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53.秘密のペット
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偶々、婚約者であるチャスティー殿下が家族に内緒で猫を飼っているのを知ったのです。
だからこそ、祖父に報告をしただけのこと。
他意はございません。
私の言葉に、暫く無言だった祖父は、そのまま何も語らず、ただ一つ頷き、続きを促して来ました。
「殿下が王宮の外で野良猫を可愛がっていたようです。人見知りをしない猫で、可愛がっていたのは殿下だけではないようですが。ただ、殿下は可愛いあまり、王宮で秘密に飼い始めたようです」
「そうか」
「元々、餌付けしていた猫だったので騎士達を始め、殿下に仕えている使用人達は結託していた可能性が浮上しました」
「ふむ。……チャスティー殿下にも困ったものじゃ……」
「ご存知でしたか」
「当然だ。殿下を始めとした一部の学生が夢中になっていると報告が上がってた。もっとも、王宮にまで連れて来るとは予想外だったがな」
「そうですか」
やはりと言うべきでしょうか。
祖父は知っていました。
まぁ、ここ最近の殿下の行動を考えれば、致し方ないことですが。
「それで、ユースティティアはどうしたい?」
「殿下が飼うと決めたのなら、無理には止めません。殿下も色々と心労が絶えないでしょうから」
「そうか。お前がそういうなら、私は何も言わん」
「ただ、医者に診てもらって欲しいのです」
「……そこまで……。もしや……」
「はい。殿下は、その猫をとても可愛がっておられますわ。念には念をと申しますし、なにより、拾い猫が妙な病原体を持ち込んでいないとも限りません」
「他の者と一線を越えたという報告はない。……今のところは、な」
随分と含みのある言い方をします。
きっと時間の問題と言いたのでしょう。
どちらにしても一度、診てもらるべきでしょう。ええ、徹底的に。
「お祖父様、猫は犬と違って気まぐれな生き物ですわ。気付いたらその場に居なかったり、いつの間にか外に勝手に出ていたりしますもの」
「分かった。ユースティティアの進言だからな」
「ありがとうございます。お祖父様」
野良猫は病原菌を持っていたりしますからね。
殿下の為にも、猫を医者に診てもらうことは必要なことです。
お祖父様達もまだ処分をするつもりはないようですし。
殿下の愛猫、基、恋人の名前は、ラスト・ミレー。
「ミレー商会の息女でしたのね」
「実の娘ではありません。再婚相手の連れ子です」
「再婚……。隠し子ではないののよね?」
「はい、それは間違いありません。ただ……」
「ただ?」
「……再婚相手の女性は元は男爵の愛人だったようです」
「男爵?どこの男爵かしら?」
「ソル男爵です」
「ソル……、ああ、あの……」
ソル男爵は、爵位こそ低いけれど財力はそれなりある。
領地は王都から遠く、寂れた土地だったと記憶しているわ。それを今の男爵が立て直し、ソル男爵領を発展させたと。
「男爵の愛人がミレー商会の会長夫人に?」
「はい」
「それなら連れ子は男爵の子供ということかしら?」
私の質問にフィデは首を横に振った。
難しい顔をして、言いよどむ。
「違うの?」
「……隠し子ではない……と、思われます」
「歯切れが悪いわね」
珍しい。
フィデは、はっきりと物申すタイプだ。その彼が言いよどむなんて。
「ソル男爵の元愛人……ややこしいので、ミレー会長夫人とします。彼女は、元々、ミレー会長の愛人だったようです」
「……え?」
ミレー会長夫人は、ソル男爵の元愛人。
なのに、元々はミレー会長の愛人……。
「フィデ、ごめんなさい。まったく意味が分からないわ」
だからこそ、祖父に報告をしただけのこと。
他意はございません。
私の言葉に、暫く無言だった祖父は、そのまま何も語らず、ただ一つ頷き、続きを促して来ました。
「殿下が王宮の外で野良猫を可愛がっていたようです。人見知りをしない猫で、可愛がっていたのは殿下だけではないようですが。ただ、殿下は可愛いあまり、王宮で秘密に飼い始めたようです」
「そうか」
「元々、餌付けしていた猫だったので騎士達を始め、殿下に仕えている使用人達は結託していた可能性が浮上しました」
「ふむ。……チャスティー殿下にも困ったものじゃ……」
「ご存知でしたか」
「当然だ。殿下を始めとした一部の学生が夢中になっていると報告が上がってた。もっとも、王宮にまで連れて来るとは予想外だったがな」
「そうですか」
やはりと言うべきでしょうか。
祖父は知っていました。
まぁ、ここ最近の殿下の行動を考えれば、致し方ないことですが。
「それで、ユースティティアはどうしたい?」
「殿下が飼うと決めたのなら、無理には止めません。殿下も色々と心労が絶えないでしょうから」
「そうか。お前がそういうなら、私は何も言わん」
「ただ、医者に診てもらって欲しいのです」
「……そこまで……。もしや……」
「はい。殿下は、その猫をとても可愛がっておられますわ。念には念をと申しますし、なにより、拾い猫が妙な病原体を持ち込んでいないとも限りません」
「他の者と一線を越えたという報告はない。……今のところは、な」
随分と含みのある言い方をします。
きっと時間の問題と言いたのでしょう。
どちらにしても一度、診てもらるべきでしょう。ええ、徹底的に。
「お祖父様、猫は犬と違って気まぐれな生き物ですわ。気付いたらその場に居なかったり、いつの間にか外に勝手に出ていたりしますもの」
「分かった。ユースティティアの進言だからな」
「ありがとうございます。お祖父様」
野良猫は病原菌を持っていたりしますからね。
殿下の為にも、猫を医者に診てもらうことは必要なことです。
お祖父様達もまだ処分をするつもりはないようですし。
殿下の愛猫、基、恋人の名前は、ラスト・ミレー。
「ミレー商会の息女でしたのね」
「実の娘ではありません。再婚相手の連れ子です」
「再婚……。隠し子ではないののよね?」
「はい、それは間違いありません。ただ……」
「ただ?」
「……再婚相手の女性は元は男爵の愛人だったようです」
「男爵?どこの男爵かしら?」
「ソル男爵です」
「ソル……、ああ、あの……」
ソル男爵は、爵位こそ低いけれど財力はそれなりある。
領地は王都から遠く、寂れた土地だったと記憶しているわ。それを今の男爵が立て直し、ソル男爵領を発展させたと。
「男爵の愛人がミレー商会の会長夫人に?」
「はい」
「それなら連れ子は男爵の子供ということかしら?」
私の質問にフィデは首を横に振った。
難しい顔をして、言いよどむ。
「違うの?」
「……隠し子ではない……と、思われます」
「歯切れが悪いわね」
珍しい。
フィデは、はっきりと物申すタイプだ。その彼が言いよどむなんて。
「ソル男爵の元愛人……ややこしいので、ミレー会長夫人とします。彼女は、元々、ミレー会長の愛人だったようです」
「……え?」
ミレー会長夫人は、ソル男爵の元愛人。
なのに、元々はミレー会長の愛人……。
「フィデ、ごめんなさい。まったく意味が分からないわ」
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