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20.バルティール伯爵side

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「この際、見合いをしてみてはどうですか?」

 長男のサリムがとんでもないことを言い出した。

「見合い、だと?」

「ええ、そうです」

「いや、しかしな……」

「伯爵クラスは無理でしょうが、子爵家や男爵家なら何とかなるかと。宮廷貴族はまず無理でしょう。ラシードの評判は最悪です。ラシードがいずれミネルヴァ嬢と結婚して侯爵家の一員になる事は暗黙の了解で知っていますし。そのことで我が家を始め一族は忖度されてきたわけです。それが無くなった以上、ただの中位の伯爵家に忖度する者はいません。侯爵家というバックがあったからこそ出世していた伯爵家の者達は軒並みその地位を失くしましたからね。宮廷貴族としての仕事も減りましたし、我が家としても更に利益のあるところに売り込みたいです」

 サリムの言いたい事はよく分かる。
 分かるだけにラシードを婿にと望む家は皆無だろう。

「王都から離れた領地持ちの貴族が狙い目です。辺境の貴族となれば中央と繋がりを持ちたいと思う者も少ないですからね。それにラシードが執心している男爵令嬢のように領地経営に失敗して借金をしている貴族となれば金目当てでラシードを引き取ってくれるかもしれません」

「だが、それでは何時までも金を集られるぞ?」

「それも織り込み済みです。金目当ての結婚は我が家にもメリットがあります。ラシードに多めの持参金を付けておき、後で金を借りに来た場合に限り利子を付けるのです。親戚だから金を“やる”のではなく、“貸す”。利息を少額に設定しておけば問題はありませんよ。身内だからこその良心的な価格設定。そうして数年かけて借金を膨れさせればいいんです。払えなくなるまで待って、後は我が家が領地を買い取りましょう」

「お前という奴は……」

 私はサリムに呆れ返った。
 自分の息子ながら、腹黒すぎる。

「だがな、サリム。それでは御家乗っ取りになる。問題だろう?」

「爵位を継承しなければ問題ありませんよ。ラシードは飽く迄も婿入り。当主は、ラシードの妻に。ただし領地の名義だけバルティール伯爵家にしておけばいいんです。もっとも、ずっと伯爵家の持ち物にはできませんから、ラシードと子爵令嬢の間に生まれた子供が成人した暁にでも土地を相続させればいいでしょう。ただし、割譲という形で伯爵家が一部土地を手に入れる。そうすれば誰も文句は言わないと思いますよ。法律的にも何も問題はありません」

「お前……そこまで考えていたのか?」

「私はバルティール伯爵家の跡取りですよ。伯爵家を存続させる為にはどうしたらいいか常に考えています」

 既に他家を半ば乗っ取る事を視野に入れている長男の計算高さに驚かされた。サリムの考えは悪くない。悪くないどころか魅力的な案だ。今後、ラシードのような人間が一族から出てこないとも限らん。その事を踏まえても閉じ込める家と土地は必要だった。

「よし、それでいこう」

 この時、私は正常な判断ができなくなっていたのだ。

 

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