟む
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

インク猫
2022.10.04 インク猫

半島と云うパワーワードが、想像を刺激し過ぎて笑えました

解除
nyanchan
2022.09.19 nyanchan

それで結局、ユリアはどうなったんですか?
書かれてないと思いますが…

解除
少女ハイジ
2022.08.23 少女ハイジ

半島の人は、特有の香りを醸し出しているのでしょう。

解除

あなたにおすすめの小説

真実の愛かどうかの問題じゃない

ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で? よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」

天使のように愛らしい妹に婚約者を奪われましたが…彼女の悪行を、神様は見ていました。

coco
恋愛
我儘だけど、皆に愛される天使の様に愛らしい妹。 そんな彼女に、ついに婚約者まで奪われてしまった私は、神に祈りを捧げた─。

婚約破棄?私、貴方の婚約者ではありませんけれど

oro
恋愛
「アイリーン・ヒメネス!私は今この場で婚約を破棄する!」 王宮でのパーティにて、突然そう高らかに宣言したこの国の第1王子。 名前を呼ばれたアイリーンは、ニコリと微笑んで言った。 「あらあらそれは。おめでとうございます。」 ※誤字、脱字があります。御容赦ください。

愛する人の手を取るために

碧水 遥
恋愛
「何が茶会だ、ドレスだ、アクセサリーだ!!そんなちゃらちゃら遊んでいる女など、私に相応しくない!!」  わたくしは……あなたをお支えしてきたつもりでした。でも……必要なかったのですね……。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

結婚式間近に発覚した隠し子の存在。裏切っただけでも問題なのに、何が悪いのか理解できないような人とは結婚できません!

田太 優
恋愛
結婚して幸せになれるはずだったのに婚約者には隠し子がいた。 しかもそのことを何ら悪いとは思っていない様子。 そんな人とは結婚できるはずもなく、婚約破棄するのも当然のこと。

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」 「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」  新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。  わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。  こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。  イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。  ですが――。  やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。 「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」  わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。  …………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。  なにか、裏がありますね。

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。 そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。 第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。 周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。