伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子

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13.立場

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 伯爵邸に戻り、事のあらましを聞き終わった父は、今更ながら彼女の立場を明確にした。

 プライド伯爵家の実子の如く振る舞っていたエンビー嬢。
 お母様のお気に入りの彼女を無下に出来ないと、彼女の我が儘……というよりも母の我が儘を容認してきたお父様が……。

 明日は嵐になるのではないかしら?

「宜しいのですか?お父様」

「勿論だとも」

「お母様にはどのようにご説明なさるのですか?」

「ん?ありのままだよ」

「……納得するでしょうか?お母様が」

「それは分からない。だが、僕は嘘が下手でね」

「……」

 父のことです。
 きっと事実を上手に話すのでしょう。
 嘘は一言も言わずに。
 相手の望むような話し方で丸め込む。
 丸め込まれた相手が気付くことは無いのでしょう。
 単純な母ならば特に。

 有言実行。
 父はその日のうちにエンビー嬢を使用人部屋に追いやりました。
 使用人部屋と言っても、彼女は『見習いメイド』です。
 貴族に連なる家柄。
 騎士爵家出身と言えども、だ。
 なので彼女は『中級使用人』のいる個室に入ることになりました。

 次の日にはメイド服に身を包んだエンビー嬢が、使用人の皆さんに紹介されました。

「彼女はメイド見習いとして働いて貰うことになった。皆、仲良くしてやって欲しい」

 にこやかな父の言葉に、皆は快く受け入れてくれました。内心ではどう思っているかは知りませんが。
 展開の速さに付いていけていないのは母とエンビー嬢の二人だけ。

 唖然と立ち尽くしているエンビー嬢は事態の把握が全くできていません。
 彼女の横に居た母は、父の言葉を理解したのか、その場に崩れ落ちました。

 フィデ執事が使用人に指示を出し、母を自室へと運びました。
 よほどショックだったのでしょう。
 一人では歩くことすらままならない状態でした。

 そんな憐れな母の姿を見送っていると、フィデが私の元にやってきました。

「ようございました。奥様のエンビー嬢に対する態度は目に余るものがございましたので。旦那様が覚醒なされて、本当に良かったです」

 覚醒……物凄い言いよう。
 ふと、周囲の使用人達も同意しているようで、何度も頷いています。
 エンビー嬢は自分に向けられている非難の視線に気付いた様子はありませんでした。
 
 どこまでも鈍感な方なのですね。
 
 彼女にメイドが務まるのかは甚だ疑問ですが、お父様の様子から何かしらの対策が講じられるでしょう。

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