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14.初恋と婚約6

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 ボーンボーン。

 時計が18時を告げます。

 どれくらいぼんやりしていたのでしょうか。
 私は椅子から立ち上がると、窓辺へと移動します。
 眼下に広がるのは燃えるような夕日が沈む光景。

「お父様達に報告をしなければ」

 胸の痛みを堪え、私は両親の部屋に向かいました。


 トントン……ギィ……。

「失礼します。お父様、お母様、ご相談したいことが……」

 こうして私はお義兄様に告げられた一部始終を両親にお話しました。




「なんだと?!ラシードが?」

 私の話を聞いたお父様は目を剥いて驚いています。

「はい、私よりもその女性と結婚したいと」

「相手は妊娠している可能性もあるんだな」

「お義兄様の話ではそうです」

「ふざけた真似を!」

 お父様がダンとテーブルを叩きます。

「だが、ここで伯爵家に怒鳴り込んでも意味はない。一応、ラシードの言い訳は聞いておくか」

「貴方!そんな必要が何処にあるのですか!これは列記とした裏切り行為ではありませんか!!」

「解っている!だがミネルヴァは第二王子殿下の婚約者候補だ!事を荒立てる訳にはいかん!!」

 激昂するお母様をお父様が一喝します。

「失礼致しました……」

 お母様がシュンとなりました。
 内心では怒り心頭なのは間違いないでしょう。

「はぁ……ラシードに監視を付けておくべきだったな。ミネルヴァ、相手の女は解るか?」

「エリカ、という名前しか今のところは……」

「名前だけでは分らんな。だがラシードの行動範囲は狭い。貴族の娘だろう」

「私もそう思います。もしかすると学園で出会ったのかもしれませんわ」

「ああ、その可能性は大いにあるな。ラシード本人の口から聞いた方が早いだろう」

「はい……」

「お前達の婚約は仮だ。正式な物でない以上は声高に裏切りとは言えん」

「はい……」

「だが、このままにしておく訳にはいかない。ラシードに問いただす必要がある」

 お父様の言う通りです。
 今回の事でラシードお義兄様は侯爵家との養子縁組は解消されるでしょう。

 一体どんな女性がラシードお義兄様を射止めたのか。
 いつどこで出会ったのか。
 誰よりも近くにいたというのに私はその存在に気付けなかった。


「ラシードを明日、呼びだす」

 お父様の言葉に私は無言で頷きました。

 翌日、私はお義兄様に会う事はありませんでした。
 両親がそれを許さなかったというのもありますが、私も昨日の今日で、どんな顔をして会えばいいのか分からなかったので都合が良かった。泣きはらして真っ赤になった目と、一晩中眠れなかったせいで隈の出来た顔。とてもではありませんが、人前には出られないような有様でした。化粧で誤魔化しようもないくらい酷い顔だったのです。


 お父様は、お義兄様に厳しい処罰を下すでしょう。
 もしかしたら侯爵家との養子縁組解消だけでは済まなくなるかもしれません。

 後悔はしない――――そう仰いましたね、お義兄様。

 ならば、私もそのお気持ちを汲みたいと思います。
 貴男が選んだ道なのですから。

 それを実行していただきましょう。


 ねぇ、お義兄様。
 貴男は後悔しなくても他の方は後悔されるかもしれませんよ? 

 侯爵家との縁が切れて、貴男はどんな道を歩まれるのか。
 実家の伯爵家を継ぐ長男は既にいらっしゃいます。
 
 宮廷貴族ですもの。
 領地持ちとは話が違います。
 家の手伝い?できませんよね。執事の真似事など。私、知ってますの。お義兄様は本当はとてもプライドの高い方だって。実家だとしても他の下につく真似はできない筈です。ならば文官?武官?侯爵家の怒りを買った人を取り立てようとする奇特な方は果たしているかしら?

 ああ!
 お義兄様が憧れていた第二王子殿下に助けを求めてみますか?
 それもできないでしょうね。お義兄様は殿下に『侯爵家の養子』としてしか見られていませんから。そもそも王宮に入る資格すらお義兄様にはありませんでしたね。

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