61 / 66
番外編~後日談~
60.バルティール伯爵家のその後
しおりを挟む
バルティール伯爵家。
社交界は愚かな伯爵家に容赦なかったようです。
領地にいた私は知らなかったあれやこれや。
元義兄のことがありましたからね。
ラシードお義兄様のことは兎も角、その実家に関しては特に気にしていません。
なので、私は何もしませんでしたが……。
なかなか大変だったようです。
「ミネルヴァ、バルティール伯爵家が爵位を返上した」
「まあ」
「当主は最後まで抵抗したそうだ。だが、爵位返上は覆らなかった。当主夫婦は田舎で余生を過ごすそうだ」
「そうですか……」
「跡取りであった長男は国を出るらしい」
「あら?たしか幼いお子様がいらっしゃったと記憶していますが?」
「長男の妻の実家に身を寄せることにしたそうだ」
「妻の実家……離婚されたのですか?」
「ああ。子供達の将来を考えれば、そうするしかなかったのだろう」
「それもそうですね」
「うむ」
伯爵家の爵位返上は想定内のこと。
こうなるだろうとは思っていましたが、まさかこんなに早いとは……。
もしかすると社交界のお節介な誰かさんが動いたのかもしれません。
バルティール伯爵家は、ラシードお義兄様の父親の代で終焉をむかえました。
王都にあるバルティール伯爵家の屋敷は売りに出されているとかいないとか。
数日後にある子爵家が買い取ったとか。
社交界は噂話が大好きです。
子爵家が名前を出さなくてもいつの間にか調べられているもの。
曰くつきの元伯爵家。
その屋敷。
購入者は、マロウ子爵。
ラシードお義兄様が婿入りした子爵家。
この話は当然、社交界に瞬く間に広がった。
社交界に新しい話題を振りまくなんて。
屋敷を購入したのはマロウ子爵ですが、それを望んだのは娘の方でしょう。
可愛い一人娘の可愛いワガママに父親が応えた。それだけの話。
娘の方が愛する夫の生まれた屋敷を他者に渡したくなかった。
夫にちょっとしたプレゼントのつもりだったのでしょう。
丁度いいタイミングというべきか。元義兄の誕生日月。誕生日プレゼントにしたかったのかもしれません。
ただ、ねぇ。
屋敷を買いたたいたりしなければ美談で済んだものを。
交渉上手のマロウ子爵は、屋敷を相場よりもかなり安く購入したそうです。
通常、貴族の屋敷を買いたたくなど、あり得ません。
たとえそれが元貴族の屋敷だったとしてもです。
そのことはマロウ子爵も分かっていたはず。
それでも安く購入した理由とはなんでしょう?
マロウ子爵の真意が分からない。
「そんなの決まっているでしょう?娘のためよ」
私の疑問に答えてくれたのは、ロザリンドだった。
ちょうど遊びに来てくれていた。お喋りに興じている時に、元義兄の話題が出て今に至っている。
「娘のため?」
「そう」
「娘というとナターシャ・マロウ夫人?」
「あそこは娘を溺愛しているから」
「それは知っているけど……」
「娘が愛する夫を手放したくないからよ」
「それで屋敷を?」
「当然でしょ。可愛い一人娘のために」
「……娘のために、バルティール伯爵邸を買いたたいた、と?」
「そうなるわね。流石は商人。強かだこと」
ロザリンドが呆れたように言った。
なら普通に購入すればいいのに、と思うものの、ロザリンド曰く「買いたたくことに意味がある」とのことだった。
商人が買いたたく=価値がないということらしい。
子爵家にとっては価値のない婿。
けれど娘にとっては価値のある夫。
元義兄の未来は思った以上に暗い。
商売上手なマロウ子爵のこと、ギリギリまで隠居はしないでしょうね。
婿に爵位を譲り渡しても実権は決して譲らない。
最悪、孫が成人するまで頑張るんじゃないかしら?
そうなったら元義兄はどうなるのでしょう?
そんな環境に果たして元義兄は耐えられるかしら? まあ……私が心配する義理はありません。
所詮、その程度の男だったということでしょうから。
数十年後。
マロウ子爵家に新しい当主が誕生した。
その当主は、元義兄ではなかった。
社交界は愚かな伯爵家に容赦なかったようです。
領地にいた私は知らなかったあれやこれや。
元義兄のことがありましたからね。
ラシードお義兄様のことは兎も角、その実家に関しては特に気にしていません。
なので、私は何もしませんでしたが……。
なかなか大変だったようです。
「ミネルヴァ、バルティール伯爵家が爵位を返上した」
「まあ」
「当主は最後まで抵抗したそうだ。だが、爵位返上は覆らなかった。当主夫婦は田舎で余生を過ごすそうだ」
「そうですか……」
「跡取りであった長男は国を出るらしい」
「あら?たしか幼いお子様がいらっしゃったと記憶していますが?」
「長男の妻の実家に身を寄せることにしたそうだ」
「妻の実家……離婚されたのですか?」
「ああ。子供達の将来を考えれば、そうするしかなかったのだろう」
「それもそうですね」
「うむ」
伯爵家の爵位返上は想定内のこと。
こうなるだろうとは思っていましたが、まさかこんなに早いとは……。
もしかすると社交界のお節介な誰かさんが動いたのかもしれません。
バルティール伯爵家は、ラシードお義兄様の父親の代で終焉をむかえました。
王都にあるバルティール伯爵家の屋敷は売りに出されているとかいないとか。
数日後にある子爵家が買い取ったとか。
社交界は噂話が大好きです。
子爵家が名前を出さなくてもいつの間にか調べられているもの。
曰くつきの元伯爵家。
その屋敷。
購入者は、マロウ子爵。
ラシードお義兄様が婿入りした子爵家。
この話は当然、社交界に瞬く間に広がった。
社交界に新しい話題を振りまくなんて。
屋敷を購入したのはマロウ子爵ですが、それを望んだのは娘の方でしょう。
可愛い一人娘の可愛いワガママに父親が応えた。それだけの話。
娘の方が愛する夫の生まれた屋敷を他者に渡したくなかった。
夫にちょっとしたプレゼントのつもりだったのでしょう。
丁度いいタイミングというべきか。元義兄の誕生日月。誕生日プレゼントにしたかったのかもしれません。
ただ、ねぇ。
屋敷を買いたたいたりしなければ美談で済んだものを。
交渉上手のマロウ子爵は、屋敷を相場よりもかなり安く購入したそうです。
通常、貴族の屋敷を買いたたくなど、あり得ません。
たとえそれが元貴族の屋敷だったとしてもです。
そのことはマロウ子爵も分かっていたはず。
それでも安く購入した理由とはなんでしょう?
マロウ子爵の真意が分からない。
「そんなの決まっているでしょう?娘のためよ」
私の疑問に答えてくれたのは、ロザリンドだった。
ちょうど遊びに来てくれていた。お喋りに興じている時に、元義兄の話題が出て今に至っている。
「娘のため?」
「そう」
「娘というとナターシャ・マロウ夫人?」
「あそこは娘を溺愛しているから」
「それは知っているけど……」
「娘が愛する夫を手放したくないからよ」
「それで屋敷を?」
「当然でしょ。可愛い一人娘のために」
「……娘のために、バルティール伯爵邸を買いたたいた、と?」
「そうなるわね。流石は商人。強かだこと」
ロザリンドが呆れたように言った。
なら普通に購入すればいいのに、と思うものの、ロザリンド曰く「買いたたくことに意味がある」とのことだった。
商人が買いたたく=価値がないということらしい。
子爵家にとっては価値のない婿。
けれど娘にとっては価値のある夫。
元義兄の未来は思った以上に暗い。
商売上手なマロウ子爵のこと、ギリギリまで隠居はしないでしょうね。
婿に爵位を譲り渡しても実権は決して譲らない。
最悪、孫が成人するまで頑張るんじゃないかしら?
そうなったら元義兄はどうなるのでしょう?
そんな環境に果たして元義兄は耐えられるかしら? まあ……私が心配する義理はありません。
所詮、その程度の男だったということでしょうから。
数十年後。
マロウ子爵家に新しい当主が誕生した。
その当主は、元義兄ではなかった。
141
お気に入りに追加
2,413
あなたにおすすめの小説
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
【完結】唯一の味方だと思っていた婚約者に裏切られました
紫崎 藍華
恋愛
両親に愛されないサンドラは婚約者ができたことで救われた。
ところが妹のリザが婚約者を譲るよう言ってきたのだ。
困ったサンドラは両親に相談するが、両親はリザの味方だった。
頼れる人は婚約者しかいない。
しかし婚約者は意外な提案をしてきた。
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
【完結】旦那様、お飾りですか?
紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。
社交の場では立派な妻であるように、と。
そして家庭では大切にするつもりはないことも。
幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。
そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。
【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる