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2.元義兄side
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ぐしゃり。
ミネルヴァからの手紙を握りつぶした。
「くそ……」
ぎり、と奥歯を噛みしめる。
何故だ。何故こうなった。
僕はただ愛する人と結ばれたかっただけなのに!
第二王子殿下のように!
どうして! どうしてこうなった!!
ミネルヴァと別れなければ良かったのか!?
そうすれば今も侯爵子息として前途洋々な生活を送れていたのか!?
くそっ!! くそっ!!
「どうしてだ……」
あの日の事が蘇る。
一年前、僕は婚約者だったミネルヴァに別れを告げた。
何時も穏やかに微笑んでいるミネルヴァだったけれど、あの日は違った。
何かに耐えるように、苦しそうに眉を寄せていた。
今思えば僕の言葉に驚きとショックを与えていたのだろう。
婚約と言っても正式に交わしたものではない。
僕はミネルヴァの婚約者候補。
それでも僕達の婚約は半ば決まったも同然だった。
ミネルヴァは申し分ない令嬢だ。
美しく、聡明で、気配り上手。
勿論、他の令嬢に比べて突出した部分はないかもしれないけれど、それでも王子妃になってもなんら問題ない令嬢だった。
ミネルヴァが僕を慕っていた事は知っていた。
子供の頃からの付き合いだ。だが、子供の頃から知っているせいか、僕はミネルヴァに異性としての好意を持つことが出来なかった。
ミネルヴァは可愛いけれど、女性として意識できない。
僕がミネルヴァに向ける感情は、兄妹愛だった。
家族のような。
妹のような。
そんな感じだった。
僕はミネルヴァを愛しているけれど、それは家族として愛しているのであって、異性に向けるような感情ではない。
妹のような存在――――そう思っていたとしてもミネルヴァは僕の未来の妻。第二王子殿下の婚約者候補になってしまったとしてもそれは変わらなかった。漠然とした思いと共に、いずれミネルヴァと結婚するのだろう。そう思っていた。
燃え上がるような恋情は抱けなくても、穏やかで静かな夫婦関係を築いていけると思っていた。
……――あの日までは。
僕は出会ってしまった。
運命の人と。
エリカと出会って、僕の世界は変わった。
彼女の眼差し。
彼女の言葉。
彼女の笑顔。
その全てに恋をした。
淑女として完璧なミネルヴァと違って、エリカは感情をすぐ表に出す。
感情表現が豊かなんだ。
それでいて感情的すぎるというわけでもない。立ち居振る舞いは下位貴族というよりも高位貴族に近いものがあった。ちょっとした仕草の違いだ。特に食事のマナーが綺麗だった。下位貴族令嬢だとそこら辺が高位貴族よりも雑に感じて不快になるが、彼女にはそういった不快さは微塵もわかなかった。
自分と近いのに遠い。
同じに見えて全然違う。
無邪気で、明るくて、一生懸命で……誰よりもまっすぐで純粋なエリカに僕は夢中になった。
こんなにも人を愛おしいと思った事はない。
こんなに手放したくないと思った事もない。
僕はどんどん彼女にのめり込んでいった。
素直なエリカはくるくる表情を変え、その愛らしさに僕はどんどん惹かれていった。
婚約者の存在も忘れて恋に夢中になるなどあってはならない事だった。
だけど、止められなかった。
僕はエリカを何よりも誰よりも愛した。
いけない事だった。
僕はいずれミネルヴァと結婚する。
ミネルヴァを妻にして二人で侯爵家を盛り立てていかなければならない。
分かっていたのに。
それなのに……。
彼女を求めずにはいられなかった。
この恋心を捨てる事も、蓋をする事も、僕には出来なかった。
ミネルヴァからの手紙を握りつぶした。
「くそ……」
ぎり、と奥歯を噛みしめる。
何故だ。何故こうなった。
僕はただ愛する人と結ばれたかっただけなのに!
第二王子殿下のように!
どうして! どうしてこうなった!!
ミネルヴァと別れなければ良かったのか!?
そうすれば今も侯爵子息として前途洋々な生活を送れていたのか!?
くそっ!! くそっ!!
「どうしてだ……」
あの日の事が蘇る。
一年前、僕は婚約者だったミネルヴァに別れを告げた。
何時も穏やかに微笑んでいるミネルヴァだったけれど、あの日は違った。
何かに耐えるように、苦しそうに眉を寄せていた。
今思えば僕の言葉に驚きとショックを与えていたのだろう。
婚約と言っても正式に交わしたものではない。
僕はミネルヴァの婚約者候補。
それでも僕達の婚約は半ば決まったも同然だった。
ミネルヴァは申し分ない令嬢だ。
美しく、聡明で、気配り上手。
勿論、他の令嬢に比べて突出した部分はないかもしれないけれど、それでも王子妃になってもなんら問題ない令嬢だった。
ミネルヴァが僕を慕っていた事は知っていた。
子供の頃からの付き合いだ。だが、子供の頃から知っているせいか、僕はミネルヴァに異性としての好意を持つことが出来なかった。
ミネルヴァは可愛いけれど、女性として意識できない。
僕がミネルヴァに向ける感情は、兄妹愛だった。
家族のような。
妹のような。
そんな感じだった。
僕はミネルヴァを愛しているけれど、それは家族として愛しているのであって、異性に向けるような感情ではない。
妹のような存在――――そう思っていたとしてもミネルヴァは僕の未来の妻。第二王子殿下の婚約者候補になってしまったとしてもそれは変わらなかった。漠然とした思いと共に、いずれミネルヴァと結婚するのだろう。そう思っていた。
燃え上がるような恋情は抱けなくても、穏やかで静かな夫婦関係を築いていけると思っていた。
……――あの日までは。
僕は出会ってしまった。
運命の人と。
エリカと出会って、僕の世界は変わった。
彼女の眼差し。
彼女の言葉。
彼女の笑顔。
その全てに恋をした。
淑女として完璧なミネルヴァと違って、エリカは感情をすぐ表に出す。
感情表現が豊かなんだ。
それでいて感情的すぎるというわけでもない。立ち居振る舞いは下位貴族というよりも高位貴族に近いものがあった。ちょっとした仕草の違いだ。特に食事のマナーが綺麗だった。下位貴族令嬢だとそこら辺が高位貴族よりも雑に感じて不快になるが、彼女にはそういった不快さは微塵もわかなかった。
自分と近いのに遠い。
同じに見えて全然違う。
無邪気で、明るくて、一生懸命で……誰よりもまっすぐで純粋なエリカに僕は夢中になった。
こんなにも人を愛おしいと思った事はない。
こんなに手放したくないと思った事もない。
僕はどんどん彼女にのめり込んでいった。
素直なエリカはくるくる表情を変え、その愛らしさに僕はどんどん惹かれていった。
婚約者の存在も忘れて恋に夢中になるなどあってはならない事だった。
だけど、止められなかった。
僕はエリカを何よりも誰よりも愛した。
いけない事だった。
僕はいずれミネルヴァと結婚する。
ミネルヴァを妻にして二人で侯爵家を盛り立てていかなければならない。
分かっていたのに。
それなのに……。
彼女を求めずにはいられなかった。
この恋心を捨てる事も、蓋をする事も、僕には出来なかった。
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