2 / 7
第2話噂1
しおりを挟む
『秘密よ、秘密――――』
母から繰り返し聞かされた話。
魔王討伐後、勇者は王女と結ばれて子供をもうけたという。
俺の異母兄弟たちだ。
噂じゃあ、彼らは勇者の力を受け継がなかったらしい。
そのせいで勇者の国は今大変らしい。
全く馬鹿にした話だ。
世界を救った勇者の国ということで散々他国を馬鹿にしていた。
勇者たちの力が弱くなる前は有りえない金額で魔獣討伐を請け負っていたと聞いたことがある。まあ、討伐していたのは勇者だろうが。
「おい、聞いたか?」
「どうした、血相変えて」
「例の国、本格的にヤバイらしいぞ!」
「はぁ!?今でも十分ヤバイだろ……」
「いや!そうじゃない。国王がとうとう死にかけてるって話だ」
「……あの国の国王ってことは……勇者か……」
「ああ、元勇者の王様だ」
酒場っていうのはこういう時に便利だ。
冒険者ギルドのたまり場になっているような店は、特に。こうやって食事しているだけで勝手に情報が入ってくる。
「確か数年前から病気で床に伏せっているって話は聞いていたが……」
「王妃が毒を盛ってるんじゃないかって噂だ」
「マジかよ!?」
「ああ、勇者の国じゃあ、結構有名らしいぜ」
「はぁ~~~っ……なんだってまたそんなことを。王妃っていやあ、元々王女様だろ?旦那に毒盛ったところで何になるんだよ。理由なんてないだろ?」
「いや、それがあるらしい。なんでも王妃の産んだ子供ってのが勇者の血を引いていないかららしいぜ」
「おいおいおい……穏やかじゃねえなぁ……」
「だろ?」
俺は食べていたスープの匙を止めると、話していた二人の男を見る。
冒険者がたむろっている場所だ。
情報は多い。
その分、噂話も多い。
嘘か本当か分からない噂話はそこらかしこに転がっている。
なにが嘘でなにが本当か。
それを精査するのも冒険者の技量のうちだ。
情報の精査は、己が命を守るために必要なこと。
「悪いがその話、詳しく聞かせてくれないか?」
「あ、ああ……。あんたS級の冒険者グレイか」
「そうだ。話が聞こえて気になってな」
二人の男は顔を見合わせると、頷く。
「…………本当はあんまり大きな声では言えねえんだけどよ。それに噂だ……」
「ああ、別にかまわないぜ。ここじゃあ、情報の共有が大事だ。噂話も、な。だから、どんな話でも俺は聞くぜ」
「そうか……なら話すけどよ……」
男の一人は声を潜めて話し出した。
「実はよ……王妃が産んだ子供ってのは、勇者との間の子供じゃないらしい。元々、王女には恋仲の相手がいやがった。相手も貴族らしいが、王女様と結婚するには身分が足りなかったみたいだ。勇者パーティーのメンバーに選ばれてれば、まぁ事情は変わったんだろうがな。……残念な結果だったわけだ」
どうやら相手の男は大して実力のある男ではなかったようだ。
勇者パーティーメンバーになろうとしたんだ。文官ではなく武官か。
だが王女の相手となると限られているはず。護衛の騎士とかか?
「結局、王女は勇者と結婚したわけだが、王女は男と切れてなかったんだと。勇者っていっても元は平民だ。王城の連中にしたってどうせなら貴族の血を引く男のほうが幾分マシだったらしいな。王女の不貞を見て見ぬふりしてたみたいだ」
「なるほど。だが勇者の子供って可能性もあるだろ?」
「いや、それはねぇ」
「なぜだ?」
「王女の産んだ子供が全員、間男に似ちまってるんだとさ!」
「それは誤魔化せないくらいにか?」
「ああ、そうらしい。せめて王女に似てたら誤魔化せたんだろうがな」
「それにしても、なんで今まで噂にならなかったんだ?勇者にも王女にも似ていない子供なら、話が回ってきてもおかしくないっていうのに」
「ああ、それな。笑える話だが、どうやら勇者は子供たちは全員実子だと疑っていなかったらしいぜ」
ああ、なるほど。
それでか。
「知らないのは本人だけってな。最近になってやっと、自分の子供じゃないって分かったらしい」
「遅いな……」
「ま、純朴な平民男なんて王族や貴族のお姫様の手のひらの上ってな。あっという間に騙されるってやつさ」
「民衆も知ってたんだろ?」
「まあな。噂はそもそも王城の下働きから広まったらしい。でもって、勇者が病気で床に伏せったのと同時期に、王妃が毒を盛っているって噂が立ったってわけだ。王様の勇者は後継者の指名をしていないからな。それが理由じゃないかってのが専らの噂だ。なにしろ、王妃は一人娘ってわけじゃない。他に大勢の兄弟姉妹がいるんだ。たまたま『聖女』でたまたま『英雄の勇者の妻』になったから『王妃』になれただけだからな」
「王太子決めてなかったのか……」
「珍しいよな。間男の子だとしても王太子にしちまってたら跡目争いで揉めなかっただろうに……。まあ、先代の王様が『勇者の力を受け継いだ息子に跡目を譲る』って遺言を作り変えていたらしいからな……。流石に遺言を無視するってことはできなかったんだろうよ」
「なるほどな」
「ま、それでも噂は噂だ。どこまでが本当なのか分かったもんじゃねえが、火のないところに煙はたたねえっていうだろ?」
「ああ」
俺は二人の男に礼を言い、店を後にした。
母から繰り返し聞かされた話。
魔王討伐後、勇者は王女と結ばれて子供をもうけたという。
俺の異母兄弟たちだ。
噂じゃあ、彼らは勇者の力を受け継がなかったらしい。
そのせいで勇者の国は今大変らしい。
全く馬鹿にした話だ。
世界を救った勇者の国ということで散々他国を馬鹿にしていた。
勇者たちの力が弱くなる前は有りえない金額で魔獣討伐を請け負っていたと聞いたことがある。まあ、討伐していたのは勇者だろうが。
「おい、聞いたか?」
「どうした、血相変えて」
「例の国、本格的にヤバイらしいぞ!」
「はぁ!?今でも十分ヤバイだろ……」
「いや!そうじゃない。国王がとうとう死にかけてるって話だ」
「……あの国の国王ってことは……勇者か……」
「ああ、元勇者の王様だ」
酒場っていうのはこういう時に便利だ。
冒険者ギルドのたまり場になっているような店は、特に。こうやって食事しているだけで勝手に情報が入ってくる。
「確か数年前から病気で床に伏せっているって話は聞いていたが……」
「王妃が毒を盛ってるんじゃないかって噂だ」
「マジかよ!?」
「ああ、勇者の国じゃあ、結構有名らしいぜ」
「はぁ~~~っ……なんだってまたそんなことを。王妃っていやあ、元々王女様だろ?旦那に毒盛ったところで何になるんだよ。理由なんてないだろ?」
「いや、それがあるらしい。なんでも王妃の産んだ子供ってのが勇者の血を引いていないかららしいぜ」
「おいおいおい……穏やかじゃねえなぁ……」
「だろ?」
俺は食べていたスープの匙を止めると、話していた二人の男を見る。
冒険者がたむろっている場所だ。
情報は多い。
その分、噂話も多い。
嘘か本当か分からない噂話はそこらかしこに転がっている。
なにが嘘でなにが本当か。
それを精査するのも冒険者の技量のうちだ。
情報の精査は、己が命を守るために必要なこと。
「悪いがその話、詳しく聞かせてくれないか?」
「あ、ああ……。あんたS級の冒険者グレイか」
「そうだ。話が聞こえて気になってな」
二人の男は顔を見合わせると、頷く。
「…………本当はあんまり大きな声では言えねえんだけどよ。それに噂だ……」
「ああ、別にかまわないぜ。ここじゃあ、情報の共有が大事だ。噂話も、な。だから、どんな話でも俺は聞くぜ」
「そうか……なら話すけどよ……」
男の一人は声を潜めて話し出した。
「実はよ……王妃が産んだ子供ってのは、勇者との間の子供じゃないらしい。元々、王女には恋仲の相手がいやがった。相手も貴族らしいが、王女様と結婚するには身分が足りなかったみたいだ。勇者パーティーのメンバーに選ばれてれば、まぁ事情は変わったんだろうがな。……残念な結果だったわけだ」
どうやら相手の男は大して実力のある男ではなかったようだ。
勇者パーティーメンバーになろうとしたんだ。文官ではなく武官か。
だが王女の相手となると限られているはず。護衛の騎士とかか?
「結局、王女は勇者と結婚したわけだが、王女は男と切れてなかったんだと。勇者っていっても元は平民だ。王城の連中にしたってどうせなら貴族の血を引く男のほうが幾分マシだったらしいな。王女の不貞を見て見ぬふりしてたみたいだ」
「なるほど。だが勇者の子供って可能性もあるだろ?」
「いや、それはねぇ」
「なぜだ?」
「王女の産んだ子供が全員、間男に似ちまってるんだとさ!」
「それは誤魔化せないくらいにか?」
「ああ、そうらしい。せめて王女に似てたら誤魔化せたんだろうがな」
「それにしても、なんで今まで噂にならなかったんだ?勇者にも王女にも似ていない子供なら、話が回ってきてもおかしくないっていうのに」
「ああ、それな。笑える話だが、どうやら勇者は子供たちは全員実子だと疑っていなかったらしいぜ」
ああ、なるほど。
それでか。
「知らないのは本人だけってな。最近になってやっと、自分の子供じゃないって分かったらしい」
「遅いな……」
「ま、純朴な平民男なんて王族や貴族のお姫様の手のひらの上ってな。あっという間に騙されるってやつさ」
「民衆も知ってたんだろ?」
「まあな。噂はそもそも王城の下働きから広まったらしい。でもって、勇者が病気で床に伏せったのと同時期に、王妃が毒を盛っているって噂が立ったってわけだ。王様の勇者は後継者の指名をしていないからな。それが理由じゃないかってのが専らの噂だ。なにしろ、王妃は一人娘ってわけじゃない。他に大勢の兄弟姉妹がいるんだ。たまたま『聖女』でたまたま『英雄の勇者の妻』になったから『王妃』になれただけだからな」
「王太子決めてなかったのか……」
「珍しいよな。間男の子だとしても王太子にしちまってたら跡目争いで揉めなかっただろうに……。まあ、先代の王様が『勇者の力を受け継いだ息子に跡目を譲る』って遺言を作り変えていたらしいからな……。流石に遺言を無視するってことはできなかったんだろうよ」
「なるほどな」
「ま、それでも噂は噂だ。どこまでが本当なのか分かったもんじゃねえが、火のないところに煙はたたねえっていうだろ?」
「ああ」
俺は二人の男に礼を言い、店を後にした。
581
お気に入りに追加
587
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
閉じ込められた幼き聖女様《完結》
アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」
ある若き当主がそう訴えた。
彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい
「今度はあの方が救われる番です」
涙の訴えは聞き入れられた。
全6話
他社でも公開
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
伯爵令嬢は、愛する二人を引き裂く女は悪女だと叫ぶ
基本二度寝
恋愛
「フリージア様、あなたの婚約者のロマンセ様と侯爵令嬢ベルガモ様は愛し合っているのです。
わかりませんか?
貴女は二人を引き裂く悪女なのです!」
伯爵家の令嬢カリーナは、報われぬ恋に嘆く二人をどうにか添い遂げさせてやりたい気持ちで、公爵令嬢フリージアに訴えた。
彼らは互いに家のために結ばれた婚約者を持つ。
だが、気持ちは、心だけは、あなただけだと、周囲の目のある場所で互いの境遇を嘆いていた二人だった。
フリージアは、首を傾げてみせた。
「私にどうしろと」
「愛し合っている二人の為に、身を引いてください」
カリーナの言葉に、フリージアは黙り込み、やがて答えた。
「貴女はそれで構わないの?」
「ええ、結婚は愛し合うもの同士がすべきなのです!」
カリーナにも婚約者は居る。
想い合っている相手が。
だからこそ、悲恋に嘆く彼らに同情したのだった。
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
結婚するので姉様は出ていってもらえますか?
基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。
気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。
そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。
家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。
そして妹の婚約まで決まった。
特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。
※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。
※えろが追加される場合はr−18に変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる