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16.夫side
しおりを挟むアリックスは『完璧な正妻』だ。
夫である私の行動の制限を一切しない。それは結婚契約を交わしているからという理由も関係あるのだろうが――
中と外での違いもない。
夜会などの席でエスコートをする以外は常に私の三歩ほど後ろに付き添っている。
実に控えめだ。
だからと言って大人しく従っていると言う訳でもない。
結婚し、世間では一応『既婚者』である私だが、女は放っておかない。女関係のトラブルが発生してもアリックスは冷静に対処する。時には癇癪を起こした女相手に毅然と言い返す事もあるし、私の代わりに女に抗議をした事もある。別れ話がこじれた時は特に。
「あ、ありがとう……」
「私は旦那様の妻ですから、当然の事でございます」
私としては正直言って意外の一言に尽きた。
彼女との契約にそんな項目が入っていないせいもあるが、彼女は『私』個人を見てくれている。それは『伯爵』としての立場でもなく、私の『美貌』としてでもなく、一人の人として私の事をちゃんとみてくれているのだと感じた事だった。
それは今まで私が知らなかった感情。
いや、忘れていたもの――だった気がするが……兎も角驚いた。
彼女と一緒にいる時間を増やしてみた。
するとどうだろう、彼女との空間は驚くほどに居心地がいい事に気付き始めた。
彼女の声や笑顔は私に安心感を与えてくれる。
今まで「女」という生き物に対して持っていた嫌悪感が薄らいでいくのを感じた。
私はアリックスを目で追うようにもなっていた。
他の女達と夜を過ごす事も自然となくなっていった。
これが家庭を持つという事なのだろう。
結婚したと実感する日々は、今までの自分が嘘だったかと思うぐらい「妻」という存在が愛おしいと思えるようになった。
浮かれていた私は気付かなかった。
本来なら女達から恨みを買ってもいい立場だという事に……。
私が付き合っていた女性の中には既婚者だっていた。
夫婦の間に亀裂を入れられた夫や、妻の不倫関係に悩まされ精神的に参っていた夫もいる。中には子供まで巻き込んだ問題もあった筈だ。そういった恨みを私は知っていても理解していなかった。だから、自分が恨まれるのは自業自得だと思ってはいても、本当に頭の片隅にあったくらいだった。
それらの問題を私は知らない。
いつの間にかアリックスによって解決されていたからだ。
それは全て彼女の功績だったなんて。
何も知らなかった。
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