20 / 66
20.バルティール伯爵side
しおりを挟む
「この際、見合いをしてみてはどうですか?」
長男のサリムがとんでもないことを言い出した。
「見合い、だと?」
「ええ、そうです」
「いや、しかしな……」
「伯爵クラスは無理でしょうが、子爵家や男爵家なら何とかなるかと。宮廷貴族はまず無理でしょう。ラシードの評判は最悪です。ラシードがいずれミネルヴァ嬢と結婚して侯爵家の一員になる事は暗黙の了解で知っていますし。そのことで我が家を始め一族は忖度されてきたわけです。それが無くなった以上、ただの中位の伯爵家に忖度する者はいません。侯爵家というバックがあったからこそ出世していた伯爵家の者達は軒並みその地位を失くしましたからね。宮廷貴族としての仕事も減りましたし、我が家としても更に利益のあるところに売り込みたいです」
サリムの言いたい事はよく分かる。
分かるだけにラシードを婿にと望む家は皆無だろう。
「王都から離れた領地持ちの貴族が狙い目です。辺境の貴族となれば中央と繋がりを持ちたいと思う者も少ないですからね。それにラシードが執心している男爵令嬢のように領地経営に失敗して借金をしている貴族となれば金目当てでラシードを引き取ってくれるかもしれません」
「だが、それでは何時までも金を集られるぞ?」
「それも織り込み済みです。金目当ての結婚は我が家にもメリットがあります。ラシードに多めの持参金を付けておき、後で金を借りに来た場合に限り利子を付けるのです。親戚だから金を“やる”のではなく、“貸す”。利息を少額に設定しておけば問題はありませんよ。身内だからこその良心的な価格設定。そうして数年かけて借金を膨れさせればいいんです。払えなくなるまで待って、後は我が家が領地を買い取りましょう」
「お前という奴は……」
私はサリムに呆れ返った。
自分の息子ながら、腹黒すぎる。
「だがな、サリム。それでは御家乗っ取りになる。問題だろう?」
「爵位を継承しなければ問題ありませんよ。ラシードは飽く迄も婿入り。当主は、ラシードの妻に。ただし領地の名義だけバルティール伯爵家にしておけばいいんです。もっとも、ずっと伯爵家の持ち物にはできませんから、ラシードと子爵令嬢の間に生まれた子供が成人した暁にでも土地を相続させればいいでしょう。ただし、割譲という形で伯爵家が一部土地を手に入れる。そうすれば誰も文句は言わないと思いますよ。法律的にも何も問題はありません」
「お前……そこまで考えていたのか?」
「私はバルティール伯爵家の跡取りですよ。伯爵家を存続させる為にはどうしたらいいか常に考えています」
既に他家を半ば乗っ取る事を視野に入れている長男の計算高さに驚かされた。サリムの考えは悪くない。悪くないどころか魅力的な案だ。今後、ラシードのような人間が一族から出てこないとも限らん。その事を踏まえても閉じ込める家と土地は必要だった。
「よし、それでいこう」
この時、私は正常な判断ができなくなっていたのだ。
長男のサリムがとんでもないことを言い出した。
「見合い、だと?」
「ええ、そうです」
「いや、しかしな……」
「伯爵クラスは無理でしょうが、子爵家や男爵家なら何とかなるかと。宮廷貴族はまず無理でしょう。ラシードの評判は最悪です。ラシードがいずれミネルヴァ嬢と結婚して侯爵家の一員になる事は暗黙の了解で知っていますし。そのことで我が家を始め一族は忖度されてきたわけです。それが無くなった以上、ただの中位の伯爵家に忖度する者はいません。侯爵家というバックがあったからこそ出世していた伯爵家の者達は軒並みその地位を失くしましたからね。宮廷貴族としての仕事も減りましたし、我が家としても更に利益のあるところに売り込みたいです」
サリムの言いたい事はよく分かる。
分かるだけにラシードを婿にと望む家は皆無だろう。
「王都から離れた領地持ちの貴族が狙い目です。辺境の貴族となれば中央と繋がりを持ちたいと思う者も少ないですからね。それにラシードが執心している男爵令嬢のように領地経営に失敗して借金をしている貴族となれば金目当てでラシードを引き取ってくれるかもしれません」
「だが、それでは何時までも金を集られるぞ?」
「それも織り込み済みです。金目当ての結婚は我が家にもメリットがあります。ラシードに多めの持参金を付けておき、後で金を借りに来た場合に限り利子を付けるのです。親戚だから金を“やる”のではなく、“貸す”。利息を少額に設定しておけば問題はありませんよ。身内だからこその良心的な価格設定。そうして数年かけて借金を膨れさせればいいんです。払えなくなるまで待って、後は我が家が領地を買い取りましょう」
「お前という奴は……」
私はサリムに呆れ返った。
自分の息子ながら、腹黒すぎる。
「だがな、サリム。それでは御家乗っ取りになる。問題だろう?」
「爵位を継承しなければ問題ありませんよ。ラシードは飽く迄も婿入り。当主は、ラシードの妻に。ただし領地の名義だけバルティール伯爵家にしておけばいいんです。もっとも、ずっと伯爵家の持ち物にはできませんから、ラシードと子爵令嬢の間に生まれた子供が成人した暁にでも土地を相続させればいいでしょう。ただし、割譲という形で伯爵家が一部土地を手に入れる。そうすれば誰も文句は言わないと思いますよ。法律的にも何も問題はありません」
「お前……そこまで考えていたのか?」
「私はバルティール伯爵家の跡取りですよ。伯爵家を存続させる為にはどうしたらいいか常に考えています」
既に他家を半ば乗っ取る事を視野に入れている長男の計算高さに驚かされた。サリムの考えは悪くない。悪くないどころか魅力的な案だ。今後、ラシードのような人間が一族から出てこないとも限らん。その事を踏まえても閉じ込める家と土地は必要だった。
「よし、それでいこう」
この時、私は正常な判断ができなくなっていたのだ。
196
お気に入りに追加
2,413
あなたにおすすめの小説
義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
【完結】唯一の味方だと思っていた婚約者に裏切られました
紫崎 藍華
恋愛
両親に愛されないサンドラは婚約者ができたことで救われた。
ところが妹のリザが婚約者を譲るよう言ってきたのだ。
困ったサンドラは両親に相談するが、両親はリザの味方だった。
頼れる人は婚約者しかいない。
しかし婚約者は意外な提案をしてきた。
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる