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17.元義兄side
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「ラシード……どうして。お前の前途は明るかった筈なのに……何故……」
母はその場で泣き崩れた。
兄は私を責める事は無かった。そんな気も起きなかったのかもしれない。父は泣き崩れた母を支えながらも怒りの形相で僕を睨み付けた。
その日の夕方、親族達が真っ青な顔で伯爵邸に駆け込んできた。
「ラシード!どういうことだ!ウォーカー侯爵家と縁を切られてミネルヴァ嬢との婚約を撤回されたというのは本当なのか?!」
「何故そうなった!!」
「なんでだ!ラシード!!お前達は上手くやれていただろう?!」
「何があったんだ?!ラシード!」
「ラシード!」
僕を責め立てる親族達。
父はそんな彼等を落ち着かせ、僕の所業を皆に話して聞かせた。
「馬鹿か?!」
「なんでそんな事をしでかしたんだ!!」
「いくらなんでも不敬すぎる!」
「男爵家の娘など愛人として囲ってしまえば良かったんだ!」
「何故そんな馬鹿な真似をした!!」
僕は皆に責められて更に呆然とした。
僕の考えは間違っていたのか? 親族達のいうようにミネルヴァを妻にエリカを愛人にすればこんな事にならなかったのか?だけど僕はエリカを日陰の身にしたくなかった!!
「いい加減にしろ!お前達!!」
父の一喝に皆は静まり返った。
「今はラシードの事はどうでもいい!お前達はラシードを責めるためだけに来たのか?違うだろう!!」
「しかし!」
「ラシードに問うより、先に考えるべき事があるだろうが!!ラシード!お前は自室に戻っていろ!」
有無を言わせない父の言葉に僕は従うしかなかった。
父上は僕を親族の責め苦から助けた訳ではない。バルティール伯爵家のこれからの事を話すために僕を追い払ったのだ。
僕は自室で一人考えていた。考えて考えて考え抜いた。それでも結論は出なかった。思考はグルグル渦巻くばかりで一向に出口が見えなかった。答えが出ないまま僕はいつの間にか眠り込んでいた。
僕が暢気に眠っている間に、両親と兄が親族達と白熱の話し合いをしていたことを僕は知らない。
知らない事は良かったのか、悪かったのか。
屋敷の雰囲気はピリピリしていた。
あれからどうなったのか僕は知らない。
屋敷内には澱んだ空気が充満していくのを肌で感じながら、それでも僕は誰にも何も聞けずにいた。
両親や兄は僕に話しかけることは無い。
使用人達は主人の顔色を窺って行動するものだ。
僕は腫れ物のように扱われた。もしかすると使用人達はそんなつもりはないのかもしれない。ただ、急に戻っていた次男坊の扱いに困っているだけなのかもしれない。時折、心配そうな表情で僕を見る使用人もいる。心配されている。それは僕なのか伯爵家自体なのかは分からないけれど……。
どうしてこうなったのかも分からない。
ただ幸せを望んだだけ。
僕の問いに答えてくれる人は誰もいなかった。
母はその場で泣き崩れた。
兄は私を責める事は無かった。そんな気も起きなかったのかもしれない。父は泣き崩れた母を支えながらも怒りの形相で僕を睨み付けた。
その日の夕方、親族達が真っ青な顔で伯爵邸に駆け込んできた。
「ラシード!どういうことだ!ウォーカー侯爵家と縁を切られてミネルヴァ嬢との婚約を撤回されたというのは本当なのか?!」
「何故そうなった!!」
「なんでだ!ラシード!!お前達は上手くやれていただろう?!」
「何があったんだ?!ラシード!」
「ラシード!」
僕を責め立てる親族達。
父はそんな彼等を落ち着かせ、僕の所業を皆に話して聞かせた。
「馬鹿か?!」
「なんでそんな事をしでかしたんだ!!」
「いくらなんでも不敬すぎる!」
「男爵家の娘など愛人として囲ってしまえば良かったんだ!」
「何故そんな馬鹿な真似をした!!」
僕は皆に責められて更に呆然とした。
僕の考えは間違っていたのか? 親族達のいうようにミネルヴァを妻にエリカを愛人にすればこんな事にならなかったのか?だけど僕はエリカを日陰の身にしたくなかった!!
「いい加減にしろ!お前達!!」
父の一喝に皆は静まり返った。
「今はラシードの事はどうでもいい!お前達はラシードを責めるためだけに来たのか?違うだろう!!」
「しかし!」
「ラシードに問うより、先に考えるべき事があるだろうが!!ラシード!お前は自室に戻っていろ!」
有無を言わせない父の言葉に僕は従うしかなかった。
父上は僕を親族の責め苦から助けた訳ではない。バルティール伯爵家のこれからの事を話すために僕を追い払ったのだ。
僕は自室で一人考えていた。考えて考えて考え抜いた。それでも結論は出なかった。思考はグルグル渦巻くばかりで一向に出口が見えなかった。答えが出ないまま僕はいつの間にか眠り込んでいた。
僕が暢気に眠っている間に、両親と兄が親族達と白熱の話し合いをしていたことを僕は知らない。
知らない事は良かったのか、悪かったのか。
屋敷の雰囲気はピリピリしていた。
あれからどうなったのか僕は知らない。
屋敷内には澱んだ空気が充満していくのを肌で感じながら、それでも僕は誰にも何も聞けずにいた。
両親や兄は僕に話しかけることは無い。
使用人達は主人の顔色を窺って行動するものだ。
僕は腫れ物のように扱われた。もしかすると使用人達はそんなつもりはないのかもしれない。ただ、急に戻っていた次男坊の扱いに困っているだけなのかもしれない。時折、心配そうな表情で僕を見る使用人もいる。心配されている。それは僕なのか伯爵家自体なのかは分からないけれど……。
どうしてこうなったのかも分からない。
ただ幸せを望んだだけ。
僕の問いに答えてくれる人は誰もいなかった。
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