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13.実家2
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「よく食うな」
食後のデザートを頬張っていると、いつの間に戻られたのか。兄が向かい側に座り呆れた顔でこちらを見ていた。
兄は昔から私が食べる姿を見るのが好きだったので、遠慮なく食べさせてもらったのだけれど、もしかして呆れてる? でも仕方ないじゃない。美味しいんだもの。
「あら、当たり前ですわ。昨日から何も食べていませんもの」
「伯爵家ではまともな食事をださないのか?」
「食事どころか門前払いでしたわ」
「なんだとっ!?」
兄の怒りを含んだ声が食堂に響いた。
その声に驚いた給仕たちがビクリと肩を震わせる。
「お兄様、あまり大きな声を出さないでくださいませ」
「しかし!」
「あの家のことはもういいんです。それより、お父様とお母様はどうなさったのですか?一緒にお戻りではないんですか?」
「……父上たちは先王陛下の元だ。事の次第を説明されているので遅れる」
「そうですか」
「それよりも!門前払いとはどういうことだ!?ローマン伯爵家お前の家はどうなっているんだ!!」
怒っているというよりも心配している兄に申し訳なく思いながら、私は昨日あった出来事を話した。
一応、緊急連絡として兄の元にも手紙を送ってはいたが、なにぶん急いでいたので最低限のことしか書いていなかったのだ。
なので、今こうして説明しているわけだが、話しが進むにつれ兄の顔がどんどん険しくなっていく。
「……まさか一般宿に泊まるとは……」
一通り話を聞き終えた兄は額に手を当てて深くため息をついた。
確かに、普通であればあり得ないことだった。
「しかたないではありませんか。貴族御用達のホテルは紹介状がなければ泊まれないと言われましたし、他のホテルは足元見られたりしましたのよ?そんな所にお金を落とすくらいなら、多少質素でも安全な方を選びますわ」
「それでも普通は高級宿を選ぶものだぞ」
「その最低限の高級宿がぼったくり同然の値段設定をしてくるんですもの。ありえませんでしょう?」
「それはそうだが……」
「とにかく、今回のことは勉強になりましたわ。貴族と分っていてもあの態度ですもの」
「見るからに訳アリだったからだろうな」
「女二人だからカモに見えたのでしょうか?まったく、いい迷惑ですわ」
私はデザートを食べ終わり、ナプキンで口元を拭く。
うん、美味しかった!ごちそうさまでした!! 兄は私の様子を呆れたように見ていたが、気を取り直したのか話を続けた。
「やれやれ、とんでもないところに嫁がされたものだ」
「それは陛下に仰ってください」
「それで?これからどうするんだ?お前は」
「手紙にも書いたように名誉回復と慰謝料さえ払っていただければ、あとはどうでもいいんですけれどね。私自身は大事にするつもりはないですし、社交界には出なくてもいいと思っているので、特に問題ありませんわ」
「そうか……お前ならそう言うと思ったよ」
そう言って苦笑する兄に私も笑顔を返した。
そう、結婚なんて所詮は家と家の繋がりでしかないのだから、無理にする必要はないと思うのだ。
むしろ、これ以上厄介ごとに巻き込まれないためにも、極力社交場に出ないようにした方がいいかもしれない。
もちろん、どうしても出席しなければならない時は仕方がないが、なるべく目立たないよう大人しくしていよう。
これで問題は解決だなと思ったところで、兄が何かを思い出したように顔をあげた。
「一応聞くが、証拠は確保しているんだろうな?でなければ、いくら何でも無礼すぎるぞ」
「もちろんですわ。録画録音の証拠を確保してありますし、後宮に入ってから日記を毎日書いています。その中に日付と一緒に書き留めていますわ」
私は胸を張って答えます。
なにせ、後宮の初日でアレだったので、念のため。
なにかあると睨んでいたので、証拠に事欠かないように準備はしていた。
まさか本当に役に立つとは思っていませんでしたけど。
おかげで、この一年間の記録が全て残っています。
「日記はともかく……録画録音まで……。魔法道具を使用してよく後宮でバレなかったな」
「ほほっ。あそこは妙なところで時代錯誤的ですから。私の離宮が魔法道具で溢れかえっていたことを知らなかったようです。それに魔法道具を利用するな、という規則はありませんでしたわ。設置したのは私に宛がわれた離宮内。他の妃達より遅くに後宮入りした新参者ですからね。何かあっては困りますもの。自衛のためにも必要だと判断したまでです。私、間違ってませんでしょう?」
私は自信満々で言い切ります。
嘘は言っていません。
別に悪いことをしているわけではありませんもの。
「確かに間違っていない。……いや、逆に王宮の魔法師に気付かれなかった事が不思議なくらいだ」
「嫌ですわね、お兄様。魔法師たちが後宮に来られる筈ありませんでしょう」
「それでバレなかったんだな」
お兄様はぐったりしながら、納得しました。
実のところ離宮の魔法道具はそのままだという事は内緒にしておきましょう。今も稼働中だという事も含めて。
だって急に下賜が決まったんです。
魔法道具を取り外す暇なんてあるわけがない。
それに、取り外せるほど簡単な作りではありません。
つけるのは簡単でも取り外しは要注意の代物。
これを知った陛下たちの反応も知りたいものです。
それはそうとして、これは世にいう「出戻り」というやつでしょうか?
伯爵家の次男との婚姻は陛下が勝手に決められ、なかば追い出される形で婚家に連れていかれましたからね。
式はおろか初夜さえない結婚。
これってあり何でしょうか?
食後のデザートを頬張っていると、いつの間に戻られたのか。兄が向かい側に座り呆れた顔でこちらを見ていた。
兄は昔から私が食べる姿を見るのが好きだったので、遠慮なく食べさせてもらったのだけれど、もしかして呆れてる? でも仕方ないじゃない。美味しいんだもの。
「あら、当たり前ですわ。昨日から何も食べていませんもの」
「伯爵家ではまともな食事をださないのか?」
「食事どころか門前払いでしたわ」
「なんだとっ!?」
兄の怒りを含んだ声が食堂に響いた。
その声に驚いた給仕たちがビクリと肩を震わせる。
「お兄様、あまり大きな声を出さないでくださいませ」
「しかし!」
「あの家のことはもういいんです。それより、お父様とお母様はどうなさったのですか?一緒にお戻りではないんですか?」
「……父上たちは先王陛下の元だ。事の次第を説明されているので遅れる」
「そうですか」
「それよりも!門前払いとはどういうことだ!?ローマン伯爵家お前の家はどうなっているんだ!!」
怒っているというよりも心配している兄に申し訳なく思いながら、私は昨日あった出来事を話した。
一応、緊急連絡として兄の元にも手紙を送ってはいたが、なにぶん急いでいたので最低限のことしか書いていなかったのだ。
なので、今こうして説明しているわけだが、話しが進むにつれ兄の顔がどんどん険しくなっていく。
「……まさか一般宿に泊まるとは……」
一通り話を聞き終えた兄は額に手を当てて深くため息をついた。
確かに、普通であればあり得ないことだった。
「しかたないではありませんか。貴族御用達のホテルは紹介状がなければ泊まれないと言われましたし、他のホテルは足元見られたりしましたのよ?そんな所にお金を落とすくらいなら、多少質素でも安全な方を選びますわ」
「それでも普通は高級宿を選ぶものだぞ」
「その最低限の高級宿がぼったくり同然の値段設定をしてくるんですもの。ありえませんでしょう?」
「それはそうだが……」
「とにかく、今回のことは勉強になりましたわ。貴族と分っていてもあの態度ですもの」
「見るからに訳アリだったからだろうな」
「女二人だからカモに見えたのでしょうか?まったく、いい迷惑ですわ」
私はデザートを食べ終わり、ナプキンで口元を拭く。
うん、美味しかった!ごちそうさまでした!! 兄は私の様子を呆れたように見ていたが、気を取り直したのか話を続けた。
「やれやれ、とんでもないところに嫁がされたものだ」
「それは陛下に仰ってください」
「それで?これからどうするんだ?お前は」
「手紙にも書いたように名誉回復と慰謝料さえ払っていただければ、あとはどうでもいいんですけれどね。私自身は大事にするつもりはないですし、社交界には出なくてもいいと思っているので、特に問題ありませんわ」
「そうか……お前ならそう言うと思ったよ」
そう言って苦笑する兄に私も笑顔を返した。
そう、結婚なんて所詮は家と家の繋がりでしかないのだから、無理にする必要はないと思うのだ。
むしろ、これ以上厄介ごとに巻き込まれないためにも、極力社交場に出ないようにした方がいいかもしれない。
もちろん、どうしても出席しなければならない時は仕方がないが、なるべく目立たないよう大人しくしていよう。
これで問題は解決だなと思ったところで、兄が何かを思い出したように顔をあげた。
「一応聞くが、証拠は確保しているんだろうな?でなければ、いくら何でも無礼すぎるぞ」
「もちろんですわ。録画録音の証拠を確保してありますし、後宮に入ってから日記を毎日書いています。その中に日付と一緒に書き留めていますわ」
私は胸を張って答えます。
なにせ、後宮の初日でアレだったので、念のため。
なにかあると睨んでいたので、証拠に事欠かないように準備はしていた。
まさか本当に役に立つとは思っていませんでしたけど。
おかげで、この一年間の記録が全て残っています。
「日記はともかく……録画録音まで……。魔法道具を使用してよく後宮でバレなかったな」
「ほほっ。あそこは妙なところで時代錯誤的ですから。私の離宮が魔法道具で溢れかえっていたことを知らなかったようです。それに魔法道具を利用するな、という規則はありませんでしたわ。設置したのは私に宛がわれた離宮内。他の妃達より遅くに後宮入りした新参者ですからね。何かあっては困りますもの。自衛のためにも必要だと判断したまでです。私、間違ってませんでしょう?」
私は自信満々で言い切ります。
嘘は言っていません。
別に悪いことをしているわけではありませんもの。
「確かに間違っていない。……いや、逆に王宮の魔法師に気付かれなかった事が不思議なくらいだ」
「嫌ですわね、お兄様。魔法師たちが後宮に来られる筈ありませんでしょう」
「それでバレなかったんだな」
お兄様はぐったりしながら、納得しました。
実のところ離宮の魔法道具はそのままだという事は内緒にしておきましょう。今も稼働中だという事も含めて。
だって急に下賜が決まったんです。
魔法道具を取り外す暇なんてあるわけがない。
それに、取り外せるほど簡単な作りではありません。
つけるのは簡単でも取り外しは要注意の代物。
これを知った陛下たちの反応も知りたいものです。
それはそうとして、これは世にいう「出戻り」というやつでしょうか?
伯爵家の次男との婚姻は陛下が勝手に決められ、なかば追い出される形で婚家に連れていかれましたからね。
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これってあり何でしょうか?
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