40 / 90
40.精神科医side ~問題の親1~
しおりを挟む
「母親が最大の問題だったとは……」
本当なら、入院して本格的に治療を施した方がいいのに、世間体を気にして拒否している。娘が精神科に通院していると知って心配するどころか「恥ずかしい。私の娘なのに!」と叫んでいた。どんだけ頭が良いのか知らないけど、母親失格だ。本当に、呆れるしかない。娘は自分の分身で、自分の所有物とでも考えてそうなタイプだ。
現に、患者の母親であるラース副団長夫人が病院に怒鳴り込んで来た時――
『貴方のせいよ!』
『アンビー……』
『貴方がちゃんとあの子を躾けないから、こうなったのよ! あの子の所為で私の評判まで下がる一方よ!』
『……』
『どうして問題ばかり起こす悪い子になったの!?私の子なのにおかしいじゃない!』
『……』
『私の期待を裏切ってばかり!あんなに出来が悪いなんて、貴方に似たせいだわ』
暴言を言い続けるラース副団長夫人に呆れるしかない。
自分の娘だろうに。
子供の教育は片方に丸投げしていいものじゃない。それをせずして文句ばかり。この人は何様だ?
その後も延々と夫と娘に対する不満を垂れ流していた。
お陰で病院内は「あの女性はやばい」と、話題が持ちきりだった。
「実に興味深い女性でしたね」
「母親になれない人だな。いや、なってはいけないタイプだ。よくいるタイプではあるが」
「いますか?暴言ばかりでしたよ?あそこまで家族を罵るのは異常だと思います」
「まあ、旦那に離婚を申し込まれて、そのうえ、娘が精神科に通院なんだ。怒りが爆発したんだろう」
「それにしたって……」
「副団長も言ってただろ?『妻はプライドの高い女性だから』って。理想も高かったんだろう」
「理想ですか?」
「ああ、自分の望んだ理想の家庭っていうのがね。だが現実は違う」
「それで、あんな感じに……」
最初は、伯爵家に数年娘を預けたので親子としての関係の構築ができないのだと思っていた。
親が親になりきれない。
当然だ。子供を育てていないのだから。
けれど……。
あのタイプの女性を妻に持ったんじゃ、遅かれ早かれ家庭は崩壊していたのでは? そう思えた。
「自分は悪くない。悪いのは全部、夫や子供の所為」とでも言いたげな態度だった。
子供の癇癪か?
患者は間違いなくこの女性の娘だと確信したよ。責任転換するところとか。
もし、もしもだ。
夫人が娘が家に戻ってきた段階で、家族としてちゃんと娘と向き合っていたら。
王宮での仕事を辞めて、家族と共に過ごしていれば。
色んな「もしも」を考慮しても、やはり最後は破綻していたとしか思えない。
夫人は自分の思い通りにならない環境が我慢ならないのだ。
だから、娘も夫も、夫人にとっては『思い通りの理想の存在』にしたかった。もしくはソウであって欲しかった。
これは想像だが、恐らく、夫人の理想としては、『王宮務めになった自分を応援してくれる社会的に地位の高い夫。離れていても高位貴族並の女性に育っている美しい娘』。これが一番の理想だった筈だ。
だが予想外のことが起こり、娘は脱落した。
ならば、『母の留守を守るしっかり者の出来の良い娘』を目指そうとしたのだろう。
だがそれもダメだった。
そもそも離れて暮らしているんだ。「そうなってくれるはず」なんていう願望の押し付けは無理だ。家で洗脳教育を施すのなら兎も角。夫人に至っては「自分の子供なら優秀」と思い込んでいる。「理想の娘に育てる手間暇」を一切かけていない点でお察しの案件だった。
『私の子なのに!』
娘を所有物と思っているうえに、夫人の理想は高すぎた。
それが問題なのだ。
理想と現実の差が激し過ぎる。
「母親との面会は禁止だな」
本当なら、入院して本格的に治療を施した方がいいのに、世間体を気にして拒否している。娘が精神科に通院していると知って心配するどころか「恥ずかしい。私の娘なのに!」と叫んでいた。どんだけ頭が良いのか知らないけど、母親失格だ。本当に、呆れるしかない。娘は自分の分身で、自分の所有物とでも考えてそうなタイプだ。
現に、患者の母親であるラース副団長夫人が病院に怒鳴り込んで来た時――
『貴方のせいよ!』
『アンビー……』
『貴方がちゃんとあの子を躾けないから、こうなったのよ! あの子の所為で私の評判まで下がる一方よ!』
『……』
『どうして問題ばかり起こす悪い子になったの!?私の子なのにおかしいじゃない!』
『……』
『私の期待を裏切ってばかり!あんなに出来が悪いなんて、貴方に似たせいだわ』
暴言を言い続けるラース副団長夫人に呆れるしかない。
自分の娘だろうに。
子供の教育は片方に丸投げしていいものじゃない。それをせずして文句ばかり。この人は何様だ?
その後も延々と夫と娘に対する不満を垂れ流していた。
お陰で病院内は「あの女性はやばい」と、話題が持ちきりだった。
「実に興味深い女性でしたね」
「母親になれない人だな。いや、なってはいけないタイプだ。よくいるタイプではあるが」
「いますか?暴言ばかりでしたよ?あそこまで家族を罵るのは異常だと思います」
「まあ、旦那に離婚を申し込まれて、そのうえ、娘が精神科に通院なんだ。怒りが爆発したんだろう」
「それにしたって……」
「副団長も言ってただろ?『妻はプライドの高い女性だから』って。理想も高かったんだろう」
「理想ですか?」
「ああ、自分の望んだ理想の家庭っていうのがね。だが現実は違う」
「それで、あんな感じに……」
最初は、伯爵家に数年娘を預けたので親子としての関係の構築ができないのだと思っていた。
親が親になりきれない。
当然だ。子供を育てていないのだから。
けれど……。
あのタイプの女性を妻に持ったんじゃ、遅かれ早かれ家庭は崩壊していたのでは? そう思えた。
「自分は悪くない。悪いのは全部、夫や子供の所為」とでも言いたげな態度だった。
子供の癇癪か?
患者は間違いなくこの女性の娘だと確信したよ。責任転換するところとか。
もし、もしもだ。
夫人が娘が家に戻ってきた段階で、家族としてちゃんと娘と向き合っていたら。
王宮での仕事を辞めて、家族と共に過ごしていれば。
色んな「もしも」を考慮しても、やはり最後は破綻していたとしか思えない。
夫人は自分の思い通りにならない環境が我慢ならないのだ。
だから、娘も夫も、夫人にとっては『思い通りの理想の存在』にしたかった。もしくはソウであって欲しかった。
これは想像だが、恐らく、夫人の理想としては、『王宮務めになった自分を応援してくれる社会的に地位の高い夫。離れていても高位貴族並の女性に育っている美しい娘』。これが一番の理想だった筈だ。
だが予想外のことが起こり、娘は脱落した。
ならば、『母の留守を守るしっかり者の出来の良い娘』を目指そうとしたのだろう。
だがそれもダメだった。
そもそも離れて暮らしているんだ。「そうなってくれるはず」なんていう願望の押し付けは無理だ。家で洗脳教育を施すのなら兎も角。夫人に至っては「自分の子供なら優秀」と思い込んでいる。「理想の娘に育てる手間暇」を一切かけていない点でお察しの案件だった。
『私の子なのに!』
娘を所有物と思っているうえに、夫人の理想は高すぎた。
それが問題なのだ。
理想と現実の差が激し過ぎる。
「母親との面会は禁止だな」
1,608
お気に入りに追加
3,255
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。


〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。
そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。
母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。
アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。
だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。

どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください

【完結】最後に貴方と。
たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。
貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。
ただそれだけ。
愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。
◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします
◆悲しい切ない話です。

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる