上 下
37 / 66

37.とある男爵令嬢side(文官)

しおりを挟む
 どうしよう。

「女性特別採用制度」が廃止された。
 私は辛うじて廃止される前に受けたから文官になれたけど、そうじゃなかったら文官になれていたかどうか分からない。

 今年は女性の文官の数が例年よりも圧倒的に少ない。
 それでも少なからず女性はいる。ただし全員平民だけど……。
 これからは平民の女性の数が多くなると上司が言ってた。「女性特別採用制度」が廃止された分、一般採用の人数制限が大幅に増えたから。そうよね。「女性特別採用制度」は女性のための採用制度だけど、実際は貴族女性のための採用制度。平民出身は会場にさえ入れない暗黙の規則だったから。……縁故採用と揶揄されていた。だから採用制度を利用するのは宮廷貴族出身の令嬢だけ。領地持ちの貴族は絶対に「女性特別採用制度」を受けない。出世に響くと言って。


 廃止を提案したのが侯爵令嬢だって聞いた。
 うちの家がウォーカー侯爵家とカルセドニー辺境伯家に損害賠償を支払った。私の家だけじゃない。友達の家の殆どが支払った。そして彼女達を蔑ろにした私達は社交界から
 ほぼ追放された。その事を知らない貴族はいない。私の親兄弟、親戚だということで社交界で肩身の狭い思いをしてる。茶会やパーティーへの招待は一切届かなくなった。国主催のパーティーには出られるけど、そこに私達の居場所なんてない。全て取りやめ。行く先々で笑い者にされる友人達が多数いると小耳に挟んだ時は気が遠くなったわ。

 身分を弁えない、理解していない貴族モドキ。

 それが私達だった。

 どうしてあんな態度が取れたんだろう。
 相手は雲の上の存在。
 五大侯爵家に楯突いた私達に明るい未来なんて訪れない!

 五大侯爵家と辺境伯家にそっぽを向かれたら国は維持できないと頭では分かっていても、心が付いていけてなかった。本気で国を捨てるなんてありえないと。彼らに見限られたら明日の食事すらまともにできないのだと思い知らされた。

 問題行動を起こした息子と娘を持つ家は、次があれば潰すと言われた。
 王家もそれを承認している。

「不敬罪で処刑されてもおかしくなかった」と言われた。

 二度目はない。
 次は間違いなく殺されるだろう、と――――


 息子を廃嫡した家もある。
 除籍処分にした家も。娘を修道院送りにした家も……。

 それでも「当時は未成年だった。家が責任を取るのが当然だろう」と言われ、許してもらえなかったとか。

 息子と娘を家から出して縁切りしたところで責任逃れは許されない。
 寧ろ、トカゲの尻尾切りだと嫌悪された。

 どうしてこんなことに……。

 後悔と恐怖しかない。

 そのうち家から勘当されるんだろうか?そうなると平民になるの?わからない。
 見合い話もなくなった。

 きっと相手側にも私の話しが伝わったんだ。

 家に戻る事ができない。
 戻れば針の筵だと分かっている。
 だから歯を食いしばって文官で居続けるしかない。
 文官なら官舎に住めるから。


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結】唯一の味方だと思っていた婚約者に裏切られました

紫崎 藍華
恋愛
両親に愛されないサンドラは婚約者ができたことで救われた。 ところが妹のリザが婚約者を譲るよう言ってきたのだ。 困ったサンドラは両親に相談するが、両親はリザの味方だった。 頼れる人は婚約者しかいない。 しかし婚約者は意外な提案をしてきた。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

【完結】愛することはないと告げられ、最悪の新婚生活が始まりました

紫崎 藍華
恋愛
結婚式で誓われた愛は嘘だった。 初夜を迎える前に夫は別の女性の事が好きだと打ち明けた。

【完結】旦那様、お飾りですか?

紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。 社交の場では立派な妻であるように、と。 そして家庭では大切にするつもりはないことも。 幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。 そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。 一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。 更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

処理中です...