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番外編
38.公爵side
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クラルヴァイン公爵家は国随一の貴族としての誇りを持っている。
そんな我が公爵家が長年身内に取り込みたいと思い続けている子爵家がある。
それがニシゴリ子爵家だ。
たかが子爵家と思うかもしれない。下位貴族相手ならどうにでもなると思う者もいるだろう。だが、この子爵家は国でも独特の地位を築いており、おいそれと手を出せない存在だ。
自分の息子か娘を子爵家の直系と婚姻させたいと画策したことは何度もあるが、どうも上手くいかない。上手くいかない処か詰んでいる状況だ。
かの子爵家は基本恋愛結婚で、相手の身分を問わない。
貴族としてどうかと思うが、昨今の貴族は色々な意味で家を存続させるために貴族ではない階級の人間との婚姻が増えているのも事実。
つい最近まで世論を騒がせていたキング侯爵家などその代表格だろう。
キング侯爵家に「魔力持ち」が生まれなくなって久しい。
表沙汰になっていないが「魔力持ち」の平民の女性をわんさか囲い込んで子作りに励んでいた過去がある。一昔前の話で、当時は「魔力持ち」の確保という名目もあり目を瞑られていたのだ。
代々魔術師を輩出してきたキング侯爵家に「魔力持ち」が生まれてこないのは他家以上に致命的だった。ライアンが生まれた事で漸く誇りを取り戻せたと声高に言う程だ。よほど屈辱だったのだろう。
ただ、連中はやり過ぎた。
ライアンが魔術師としての功績を上げる度にキング侯爵の態度は目に余るものになっていった。恐らく、今までの雪辱を晴らそうとするかのように。本家の当主がそうなのだ。当然、分家もそれに倣うようになった。
今回の裁判。
キング侯爵に味方する貴族がいなかったのも彼らの傲慢によるものだ。
その上、タナベル家とニシゴリ子爵家を敵に回したのだ。
どちらにしても彼の負けは決まっていたも同然だ。
「やはり善行は行うものだ」
「父上?ボケたんですか?」
「誰がボケだ。失礼な息子だな」
「善行などという世迷言を仰るからです。父上の場合は悪行でしょう」
何という言い草。
実の息子とは思えぬ言葉の数々。
「酷い事を言う。私のガラス細工のような心は粉々になってしまうではないか」
「ハハハ。ご安心ください。父上の心は鋼ですから。まったく、馬鹿な事を言わずに支度してください。今日は末の妹が里帰りして来る日なんですから」
「ああ、今日だったか」
王に嫁いだ末娘。
王子を産んで亡くなった事になっている娘は実は生きている。
全ては我が公爵家と国王の茶番だ。
「三ヶ月だそうですよ」
「なに!? 結婚してまだ一ヶ月だろう!?」
「…………何を驚いているんですか。オリビアとナインが懇ろになっているのは知っているでしょう」
「まぁ、それはそうだが」
「いいじゃありませんか。今のオリビアは公爵家の遠縁の娘。没落貴族の娘で社交界にも出た事とのない平民同然という設定なんですから」
「はぁ~、設定、確かにそう言う設定だ」
「ため息つかないでくださいよ。父上と陛下で考えたものでしょうに。まさか忘れたとは仰りませんよね」
「勿論だとも! 」
ふんっと鼻を鳴らすと息子は呆れたように肩をすくめる。本当に腹が立つ態度をする奴だ。
この愚息の名前は、セドリック・クラルヴァイン。
公爵家を継ぐ者として恥ないように育てたというのにどうも捻くれた男になってしまった。
私似の容姿だが、性格は一体誰に似ているんだ?
こんなに性悪になるとはな。淑女の中の淑女であった妻は優しい女だったし……謎だ。やはり環境のせいか?
「では私は先に行きますので。あー、父上くれぐれもナインに失礼のないようにお願いします。彼は現役の『王家の影』なんですから」
「解っている。だが、お前の口から彼に対する敬いの言葉が出ることに違和感しかないぞ」
「仕事上、必要なだけです」
そう言って、さっさと出て行く我が息子の後ろ姿を見送る。
あの息子が公爵家の次期当主になるのかと思うと頼もしいと感じると同時に少しだけ心配になってくる。
捻くれ者だからな。
そんな我が公爵家が長年身内に取り込みたいと思い続けている子爵家がある。
それがニシゴリ子爵家だ。
たかが子爵家と思うかもしれない。下位貴族相手ならどうにでもなると思う者もいるだろう。だが、この子爵家は国でも独特の地位を築いており、おいそれと手を出せない存在だ。
自分の息子か娘を子爵家の直系と婚姻させたいと画策したことは何度もあるが、どうも上手くいかない。上手くいかない処か詰んでいる状況だ。
かの子爵家は基本恋愛結婚で、相手の身分を問わない。
貴族としてどうかと思うが、昨今の貴族は色々な意味で家を存続させるために貴族ではない階級の人間との婚姻が増えているのも事実。
つい最近まで世論を騒がせていたキング侯爵家などその代表格だろう。
キング侯爵家に「魔力持ち」が生まれなくなって久しい。
表沙汰になっていないが「魔力持ち」の平民の女性をわんさか囲い込んで子作りに励んでいた過去がある。一昔前の話で、当時は「魔力持ち」の確保という名目もあり目を瞑られていたのだ。
代々魔術師を輩出してきたキング侯爵家に「魔力持ち」が生まれてこないのは他家以上に致命的だった。ライアンが生まれた事で漸く誇りを取り戻せたと声高に言う程だ。よほど屈辱だったのだろう。
ただ、連中はやり過ぎた。
ライアンが魔術師としての功績を上げる度にキング侯爵の態度は目に余るものになっていった。恐らく、今までの雪辱を晴らそうとするかのように。本家の当主がそうなのだ。当然、分家もそれに倣うようになった。
今回の裁判。
キング侯爵に味方する貴族がいなかったのも彼らの傲慢によるものだ。
その上、タナベル家とニシゴリ子爵家を敵に回したのだ。
どちらにしても彼の負けは決まっていたも同然だ。
「やはり善行は行うものだ」
「父上?ボケたんですか?」
「誰がボケだ。失礼な息子だな」
「善行などという世迷言を仰るからです。父上の場合は悪行でしょう」
何という言い草。
実の息子とは思えぬ言葉の数々。
「酷い事を言う。私のガラス細工のような心は粉々になってしまうではないか」
「ハハハ。ご安心ください。父上の心は鋼ですから。まったく、馬鹿な事を言わずに支度してください。今日は末の妹が里帰りして来る日なんですから」
「ああ、今日だったか」
王に嫁いだ末娘。
王子を産んで亡くなった事になっている娘は実は生きている。
全ては我が公爵家と国王の茶番だ。
「三ヶ月だそうですよ」
「なに!? 結婚してまだ一ヶ月だろう!?」
「…………何を驚いているんですか。オリビアとナインが懇ろになっているのは知っているでしょう」
「まぁ、それはそうだが」
「いいじゃありませんか。今のオリビアは公爵家の遠縁の娘。没落貴族の娘で社交界にも出た事とのない平民同然という設定なんですから」
「はぁ~、設定、確かにそう言う設定だ」
「ため息つかないでくださいよ。父上と陛下で考えたものでしょうに。まさか忘れたとは仰りませんよね」
「勿論だとも! 」
ふんっと鼻を鳴らすと息子は呆れたように肩をすくめる。本当に腹が立つ態度をする奴だ。
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「解っている。だが、お前の口から彼に対する敬いの言葉が出ることに違和感しかないぞ」
「仕事上、必要なだけです」
そう言って、さっさと出て行く我が息子の後ろ姿を見送る。
あの息子が公爵家の次期当主になるのかと思うと頼もしいと感じると同時に少しだけ心配になってくる。
捻くれ者だからな。
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