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46.精神科医side ~心の闇1~
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ブレーメン診療所。
この診療所は特殊だ。
そもそも診療所というには規模が大き過ぎる。一つの町では?と言いたくなるくらい、広い。小さな町でいいのではないだろうかと思ってしまう。広大な敷地の中に、診療所の他にも学校や他の病院、図書館、音楽ホール、商業施設など、様々な建物がある。
「こんにちは、エンビーちゃん」
「こんにちは、アシヌス先生」
「今日はどうだった?」
優しく尋ねるアシヌス先生に対して、患者の少女は楽しそうに今日あった出来事を話し始める。
「それでね、それでね」
「うんうん、友達もできたようだね。良かった」
「皆が学校を案内してくれたの!給食でもね、嫌いなピーマンを食べられたのよ!すごいでしょう!」
「本当に?」
「うん!ニンジンもね、食べられたの!」
「すごい!」
「ね、すごいでしょう!友達と一緒に食べてたらいつの間にか口にしてたの!びっくりしちゃった!」
知らない人が見れば祖父と孫の会話に思えるだろう。しかも、アシヌス先生は「えらい、えらい」と少女の頭を撫でる。撫でられて嬉しいのか少女は「えへへへへ」と笑っている。
年齢に見合わない拙い喋り方。幼い言動の数々。
幼児退行と記憶障害。
それが少女が患った病。
少女の精神は七歳まで退行した。伯爵家に行く前に戻り、今の彼女は伯爵家で過ごした日々は綺麗に忘れ去った。いや、忘れたというよりも伯爵夫人との思い出は実母との思い出にすり替わった。とはいえ、母親はアレだ。少女は記憶喪失というわけではない。だから過去の記憶でおかしな点はその都度修正し直されている……らしい。
「あ!お迎えの時間が来たわ!」
「おや?もうそんな時間か。それじゃあ、エンビーちゃん。また明日」
「うん!またね、アシヌス先生!」
大きく手を振って少女は出て行く。
毎日、診察に訪れる少女。
彼女は要観察者だ。
少女の様子を見て、アシヌス先生は顎に手を当てて考え始める。
「うーん、どうやら今のところ、症状は落ち着いているようだね」
「こちらに来てから発作も起きなくなった聞いていますが……」
「そうだね。でも、エンビーちゃんの場合はやはり特殊だからね。ちょっとしたことで悪化することもあり得るんだよ。ピスキス君も気を付けてあげて欲しい」
「はい」
「エンビーちゃんの心は七歳で止まったままだ。精神が体に引っ張られている状態だからね。ちょっとしたことで不安定になる。子供は我々が思っている以上に敏感なものだからね」
「……そう、ですね」
好々爺とした表情で話すアシヌス先生の言葉に、私は静かに頷いて応える。
こうしていると、優しいおじいさんにしか見えない人だ。本当に人は見かけによらない。心理学の世界的権威、アシヌス先生がまさか地方都市に居るとは。
まあ、ここの環境が特殊なせいか、おかしいとは思わなかった。もっとも、この施設を知らない者からすれば、何故、田舎にいるのかと首を傾げるだろう。
腐れ縁の女医師からの紹介だ。
あいつがアシヌス先生の教え子だとは知らなかった。
早く言え!と何度心の中で叫んだことか!
はぁ……。
疲れる。別の意味であいつの相手は疲れるんだ。
まさか、あいつが……フェリスの言っていたことが当たっていたとは……。
亡くなった患者の弟。
少女の闇は思っていた以上に深かった。
****
今更ながら精神科の先生の名前を出させていただきました。
女医の名前も!
ちょい役と考えていたのですが、意外と重要人物となってしまいました。
この診療所は特殊だ。
そもそも診療所というには規模が大き過ぎる。一つの町では?と言いたくなるくらい、広い。小さな町でいいのではないだろうかと思ってしまう。広大な敷地の中に、診療所の他にも学校や他の病院、図書館、音楽ホール、商業施設など、様々な建物がある。
「こんにちは、エンビーちゃん」
「こんにちは、アシヌス先生」
「今日はどうだった?」
優しく尋ねるアシヌス先生に対して、患者の少女は楽しそうに今日あった出来事を話し始める。
「それでね、それでね」
「うんうん、友達もできたようだね。良かった」
「皆が学校を案内してくれたの!給食でもね、嫌いなピーマンを食べられたのよ!すごいでしょう!」
「本当に?」
「うん!ニンジンもね、食べられたの!」
「すごい!」
「ね、すごいでしょう!友達と一緒に食べてたらいつの間にか口にしてたの!びっくりしちゃった!」
知らない人が見れば祖父と孫の会話に思えるだろう。しかも、アシヌス先生は「えらい、えらい」と少女の頭を撫でる。撫でられて嬉しいのか少女は「えへへへへ」と笑っている。
年齢に見合わない拙い喋り方。幼い言動の数々。
幼児退行と記憶障害。
それが少女が患った病。
少女の精神は七歳まで退行した。伯爵家に行く前に戻り、今の彼女は伯爵家で過ごした日々は綺麗に忘れ去った。いや、忘れたというよりも伯爵夫人との思い出は実母との思い出にすり替わった。とはいえ、母親はアレだ。少女は記憶喪失というわけではない。だから過去の記憶でおかしな点はその都度修正し直されている……らしい。
「あ!お迎えの時間が来たわ!」
「おや?もうそんな時間か。それじゃあ、エンビーちゃん。また明日」
「うん!またね、アシヌス先生!」
大きく手を振って少女は出て行く。
毎日、診察に訪れる少女。
彼女は要観察者だ。
少女の様子を見て、アシヌス先生は顎に手を当てて考え始める。
「うーん、どうやら今のところ、症状は落ち着いているようだね」
「こちらに来てから発作も起きなくなった聞いていますが……」
「そうだね。でも、エンビーちゃんの場合はやはり特殊だからね。ちょっとしたことで悪化することもあり得るんだよ。ピスキス君も気を付けてあげて欲しい」
「はい」
「エンビーちゃんの心は七歳で止まったままだ。精神が体に引っ張られている状態だからね。ちょっとしたことで不安定になる。子供は我々が思っている以上に敏感なものだからね」
「……そう、ですね」
好々爺とした表情で話すアシヌス先生の言葉に、私は静かに頷いて応える。
こうしていると、優しいおじいさんにしか見えない人だ。本当に人は見かけによらない。心理学の世界的権威、アシヌス先生がまさか地方都市に居るとは。
まあ、ここの環境が特殊なせいか、おかしいとは思わなかった。もっとも、この施設を知らない者からすれば、何故、田舎にいるのかと首を傾げるだろう。
腐れ縁の女医師からの紹介だ。
あいつがアシヌス先生の教え子だとは知らなかった。
早く言え!と何度心の中で叫んだことか!
はぁ……。
疲れる。別の意味であいつの相手は疲れるんだ。
まさか、あいつが……フェリスの言っていたことが当たっていたとは……。
亡くなった患者の弟。
少女の闇は思っていた以上に深かった。
****
今更ながら精神科の先生の名前を出させていただきました。
女医の名前も!
ちょい役と考えていたのですが、意外と重要人物となってしまいました。
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