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38.とある伯爵side

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 この結婚は失敗だった。
 まさか妻になった女がウォーカー侯爵令嬢とカルセドニー辺境伯令嬢に喧嘩を売っていたとは!!

 何が「クラスメイトとして親しくしていた」だ!

 全部デタラメじゃないか!
 それどころか国でも屈指の上位令嬢に対する態度ではない。
 妻になった女とは見合い結婚だ。
 そこそこ地位のある同じ宮廷貴族で、爵位も同じ伯爵家。ここ数年、領地持ち貴族は何故か宮廷貴族との婚姻を渋る傾向にあったから仕方なくこの関係を結んだ。

「ははっ。渋る訳だな」

「旦那様……」

「父が早く亡くなって後ろ盾欲しさに結婚を急いだせいだ。碌に相手を調べもせずにな」

 妻の実家自体は問題なかった。妻の両親も兄弟達もだ。妻だけが問題児だった。
 妻が学園在学時に見合いをし、卒業と同時に結婚した。

 悔やんでも悔やみきれない。

 知っていたら結婚などしなかった!
 未成年だからと思って調べなかった己の愚かさが憎い。調べればすぐに分かった筈だ。妻が学園でやらかしたことを! 


「アレはどうしている?」

「旦那様の御命令通り、離れに移らせました。最低限の生活費は援助し、専属の使用人も付けました。今のところ問題はないかと……ですが本当に離縁はなさらないのですか?」

「それは出来ない」

「ですが……」

「お前の言いたいことは理解している。私だって離縁できるのならしたい!だが今離縁したところでどうなる?厄介者の妻をさっさと切り捨てたと更に嘲笑われるだけだ!現に妻の取り巻きの令嬢達を切り捨てた家は『責任を放棄した』と見做されて貴族社会で白い眼でみられているんだ!前門の虎、後門の狼とはこの事だ。伯爵家をこれ以上笑い者にされないためにも離縁はできない」

 妻の実家にもその事は伝えてある。「こちらで面倒を見る」と。彼等とて問題児の娘の出戻りは困るのだろう。どんな扱いをされても文句は言わないとの言質も取れた。

「アレは友人達と連絡を取っているか?」

「いいえ。そもそも連絡が取れる状況にある友人は皆無でしょう」

「ならいい」

「奥様を何時まで離れに居させましょうか?」

「ずっとだ」

「でしたら、御子様の件はどういたしましょう」

「アレに産ませる訳にはいかない」

「はい」

「困窮している貴族を至急探し出してくれ」

「畏まりました」

 家令は恭しく頭を下げ退出した。
 離縁はできない。
 だがアレを世継ぎの母にする訳にはいかない。

 お飾りの妻でいてもらうしか道はない。

 子供の母親が貴族なら再婚しても問題はない。
 二人、いや三人生まれたら、その時は――――


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