上 下
22 / 52
本編

22.キング侯爵side

しおりを挟む
 何故だ?!
 何故こんなことになった!!

 私は今、下民共に訴えられ裁判の日を待つ身だ。
 下々の分際で侯爵の私に歯向かうとは何様だ!!!

 



「ライアン、何処に行く気だ?」

「決まってる。ノアを迎えに行くんだ」

「馬鹿者!!お前はダズリン男爵令嬢と結婚するんだ!!!」

「バカは父上の方だよ」

「なんだと?!」

「父上、現状を理解して言ってる?」

「当たり前だ!彼女の胎にはお前の息子がいる。つまり、私にとって孫息子がいるんだぞ!?侯爵家の跡取りがだ!!」

「まだ息子が生まれるとは限らないけどね。まぁ、確かに父上の孫がいるのは認めるけど」

「なら!」

「でもさ、ソレが人の形をして産まれてくる保証はないことを理解してる?」

「な……に?」

「新聞や雑誌で今注目されているエラ・ダズリン男爵令嬢の胎の子は『キメラ』の可能性が高い。どんな姿で産まれてくるか分からない、って言ってんの。もしかしたら手や足が四本も五本もある異形の姿をしてるかもしれないし、ゴブリンの顔をしてるかもしれない。もしくは全く人とは異なった……そうだなスライムとか?そんな姿に生まれてくるかもしれない。父上はそれを覚悟してる?」

「ダズリン男爵令嬢はとして生まれてくると言っていたぞ」

「理論上はね。けど実際の処は生まれてこない事には何とも言い難いはずだ。だから、彼女は色んな研究所から狙われている訳でしょ?本当に人間として生まれるのか、それともとして誕生するのか、それは誰にも分からない。マッドな連中からしたら眉唾の代物だ。父上もそれが分かっているから彼女を保護してるんだろ?」

「そ、それは……」

 ライアンの言う通りだ。
 その懸念が常にある。
 屋敷の中は安全だが外はそうではない。 

「運よく、彼女の子供が人間の形で産まれたとしても成長過程でどんな風になるかなんて誰にも分からない筈だ。もしかしたら巨人のようにデカくなる可能性だってある。人の姿をしていたからって言葉が通じるとも限らないしね」

「……」

「それに、ここまで騒がれてるんじゃ、うちで育てるなんて無理だ。素性を隠して孤児院に入れた方が健全だよ。それか、彼女に整形してもらって全くの別人になって別の土地で母子で暮らしてもらうかだろうね。その場合、養育費くらいは僕も出すよ」

「ライアン!生まれてくる子供は魔力持ちの可能性が高い!!お前と彼女の子供なら更に強い力を持っている筈だ!!」

「だから何?魔力があろうがなかろうが僕には関係ない話だよ。父上も何時までも過去の栄光に縋って生きるのは止めたら?」

「なんだとっ!?」

「だってそうだろ?僕以外に一族で魔力持ちなんてもういないじゃないか。これから先だって生まれてくる確率の方が低いっていうのに何時までも『魔術師の名門』の看板に固執するのはどうかと思うよ。現政権は、魔力持ちが生まれなくなってもいいように対策をとっている段階だろう?その真逆の事をしてるから父上の一派は煙たがられてるんじゃないか」

「……ッ!」

「父上、時代の変わり目だ。これ以上過去に囚われていたら取り返しがつかなくなる。その前に手を引いた方が良い。これは息子からの忠告だ。じゃ、僕は行くよ」

「待て!ラ―――……」

 ガチャ、パタン。

 息子は振り返ることも無く出て行った。

 ライアン。
 何故だ。
 何故分からない。

 お前が生まれるまでキング侯爵家がどれほどの屈辱を味わったか。
 キング侯爵家は優秀な魔術師を輩出してきた家柄だ。建国の王を支えた偉大な魔術師を祖に持ち、それ故に「侯爵」の位を得たのだ。これで領地持ちの貴族ならば何処かの段階で諦めて別の道を選んだかもしれん。だが、我が一族は代々領地を持たない宮廷貴族だ。だからこそ先祖の功績によってのみ与えられた地位を無にする訳にはいかなかった。魔術師の家系に魔力持ちが生まれてこないという致命的な問題を抱えながら「文官」として登城せねばならなくなった一族の無念を何故理解しないのだ!!?


 

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...