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番外編~フィールド伯爵家の騒動~
47.主席裁判官side
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「あの元子爵様は、あんたと違って人望あるからどこでだって雇って貰えるさ」
「なんだと!?それは儂に人望がないということか!?」
「わざわざ言ってもらわなければ分からないのか?救いようがない色ボケ爺だぜ!」
看守は儂を見てせせら笑う。
今は地下牢で一人だ。兄上が言っていたように息子は儂の血を引いていなかった。愛人には他にも男が数人いて本人すら息子の実父が誰か分からないと言っていたのだ。息子達は知らなかったようで愛人に「どういうことだよ!?母さん!俺達の父親って誰だよ!?」と詰め寄っていた。愛人は「知らないわよ!だからこいつで手を打ったのに!あのババアが今度も邪魔して!!」と言って息子達を突き飛ばしていたのは記憶に新しい。このままでは殺し合いをしかねないと判断した看守によって儂らは引き離された。
いつの間にか妻に離縁されていた。
儂の個人資産は元妻への慰謝料と賠償金として没収された。
愛人……元愛人とその息子二人にも元妻は慰謝料を請求し、それがまかり通った。三人とも個人資産を儂同様に全て没収されたのだ。
あまりに素早い対応だ。元妻は周到な準備をしていただろう事が予想できた。
誰が元妻を唆したのだ?
伯爵家の一人娘として大事に育てられたせいか、良く言えば「おっとりとした」悪く言えば「のろま」な女だったのに……。
「あんた、本当に何にも知らないんだな」
「なにがだ?」
「あんたの元奥様、フィールド女伯爵様についてさ」
「元妻だ。知っているに決まってるだろう」
「はっ!知ってたらこんなところに居やしないよ。フィールド女伯爵様は結婚する前は先の王妃様付きの侍女だったんだぜ」
「なんだ。そんなことくらい知っている」
何を言い出すのかと思えば。
当時の事を知っている者なら誰でも知っていることだ。
「宮廷貴族の娘が結婚前に王宮に勤めるのは珍しい話じゃない。あれも腰掛として先の王妃殿下付きの侍女をしていただけだ」
「……解ってはいたが、あんたって元奥様に興味なかったんだな。フィールド女伯爵様は文字通り王妃様の右腕的存在だったらしい。結婚相手が『婚姻してからの城勤めは伯爵家の面子に関わる』なんてアホな事を言ったもんだから、フィールド女伯爵様は侍女を辞めたって話だ。先の王妃様は泣く泣く手放さなくてはいけなくなって、随分その結婚相手を恨んだって話しだ。仕事は出来るのに自分の元侍女を大切に扱わない事にも御立腹で、人事にかなり口出ししたって噂だ」
儂は言葉が出なかった。
あれは何も言わなかった。何も聞いていないぞ。
「あんた運がいい。もし今、先の王妃様が生きてたら、命がなかったかもな」
冗談のような口振りなのに看守は本気だ。事実なのか。
だとすると、儂の出世が遅れたのもそのせいか?分らん。先の王妃の気持ちなんて……考えた事もなかったから。
それからは長い年月を地下牢で過ごした。
たまに姿を見せる看守が何やら意味ありげな事を告げるだけで、他には何もない。会いに来る妻や子供はもういない。元妻だっていうのに薄情な女だ。
ゴホッ……ゴホゴホ……。
出るのは咳ばかりだ。最近、疲れやすく息切れもするようになった。
儂の健康状態は最悪だ。
咳が止まらない日が何日も続き、食事もとれなくなった。
地下牢だからな。
冬は堪える。
ゴホッゴホ……ゼィゼィ……。
腹が、熱い……?何か蠢いて……な、なんなんだ!この痛みは!!!
「だ、だれ……か……たす……」
それが儂の最期の言葉だった。
何が悪かったんだ。
どこから間違えたんだ?
儂は勝者の道を歩いていた筈なのに……。
地下牢で儂は死んだ。
「なんだと!?それは儂に人望がないということか!?」
「わざわざ言ってもらわなければ分からないのか?救いようがない色ボケ爺だぜ!」
看守は儂を見てせせら笑う。
今は地下牢で一人だ。兄上が言っていたように息子は儂の血を引いていなかった。愛人には他にも男が数人いて本人すら息子の実父が誰か分からないと言っていたのだ。息子達は知らなかったようで愛人に「どういうことだよ!?母さん!俺達の父親って誰だよ!?」と詰め寄っていた。愛人は「知らないわよ!だからこいつで手を打ったのに!あのババアが今度も邪魔して!!」と言って息子達を突き飛ばしていたのは記憶に新しい。このままでは殺し合いをしかねないと判断した看守によって儂らは引き離された。
いつの間にか妻に離縁されていた。
儂の個人資産は元妻への慰謝料と賠償金として没収された。
愛人……元愛人とその息子二人にも元妻は慰謝料を請求し、それがまかり通った。三人とも個人資産を儂同様に全て没収されたのだ。
あまりに素早い対応だ。元妻は周到な準備をしていただろう事が予想できた。
誰が元妻を唆したのだ?
伯爵家の一人娘として大事に育てられたせいか、良く言えば「おっとりとした」悪く言えば「のろま」な女だったのに……。
「あんた、本当に何にも知らないんだな」
「なにがだ?」
「あんたの元奥様、フィールド女伯爵様についてさ」
「元妻だ。知っているに決まってるだろう」
「はっ!知ってたらこんなところに居やしないよ。フィールド女伯爵様は結婚する前は先の王妃様付きの侍女だったんだぜ」
「なんだ。そんなことくらい知っている」
何を言い出すのかと思えば。
当時の事を知っている者なら誰でも知っていることだ。
「宮廷貴族の娘が結婚前に王宮に勤めるのは珍しい話じゃない。あれも腰掛として先の王妃殿下付きの侍女をしていただけだ」
「……解ってはいたが、あんたって元奥様に興味なかったんだな。フィールド女伯爵様は文字通り王妃様の右腕的存在だったらしい。結婚相手が『婚姻してからの城勤めは伯爵家の面子に関わる』なんてアホな事を言ったもんだから、フィールド女伯爵様は侍女を辞めたって話だ。先の王妃様は泣く泣く手放さなくてはいけなくなって、随分その結婚相手を恨んだって話しだ。仕事は出来るのに自分の元侍女を大切に扱わない事にも御立腹で、人事にかなり口出ししたって噂だ」
儂は言葉が出なかった。
あれは何も言わなかった。何も聞いていないぞ。
「あんた運がいい。もし今、先の王妃様が生きてたら、命がなかったかもな」
冗談のような口振りなのに看守は本気だ。事実なのか。
だとすると、儂の出世が遅れたのもそのせいか?分らん。先の王妃の気持ちなんて……考えた事もなかったから。
それからは長い年月を地下牢で過ごした。
たまに姿を見せる看守が何やら意味ありげな事を告げるだけで、他には何もない。会いに来る妻や子供はもういない。元妻だっていうのに薄情な女だ。
ゴホッ……ゴホゴホ……。
出るのは咳ばかりだ。最近、疲れやすく息切れもするようになった。
儂の健康状態は最悪だ。
咳が止まらない日が何日も続き、食事もとれなくなった。
地下牢だからな。
冬は堪える。
ゴホッゴホ……ゼィゼィ……。
腹が、熱い……?何か蠢いて……な、なんなんだ!この痛みは!!!
「だ、だれ……か……たす……」
それが儂の最期の言葉だった。
何が悪かったんだ。
どこから間違えたんだ?
儂は勝者の道を歩いていた筈なのに……。
地下牢で儂は死んだ。
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