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番外編~ダフネス男爵家の崩壊~
55.ダフネス男爵side
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「何も見なかった。いいな?」
「旦那様?」
「私は何も見ていない。お前も今見た事を口外してはならない」
「……それは、アシア様にもでしょうか」
「当然だ。彼女と下の兄妹には絶対に知らせてはならない」
「……畏まりました」
私と家令は、手に手を取って走り去る男女を見送った。
「昔を思い出しますね」
家令の言葉に頷いた。
「まさか自分の娘まで同じような行動をするとは思いもしなかったよ」
「エリカお嬢様は奥様とよく似ていらっしゃいますから。仕方ありません」
「相手は侯爵家の元養子の伯爵子息だ。貧乏な男爵家の息子とは訳が違う」
「そのような事はございません。旦那様も伯爵家の次男から奥様を奪う形でお守りしたではございませんか」
「若かったからな。後先考えずに動けたんだ」
「後悔されていらっしゃるので?」
「後悔はしていない。が、周囲には沢山面倒をかけた。内情を知らない者からしたら、悪いのは私達だからな。どんな理由があれ、婚約者持ちの令嬢に手を出して名家同士の婚姻を破談にしたんだ」
「旦那様……」
「あの男は婚約者のリンスレットを蔑ろにしていた。だが奴の外面の良さと地位で、訴えても誰も信じなかった。証拠となる物も無かったからな……。逃げる以外の方法が分からなかった。まあ、逃げた先が実家というのも情けないがな……」
「それで良かったんです。平民の身分で逃げたところで連れ戻されていただけです」
「そうだな。お前にもさんざん迷惑をかけた。悪かったな」
「いいえ、私は旦那様のお役に立てる事が何よりの喜びです」
「最後まで付き合ってくれるか?」
「勿論です」
「ありがとう」
私達は歩き出した。
若い二人の未来が良いものになるよう祈りながら。
人生とはままならないものだ。
娘は出て行った。
無理もない。後妻の選んだ結婚相手は酷すぎた。かといってこのまま男爵家にいさせれば針の筵だろう。
恋人と駆け落ちしたのだ。
自由にさせてやりたい気持ちはある。だが、後妻は黙っていないだろう。後妻が勝手に決めた結婚相手もそうだ。探さない事がエリカの幸せに繋がる。後妻と高利貸しは子供達が貴族であることに拘っている。ならそれを餌にしよう。
奴らが望んだことだ。
どれだけ苦労しようと本望だろう。
娘が駆け落ちした日。
私は家令と共に秘かに祝杯をあげた。
今、男爵家に居る使用人は家令以外は全て後妻の手の者達だ。信用はできない。重要な手紙は家令を通してやり取りをしている。私はペンを取り、フィールド女伯爵様宛に手紙を書いた。
内容は娘が出奔したこと。
後妻とその父親の企みを。
妻が死んでから私はずっと傍観者だった。
傍観者でいる事が娘を守るために必要な事だった。
娘をあからさまに可愛がっていたら、後妻は間違いなくエリカを虐げただろう。
舅も自分の娘と孫可愛さにエリカに危害を加えて貶めたに違いない。
だから、私は女伯爵にこの家の内情を打ち明けることにした。
他力本願なのは分かっている。
だが、女伯爵にしか頼れる相手がいないのも事実だった。
後日、娘が隣国で結婚した事を知った。
女伯爵が助けてくれたのだろう。
エリカが無事ならそれでいい。
エリカが幸せならそれでいい。
邪魔なモノは捨ててしまおう。
転機は数年後にやってきた。
後妻との間に生まれた次女がやらかして帰ってきたのだ。
「旦那様?」
「私は何も見ていない。お前も今見た事を口外してはならない」
「……それは、アシア様にもでしょうか」
「当然だ。彼女と下の兄妹には絶対に知らせてはならない」
「……畏まりました」
私と家令は、手に手を取って走り去る男女を見送った。
「昔を思い出しますね」
家令の言葉に頷いた。
「まさか自分の娘まで同じような行動をするとは思いもしなかったよ」
「エリカお嬢様は奥様とよく似ていらっしゃいますから。仕方ありません」
「相手は侯爵家の元養子の伯爵子息だ。貧乏な男爵家の息子とは訳が違う」
「そのような事はございません。旦那様も伯爵家の次男から奥様を奪う形でお守りしたではございませんか」
「若かったからな。後先考えずに動けたんだ」
「後悔されていらっしゃるので?」
「後悔はしていない。が、周囲には沢山面倒をかけた。内情を知らない者からしたら、悪いのは私達だからな。どんな理由があれ、婚約者持ちの令嬢に手を出して名家同士の婚姻を破談にしたんだ」
「旦那様……」
「あの男は婚約者のリンスレットを蔑ろにしていた。だが奴の外面の良さと地位で、訴えても誰も信じなかった。証拠となる物も無かったからな……。逃げる以外の方法が分からなかった。まあ、逃げた先が実家というのも情けないがな……」
「それで良かったんです。平民の身分で逃げたところで連れ戻されていただけです」
「そうだな。お前にもさんざん迷惑をかけた。悪かったな」
「いいえ、私は旦那様のお役に立てる事が何よりの喜びです」
「最後まで付き合ってくれるか?」
「勿論です」
「ありがとう」
私達は歩き出した。
若い二人の未来が良いものになるよう祈りながら。
人生とはままならないものだ。
娘は出て行った。
無理もない。後妻の選んだ結婚相手は酷すぎた。かといってこのまま男爵家にいさせれば針の筵だろう。
恋人と駆け落ちしたのだ。
自由にさせてやりたい気持ちはある。だが、後妻は黙っていないだろう。後妻が勝手に決めた結婚相手もそうだ。探さない事がエリカの幸せに繋がる。後妻と高利貸しは子供達が貴族であることに拘っている。ならそれを餌にしよう。
奴らが望んだことだ。
どれだけ苦労しようと本望だろう。
娘が駆け落ちした日。
私は家令と共に秘かに祝杯をあげた。
今、男爵家に居る使用人は家令以外は全て後妻の手の者達だ。信用はできない。重要な手紙は家令を通してやり取りをしている。私はペンを取り、フィールド女伯爵様宛に手紙を書いた。
内容は娘が出奔したこと。
後妻とその父親の企みを。
妻が死んでから私はずっと傍観者だった。
傍観者でいる事が娘を守るために必要な事だった。
娘をあからさまに可愛がっていたら、後妻は間違いなくエリカを虐げただろう。
舅も自分の娘と孫可愛さにエリカに危害を加えて貶めたに違いない。
だから、私は女伯爵にこの家の内情を打ち明けることにした。
他力本願なのは分かっている。
だが、女伯爵にしか頼れる相手がいないのも事実だった。
後日、娘が隣国で結婚した事を知った。
女伯爵が助けてくれたのだろう。
エリカが無事ならそれでいい。
エリカが幸せならそれでいい。
邪魔なモノは捨ててしまおう。
転機は数年後にやってきた。
後妻との間に生まれた次女がやらかして帰ってきたのだ。
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