【完結】魔法薬師の恋の行方

つくも茄子

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本編

26.王様からの依頼

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 数ヶ月前――




「おい、ノア。なに景気の悪い顔してんだ?運気が下がっちまうぞ。そんな今のお前にピッタリの仕事を紹介してやる!オリバーの教育係になれ!」

「……オリバー?誰?」

「俺の息子だ」

「ルーカスの?」

「そうだ。三番目の子だ」


 王様になっても僕や親しい人の前では口調が乱暴になるルーカスは、腕に小さな赤ん坊を抱えていた。別邸と仕事場だけの生活。以前と変わらないルーティンなのに何故か食欲もなくなり睡眠不足になっていた僕を家族だけでなくルーカスをも心配させていたのかと思うと情けなくなった。

 それにしてもいつの間に子供が増えたんだろう?

 頭が上手く回らない。
 そういえばここ最近新聞や雑誌を見ていないと気付いた。
 情報が遅れているのはそのせいかな?
 今まで一緒に暮らしていた家族やライアンが僕に必要最低限の情報を話してくれていた。新聞だって普通に住んでいる家にあったから時々読んでいた程度だ。僕……一人で生活できないタイプだったんだ。

「そっか、息子。王子様か。おめでとう。結婚はいつ?」

「は? しねーよ、そんなもん。ていうか国王の結婚は正妃の時しかないもんだ」

「? だからでしょ?王子を産んだ女性を正妃にするんじゃなかった?確か最初に言ってたよね?」

「よく覚えてるな」

「だって結構衝撃的な発言だったもん。『側妃は誰が正妃になってもおかしくないだけの後ろ盾を持ったものしか受け付けない。我こそはと思った者だけ後宮入りしろ。そこで男児を産んだ者を正妃と定める』って。今聞いてもメチャクチャな事を言ってるよね。でもそれが一番揉めなくていいんじゃないかなって事で受け入れられたでしょ。僕、あの時、王位継承争いで貴族の頭の中がおかしくなったんじゃないかって思ったんだよね」

「まぁ、高位貴族になるほど皆疲れ切ってはいたな。だけどな、これが通用したのはある意味で合理的と判断されたからだ。で、話は戻るが、俺には漸く待望の王子が産まれた。王子の生母は公爵家の令嬢だ。後見人も生母の実家がしてくれる。こいつが次の王だ」

「うん。だから公爵令嬢を正妃にするんでしょ?」

「あいにく、それは無理だ。オリバーの生母は産褥死した」

「え……」

「つまり、この王子は後宮での後見人が不在というありえない状態になっちまった。うちの国では死者を正妃に据える事はできねぇからな。そうなると他の側妃達は俄然とやる気に満ちてやがる。そうだろ?正妃になるはずの妃が死んじまったんだ。ならまだ正妃になれるチャンスはあるって思う女は多い。産まれたばかりの王子が不慮の事故で不幸な結果にでもなれば尚更だ」

「……」

「お前の職場にはもう休職届は提出してある。無期限だから安心しろ。因みに、休職期間中は給料でねぇからな。アルバイトとしてオリバーの世話をしてろ。お前の家族の許可も取ってあるから今日から後宮に住めよ」
 
 えっ!?今なんて言ったの?後宮に住むって聞こえたんだけど……いやいや、僕は平民だよ?庶民は後宮に住めない。あり得ないでしょ! 混乱した頭でもこれだけは言える。絶対に無理だと。
 
「ちょっ!無理だって!」

 思わず声が大きくなってしまったけど仕方ないと思う。ここは僕の住む家なんだから大声で拒否するのは当たり前の事だ。だけどルーカスも僕と同じで頑固なのだ。自分の考えを改めたりしない。どうやって説得しようかと考えていたのが悪かったのだろう。目の前に差し出された赤ん坊をうっかり受け取ってしまった。

 腕の中にいる赤ん坊は僕に向かって必死に手を伸ばしてきた。

「ァー」
 
 とても可愛いらしい。
 基本、僕は赤ん坊処か小さな子供の存在が周りにいなかったせいか、子供が苦手だった。幼馴染のルーカスは八歳下だったけど、幼少の頃から頭の回転が速く才気煥発だったせいか彼にだけは何故か苦手意識は湧かなかったが、それは例外中の例外だと思っていたのに。

「……かわいい」

 つい言葉に出てしまった。するとルーカスは満足そうに笑う。
 
「そうだろう?可愛さだけは保証するぜ。俺に似てイケメンだからな」

 そういう意味じゃないよ。そう思いつつも黙っていた。余計な事を言うと長くなるからだ。それくらいの付き合いの長さと深さはあった。

「いや~~。それにしても流石は俺の子。何処が自分にとって安全地帯なのかよ~~く分かってやがる」

 今この状況でその冗談は全く笑えないよ。
 ルーカスがあまりにも軽く言うものだから事の深刻さを僕は理解していなかった。

 その後、僕は赤ん坊を抱いたまま後宮に連行されたのは言うまでもない。入口の衛兵さんは僕を見て驚いた顔をして固まっていた。まぁそうだよね。普通こんな所後宮に男は入れないもんね。
 
 僕の後宮での生活がここから始まった。


 

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