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31.元義兄side

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 なんだこれは……。
 僕はミネルヴァとアデルハイン・カルセドニー辺境伯子息の婚約記事を見て絶句した。

 どうして奴とミネルヴァが!?

 新聞の一面に大きく載っている。
 幸せそうに笑う男女。美男美女のお似合いのカップルだと絶賛する記事が載っている。
 写真を見る限りだと、本当に幸せそうに笑っているミネルヴァがいる。ミネルヴァ……。

 どうしてだ!?
 そこは僕の位置だった!
 ミネルヴァと幸せそうに笑いあっていたのは僕だ!!
 僕がスポットライトを浴びて、ミネルヴァは隣に立っていた筈なのに!!!

 なにがどうしてこうなったんだ!!!あああああああああああ! クソッ!!! 

 目を覚ましたら全く知らない所にいた。
 僕の妻を名乗る女がいた。
 その女から侯爵家から追い出された経緯や駆け落ちした経緯がこと細やかに説明された。

 記憶の中の僕は16歳だったのに急に21歳だと言われた気持ちが分かるか!?

 学園で出会った男爵令嬢と結婚って何だ!?
 しかも侯爵家と養子縁組を解消されて絶縁。実家の伯爵家に帰されていたなんて……何の冗談かと思った。
 それが本当だと思い知ったのは牢屋に入れられてからだ。
 僕はミネルヴァを始め、ウォーカー侯爵家とは接触禁止を言い渡されていたらしく、それを破ったとして逮捕されてしまった。入れられた牢屋は貴族牢ではなく、平民が入れられている場所だった。

 ふざけるな! 

 僕の知らない間に伯爵家の代替わりしていて、兄が当主をしていた。
 実家の執事から「ラシード様は本日をもって、バルティール伯爵家から除籍されました」と言われた。僕は平民になってしまった。そんな僕を待っていたのは子爵令嬢。なんでここで見ず知らずの子爵令嬢が僕の身元引受人になったのか謎だったが、子爵領に連れて来られて分かった。僕はミネルヴァとの婚約がダメになった後に、彼女と婚約をしていたらしい。聞いてないぞ!?

 僕はその日のうちに婚姻届けにサインをさせられた。
 そうしなければ平民で着の身着のまま放逐すると脅されれば書かざるを得ないだろ? 

 ニコニコ微笑む子爵令嬢。
 確かに可愛らしい女性ではある。
 か弱そうな感じのする子爵令嬢には、ミネルヴァにない庇護欲をそそられる感じもしなくはない。男性にモテそうなタイプだが、生憎と僕の好みでは無かった。これなら未だ、僕の妻を語った女の方が幾分マシだ。粗末な服を着ていたが、美人でスタイルが良かった。

 正式な妻となった子爵令嬢。
 名前は、ナターシャ・マロウ。

 彼女は僕の一つ下の後輩だと言っていた。
 全く記憶にないが、何かと学園生活を手助けしていたらしい。全く記憶にないが。

「ラシード様の花嫁になれて幸せです」とはにかむナターシャ。

 君は幸せで良いだろう。
 でも僕は幸せを感じない。まあ、こんな事を言えば彼女は泣き出すだろうし、彼女を溺愛する子爵夫妻が烈火の如く怒りだすから絶対に言わないが。

 過去の自分を殴りたい。
 どうしてミネルヴァを裏切ったんだ!と怒鳴りたかった。



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