上 下
7 / 24

7.後宮5

しおりを挟む
 後宮入りして初めての茶会。
 しかも因縁のある相手からとなると少しばかり、いや、かなり気が重くなる。

「大丈夫ですか?シャーロット様」

「あまり大丈夫じゃないわね。あのローズ・カペルからの招待だもの」

ですからね……」

 リコリスは心配そうに眉根を寄せた。

 先日は一応表面上取り繕っていたものの、弟との婚約破棄をいまだに根にもっているのがわかる。
 自分の弟が全面的に悪かったとはいえ、やはり思うところがあるのだろう。

「はぁ……憂鬱だわ」

 ため息をつきつつ、とりあえずは侍女長に相談をすることにしたのだった。
 ただし、これには侍女長もそうとう頭を悩ませることになった。






「困ったことになりました。よりにもよって“紅薔薇の髪飾り”を付けての参加となると……」

「なにかあるの?」

 いったい何事かと尋ねると、侍女長は言いづらそうに口を開く。

「実は……この『紅薔薇茶会』というのは、ローズ妃のお住まいである『赤の離宮』の嘗ての呼び名なのです」

「そういえば、昔は上級妃は三人だったわね。その時の名残りかしら?」

「はい。以前は『黄の離宮』がございました。三つの離宮はそれぞれの『色』に合わせた薔薇をシンボルとしていました」

 侍女長の言葉になるほどと納得する。
 だからこの離宮は至る所に白薔薇が飾られているのか、と今更ながら納得した。
 そしてこれはおそらく、いや間違いなく、自分に対する宣戦布告だろう。白薔薇の離宮の主人が紅薔薇の飾りを付けることはつまりそういうことだ。喧嘩売られているのだ。……面倒臭いことこの上ない! どうしてこうなったのかと頭を抱えたくなった。

 参加してもしなくても面倒な事になりそうだと、思わず遠い目をしてしまう。
 かといって馬鹿正直に紅薔薇の髪飾りをつけて参加すれば、それこそローズの思う壺。これから先ずっと彼女の風下に立たなければならなくなるのは目に見えている。それだけは絶対に嫌だ。
 そんな思いもあって、お茶会の欠席を申し出ることにした。

「お断りしますわ」

「しかし……」

「招待されたとはいえ、欠席してはいけないというわけではありませんし、まして彼女は上級妃。正妃ではありませんもの」

 渋る侍女長にきっぱりと断る。
 わざわざこちらが折れなければならない理由はない。
 これで彼女が正妃なら話は別だが、残念ながらそうではない。地位的には同じ上級妃。ここは譲るべきではないと思う。譲ったら最後ともいうけれど……。

「シャーロット様はそれでよろしいのですか?」

「ええ、構いませんわ」

 それ以外に良い案が思いつかない。
 行く、という選択肢は皆無。

「それならば」と、侍女長は頷いたのだった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...