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番外編~後日談~
59.今更の話
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人は怒り狂っていると判断力を欠く、という。
冷静さを失っているから、普段なら絶対にしないような行動をしてしまう。
怒りで頭が沸騰していたとしか言いようがない。
なのでその後の後始末が少々めんどくさくなってしまったのも致し方なかった。
目的を達成し終えたばかりだったのも更に悪かったのかもしれないと思ったのは、お父様から質問を受けた時だった。
「ミネルヴァ、どうしてあんなことをしたんだい」
「あんなこと?なんのことでしょう?」
「とぼけないでくれ。ラシードのことだ」
「……元義兄がなにか?」
「例の男爵令嬢と駆け落ちした後、ラシードが曰くつきの店で働いていた。ひょっとして、誘導したのはミネルヴァか?」
「まあ!お父様。おかしなことを仰るのですね。私はラシードお義兄様がどこでなにをしていたのかまったく知らなかったのですよ?どうこうできるはずもありません」
「たしかにな。だが、バルティール伯爵家の動向を知っていたのではないか?」
「何故そう思われるのですか?」
「影の活動がここ数年活発だ。私は特に指示していないにも拘わらずな。何故だと思う?」
「……さあ、何故でしょうね」
「「……」」
沈黙が落ちる。
お父様は私の行動を疑っていた。
だからこうして探っていたのだろう。
私がどう答えるのか、反応を探るように私をじっと見つめる。
「ミネルヴァ」
「はい」
「悪徳商人たちは逮捕され刑に服した」
「はい」
「彼らが捕まって数日後に、密かに国境を越えようとした者達が山中で遺体となって見つかった。事故として処理された。険しい山道を歩いていていたんだ。それも夜にな。誤って崖から落ちたとしても不思議ではない」
「お父様、一つ言っておきます。私も侯爵家の影達も、足がつくようなヘマはしません。もちろん、他者に疑念を抱かせるような行動も」
「分かっている。だからミネルヴァを疑ってはいない。ただ、そういうことをしでかす者に心当たりはあるだろう?ミネルヴァには」
お父様が一体誰を疑っているのか理解しました。
ええ、あの子爵家ですね。正確には子爵令嬢ですが。
「お父様、恋する女性はチャンスを逃がさないものです」
「?」
「これは独り言ですが、とある令嬢が恋に落ちました。ですが相手の男性には婚約者がいた。それも自分より全てが勝っている女性。罠を仕掛けたところで返り討ちに遭うのは明らかです。下位貴族が高位貴族に喧嘩を売るなんて出来るはずもありません。令嬢は恋に溺れていましたが現実的でした。数年が経ち、男性は婚約者ではない別の女性を伴侶として選んだ。その女性の為に地位も身分もなにもかも捨てて。タガが外れたのです。令嬢は躊躇うことなく行動に出ました。愛した人を手にするために」
「……」
「ご安心ください。その令嬢と会って話をしたことはありません。これから先もないでしょう。彼女は最愛の男性を夫に迎えたのです。領地から出てくることは二度とありません」
「……」
お父様が絶句していた。
きっとラシードお義兄様の記憶喪失の件も子爵令嬢が関わってると思ったに違いない。
正解ですがね。
「ミネルヴァ、一つ確認したいのだが」
「はい」
「その令嬢とラシードの結婚生活はどうなんだ?」
「意外と上手くいっているようです。と申しましても離婚したところでラシードお義兄様に帰る場所はありませんし……」
「記憶が戻ることは?」
「私の知る限り、戻っていません。これから先も戻ることはないでしょう」
「そうか……」
お父様は額に手を当てた。
そして、深いため息をつくと、ゆっくりと顔を上げ私を見た。
「ミネルヴァ、お前……令嬢を誘導するように陰に命じたな?」
「……」
「沈黙は肯定とみなす」
「はい」
お父様相手に誤魔化せるわけがない。
私の返事を聞いたお父様は再び深いため息をついた。
「心臓に悪い」
「そうでしょうか?」
「ああ……」
「ですが丸く収まりましたでしょう?」
「まあ……そうだな」
何故、お父様が今更この件に関して確認してきたのかというと、ラシードお義兄様の実家がいよいよまずい状況になったから……らしい。
冷静さを失っているから、普段なら絶対にしないような行動をしてしまう。
怒りで頭が沸騰していたとしか言いようがない。
なのでその後の後始末が少々めんどくさくなってしまったのも致し方なかった。
目的を達成し終えたばかりだったのも更に悪かったのかもしれないと思ったのは、お父様から質問を受けた時だった。
「ミネルヴァ、どうしてあんなことをしたんだい」
「あんなこと?なんのことでしょう?」
「とぼけないでくれ。ラシードのことだ」
「……元義兄がなにか?」
「例の男爵令嬢と駆け落ちした後、ラシードが曰くつきの店で働いていた。ひょっとして、誘導したのはミネルヴァか?」
「まあ!お父様。おかしなことを仰るのですね。私はラシードお義兄様がどこでなにをしていたのかまったく知らなかったのですよ?どうこうできるはずもありません」
「たしかにな。だが、バルティール伯爵家の動向を知っていたのではないか?」
「何故そう思われるのですか?」
「影の活動がここ数年活発だ。私は特に指示していないにも拘わらずな。何故だと思う?」
「……さあ、何故でしょうね」
「「……」」
沈黙が落ちる。
お父様は私の行動を疑っていた。
だからこうして探っていたのだろう。
私がどう答えるのか、反応を探るように私をじっと見つめる。
「ミネルヴァ」
「はい」
「悪徳商人たちは逮捕され刑に服した」
「はい」
「彼らが捕まって数日後に、密かに国境を越えようとした者達が山中で遺体となって見つかった。事故として処理された。険しい山道を歩いていていたんだ。それも夜にな。誤って崖から落ちたとしても不思議ではない」
「お父様、一つ言っておきます。私も侯爵家の影達も、足がつくようなヘマはしません。もちろん、他者に疑念を抱かせるような行動も」
「分かっている。だからミネルヴァを疑ってはいない。ただ、そういうことをしでかす者に心当たりはあるだろう?ミネルヴァには」
お父様が一体誰を疑っているのか理解しました。
ええ、あの子爵家ですね。正確には子爵令嬢ですが。
「お父様、恋する女性はチャンスを逃がさないものです」
「?」
「これは独り言ですが、とある令嬢が恋に落ちました。ですが相手の男性には婚約者がいた。それも自分より全てが勝っている女性。罠を仕掛けたところで返り討ちに遭うのは明らかです。下位貴族が高位貴族に喧嘩を売るなんて出来るはずもありません。令嬢は恋に溺れていましたが現実的でした。数年が経ち、男性は婚約者ではない別の女性を伴侶として選んだ。その女性の為に地位も身分もなにもかも捨てて。タガが外れたのです。令嬢は躊躇うことなく行動に出ました。愛した人を手にするために」
「……」
「ご安心ください。その令嬢と会って話をしたことはありません。これから先もないでしょう。彼女は最愛の男性を夫に迎えたのです。領地から出てくることは二度とありません」
「……」
お父様が絶句していた。
きっとラシードお義兄様の記憶喪失の件も子爵令嬢が関わってると思ったに違いない。
正解ですがね。
「ミネルヴァ、一つ確認したいのだが」
「はい」
「その令嬢とラシードの結婚生活はどうなんだ?」
「意外と上手くいっているようです。と申しましても離婚したところでラシードお義兄様に帰る場所はありませんし……」
「記憶が戻ることは?」
「私の知る限り、戻っていません。これから先も戻ることはないでしょう」
「そうか……」
お父様は額に手を当てた。
そして、深いため息をつくと、ゆっくりと顔を上げ私を見た。
「ミネルヴァ、お前……令嬢を誘導するように陰に命じたな?」
「……」
「沈黙は肯定とみなす」
「はい」
お父様相手に誤魔化せるわけがない。
私の返事を聞いたお父様は再び深いため息をついた。
「心臓に悪い」
「そうでしょうか?」
「ああ……」
「ですが丸く収まりましたでしょう?」
「まあ……そうだな」
何故、お父様が今更この件に関して確認してきたのかというと、ラシードお義兄様の実家がいよいよまずい状況になったから……らしい。
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