上 下
15 / 24

15.実家4

しおりを挟む
 厄介なことになったものです。

 いっそのこと私自身が『男爵』になろうかしら。
 その方が後腐れがなさそう。

「オウエン様に下賜されたことは『王命』ですが、爵位のことはなにも命じられていません。なので私でも「男爵」は名乗れます」

「たしかに。陛下は結婚に対して『王命』を出したと言ったな?だが爵位のことは一言も言ってない」

「はい。宴の席で突然。大勢の前での発表でしたわ」

 思い出すとまた腹が立ってきますわね。
 どうして大勢の前で言うのか意味が分かりません。
 まるで劇のような断罪と下賜。
 なにかの茶番劇なのかと思うほど、壮大に行われました。

「結婚を無効にすることはできない。いや、できなくはないが……」

「つまり、王家の求心力が低下する問題に直面するという訳ですね」

「ああ、むこうは認めないだろうな」

「いっそのこと別居結婚で良いのでは?」

「シャーロットはそれでいいのか?」

「勿論。本人だけでなく伯爵家であの対応されたんですよ?私は伯爵邸で暮らしていく自信はありません。お飾りの妻にするにしても物置小屋のような部屋が伯爵家の次男の嫁の部屋というのは流石に……」

「まて、シャーロット。なんだそれは!?」

 お兄様が驚愕の表情で言いました。
 私はおかしなことを言ったかしら?
 恋愛小説ではお約束の展開ですよ?
 歴史を紐解いても、邪魔な王妃を隔離して住まわせた場所だって存在していますのに。

「事実、そうなってますよね?」

「それはそうだが、あれは伯爵家の次男だ!」

「だから何ですか?」

「こちらは侯爵家だ。伯爵家の人間が無碍にしていい訳ないだろう!」

 お兄様の言葉に私は首を傾げます。

「既に無下にされてますわよ?」

「……そ、そうだったな」

 お兄様は視線を逸らしながら呟きました。
 現在進行形で無下にされているので、伯爵家に入ったらこれ以上のことが起こると予想されます。

「伯爵家でのも記録に残ってたら良かったんだがな」

「? ありますよ」

「なに!?あるのか!!」

 私があっさり答えると、お兄様は身を乗り出してきました。
 お、おお、ビックリしました。

「ありますけど……。見るんですか?」

「ああ、見せてくれ」

「わかりました。こちらになります」

 私は胸元のブローチを取り外しました。
 これもまた魔法道具の一種です。
 記録を映像として残すことができるのです。
 私はそれを起動させ、映像を再生します。
 映し出されたのは、とある昨日のパーティー会場の映像です。
 広いホールの中心で繰り広げられている光景を見て、お兄様の表情が険しくなりました。
 そして、小さく呟くように言います。

「……これは酷いな」

 更に場面は変わり、伯爵家での門前払いに、ホテルをたらいまわしにされているシーンが流れます。

「決定的な証拠だな」

 お兄様は記録用の紙を取り出し、何かを書き込んでいく。
 弁護士と相談されるためでしょうか?

「で、シャーロット。お前の望みを聞いておこう」

「あら、私は誠意ある対応金払えをしていただければ結構ですわ」

「本音は?」

「多くは望んでいません」

 お兄様は黙って私を見ています。そしてやれやれと肩を竦めました。

「分かった。お前の望み通りにしよう」

「よろしくお願い致します」

 お兄様の事ですから望み以上の結果をだしてくださるでしょう。
 それに、きっと私の真意を正確に理解してくださっている筈です。だってお兄様は聡すぎるんですもの。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...