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28.エリカside
しおりを挟む案内されて入った部屋でラシードの罪を聞かされた。
「以前から違法売春や違法薬物の取引が疑われていた店を摘発して、その中の一人に旦那さんがいまして。売春斡旋や薬物売買はしていなかったのですが――――」
警察の話ではラシードは被害者だという。
営業の仕事だと言われて連れていかれた先が、貴族の屋敷でそこの奥方と関係を結ぶよう強制されたらしい。断れば殺されるか、妻である私を娼館に売り飛ばすと脅されて、断る事が出来なかったみたいだった。
私は愕然とした。
どうして彼を問い詰めなかったのかと!
あの時もっと詳しく話を聞くべきだった。
「それと、旦那さんは薬物は接取していませんが、媚薬を飲まされていた形跡があります」
そんな……。
そんな酷い事されていたなんて……。
「最後に使用された媚薬が非合法の物だったらしく、記憶が混濁している状態です」
「記憶が?」
「はい。最近の事は覚えていないようで……」
「覚えていない?それは記憶喪失という事ですか!?」
「そうですね。ただ記憶を失っているのはここ5年間の記憶です。それ以前の事は鮮明に覚えているのですが」
5年……?
なら私の事も覚えていないんじゃ……。
「あの、治る見込みはあるんでしょうか?」
「それは何とも……。医者の話では部分的な記憶がないだけなので、もしかすると直ぐに思い出せるかもしれないと。ただ、このまま思い出さない可能もあると」
「そんな……」
おぼつか無い足どりでラシードに会いに行くと、そこに居たのは私の知っているラシードじゃなかった。
5年間の記憶を失った別人。
侯爵家の養子だった彼がいた。
「君は誰だい?」
その言葉が胸に突き刺さった。
誰だい?って……。私はエリカよ?ラシードの恋人、貴男の妻なのよ?お願い……分かってよ、ラシード!
「私の事……分からないの?」
すがるような思いでそう聞いた。
「すまない……」
申し訳なさそうに言う彼の表情から本当に忘れられたのだと実感した。
「ところで、僕は何時までここにいればいいのかな?家族が心配している筈だ。せめて連絡だけでも取って貰えないか?」
連絡……。
貴男の家族はもう私だけ。
そう言ってもきっと信じないでしょうね。
侯爵家に連絡して欲しいという彼に私は曖昧に笑うことしかできなかった。
だって、貴男はもう侯爵家の人間じゃない。
伯爵家だって捨てたんだもの。
そう言えたらどんなに良かったか。
結局、私は真実を言う勇気はなかった。
数日後、伯爵家の迎えがやって来た。
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