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2.プロローグ
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「お願いいたしますわ」
受付の女性はシャーロットが差し出した内容証明にギョッとした。
「失礼ですが、これは……」
「見た通り内容証明です」
「ほ、本当に……この住所でよろしいので……?」
「もちろんです」
シャーロットが住所を間違えていないことなど受付の女性も分かっている。わかっていても確認せずにはいられなかった。
異常だった。
目を疑ってしまった。
なにせ、宛先は全て貴族。
高位貴族から下位貴族と幅広い。
しかも、通常の手紙ではないのだ。
『内容証明』なのであるから、只事ではない。
とんでもない事態だということは明白だった。
宛先を確認した受付の女性は震える手で封筒を丁寧に開けていく。中に入っていたのは一枚の紙だけ。受付の女性はその紙を取り出し、書かれている内容を確認し、その内容に体を強張らせた。
「こ、こちらで……間違いないのでしょうか……?」
「間違いありませんわ」
「で、ですが、この内容は……」
「お気になさらずに」
「はっ……はい!」
受付の女性は顔を青くしたまま何度も頷くと、震える手で何とか蝋封を終えた。
シャーロットはそれを確認すると、懐から銀貨を三枚取り出しカウンターに置く。
「ご苦労様でした」
「……」
労いの言葉を掛けられても返す言葉がみつからない。
ありがとうございました、と言うべきだろう。
またのお越しをお待ちしております、と何時ものように言わなければならなかった。
言えない。
言葉がでてこなかった。
真っ青な顔の受付に苦笑すると、シャーロットはそのまま建物から出て行った。
彼女が居なくなった後も受付の女性はその場から動けずにいた。
様子がおかしいとカウンターに座っている男が受付の女性を気遣う。
「大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫です」
やっとの思いで答えた受付の女性に男は目を細める。
「なにか、あったのか?」
「内容証明の……お客様が貴族だったので……」
それだけで男には十分だった。
「深く考えるな。お前は仕事をしただけだ」
「は、はい……ですが……銀貨を……」
「貴族が貴族に内容証明を送ったんだ。その対価というわけだろうな」
「いいんですか?」
「ああ。おそらく、そっちの袋に入っている封筒と一緒に送れということだろう」
「え?」
受付の女性は気付かなかなったが、男が言うように受付の机の上には封筒の入った紙袋が置かれていた。
先ほど、シャーロットが持ってきた物と同じ袋だ。
「す、すみません! 気が付かず!」
「気にするな」
頭を下げた女性の肩を優しく叩き男は受付を離れた。その横顔には笑みが浮かんでいる。男は知っていた。さっき来ていた女性の正体を。
彼女の名前は、シャーロット・カールストン侯爵令嬢。
この先にある屋敷のご令嬢だ。
そして、一年前に国王陛下に輿入れした上級妃。
つまりは、この国の側妃だ。
通常、妃は後宮からでることはない。
なのに、シャーロット・カールストン侯爵令嬢は普通に郵便局にきた。一人の侍女だけを連れて。それが如何に異常なことなのかは男が口にするまでもない。
若い受付嬢はシャーロットを知らない。
それでも相手が貴族だということは理解していた。
貴族女性が一人で行動することはない。必ず、護衛を伴っている。それは平民でも知っている常識だ。
内容証明のことで頭がいっぱいの受付嬢はそこまで頭が回っていない。
シャーロット・カールストン侯爵令嬢が持ってきた封筒の中身は、きっとこの国の行く末を左右するものだと男は確信していた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
男はそう呟き、自分の仕事場へと戻っていくのだった。
受付の女性はシャーロットが差し出した内容証明にギョッとした。
「失礼ですが、これは……」
「見た通り内容証明です」
「ほ、本当に……この住所でよろしいので……?」
「もちろんです」
シャーロットが住所を間違えていないことなど受付の女性も分かっている。わかっていても確認せずにはいられなかった。
異常だった。
目を疑ってしまった。
なにせ、宛先は全て貴族。
高位貴族から下位貴族と幅広い。
しかも、通常の手紙ではないのだ。
『内容証明』なのであるから、只事ではない。
とんでもない事態だということは明白だった。
宛先を確認した受付の女性は震える手で封筒を丁寧に開けていく。中に入っていたのは一枚の紙だけ。受付の女性はその紙を取り出し、書かれている内容を確認し、その内容に体を強張らせた。
「こ、こちらで……間違いないのでしょうか……?」
「間違いありませんわ」
「で、ですが、この内容は……」
「お気になさらずに」
「はっ……はい!」
受付の女性は顔を青くしたまま何度も頷くと、震える手で何とか蝋封を終えた。
シャーロットはそれを確認すると、懐から銀貨を三枚取り出しカウンターに置く。
「ご苦労様でした」
「……」
労いの言葉を掛けられても返す言葉がみつからない。
ありがとうございました、と言うべきだろう。
またのお越しをお待ちしております、と何時ものように言わなければならなかった。
言えない。
言葉がでてこなかった。
真っ青な顔の受付に苦笑すると、シャーロットはそのまま建物から出て行った。
彼女が居なくなった後も受付の女性はその場から動けずにいた。
様子がおかしいとカウンターに座っている男が受付の女性を気遣う。
「大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫です」
やっとの思いで答えた受付の女性に男は目を細める。
「なにか、あったのか?」
「内容証明の……お客様が貴族だったので……」
それだけで男には十分だった。
「深く考えるな。お前は仕事をしただけだ」
「は、はい……ですが……銀貨を……」
「貴族が貴族に内容証明を送ったんだ。その対価というわけだろうな」
「いいんですか?」
「ああ。おそらく、そっちの袋に入っている封筒と一緒に送れということだろう」
「え?」
受付の女性は気付かなかなったが、男が言うように受付の机の上には封筒の入った紙袋が置かれていた。
先ほど、シャーロットが持ってきた物と同じ袋だ。
「す、すみません! 気が付かず!」
「気にするな」
頭を下げた女性の肩を優しく叩き男は受付を離れた。その横顔には笑みが浮かんでいる。男は知っていた。さっき来ていた女性の正体を。
彼女の名前は、シャーロット・カールストン侯爵令嬢。
この先にある屋敷のご令嬢だ。
そして、一年前に国王陛下に輿入れした上級妃。
つまりは、この国の側妃だ。
通常、妃は後宮からでることはない。
なのに、シャーロット・カールストン侯爵令嬢は普通に郵便局にきた。一人の侍女だけを連れて。それが如何に異常なことなのかは男が口にするまでもない。
若い受付嬢はシャーロットを知らない。
それでも相手が貴族だということは理解していた。
貴族女性が一人で行動することはない。必ず、護衛を伴っている。それは平民でも知っている常識だ。
内容証明のことで頭がいっぱいの受付嬢はそこまで頭が回っていない。
シャーロット・カールストン侯爵令嬢が持ってきた封筒の中身は、きっとこの国の行く末を左右するものだと男は確信していた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
男はそう呟き、自分の仕事場へと戻っていくのだった。
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