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本編
22.キング侯爵side
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何故だ?!
何故こんなことになった!!
私は今、下民共に訴えられ裁判の日を待つ身だ。
下々の分際で侯爵の私に歯向かうとは何様だ!!!
「ライアン、何処に行く気だ?」
「決まってる。ノアを迎えに行くんだ」
「馬鹿者!!お前はダズリン男爵令嬢と結婚するんだ!!!」
「バカは父上の方だよ」
「なんだと?!」
「父上、現状を理解して言ってる?」
「当たり前だ!彼女の胎にはお前の息子がいる。つまり、私にとって孫息子がいるんだぞ!?侯爵家の跡取りがだ!!」
「まだ息子が生まれるとは限らないけどね。まぁ、確かに父上の孫がいるのは認めるけど」
「なら!」
「でもさ、ソレが人の形をして産まれてくる保証はないことを理解してる?」
「な……に?」
「新聞や雑誌で今注目されているエラ・ダズリン男爵令嬢の胎の子は『キメラ』の可能性が高い。どんな姿で産まれてくるか分からない、って言ってんの。もしかしたら手や足が四本も五本もある異形の姿をしてるかもしれないし、ゴブリンの顔をしてるかもしれない。もしくは全く人とは異なった……そうだなスライムとか?そんな姿に生まれてくるかもしれない。父上はそれを覚悟してる?」
「ダズリン男爵令嬢は理論上は普通の子供として生まれてくると言っていたぞ」
「理論上はね。けど実際の処は生まれてこない事には何とも言い難いはずだ。だから、彼女は色んな研究所から狙われている訳でしょ?本当に人間として生まれるのか、それとも別の生き物として誕生するのか、それは誰にも分からない。マッドな連中からしたら眉唾の代物だ。父上もそれが分かっているから彼女を保護してるんだろ?」
「そ、それは……」
ライアンの言う通りだ。
その懸念が常にある。
屋敷の中は安全だが外はそうではない。
「運よく、彼女の子供が人間の形で産まれたとしても成長過程でどんな風になるかなんて誰にも分からない筈だ。もしかしたら巨人のようにデカくなる可能性だってある。人の姿をしていたからって言葉が通じるとも限らないしね」
「……」
「それに、ここまで騒がれてるんじゃ、うちで育てるなんて無理だ。素性を隠して孤児院に入れた方が健全だよ。それか、彼女に整形してもらって全くの別人になって別の土地で母子で暮らしてもらうかだろうね。その場合、養育費くらいは僕も出すよ」
「ライアン!生まれてくる子供は魔力持ちの可能性が高い!!お前と彼女の子供なら更に強い力を持っている筈だ!!」
「だから何?魔力があろうがなかろうが僕には関係ない話だよ。父上も何時までも過去の栄光に縋って生きるのは止めたら?」
「なんだとっ!?」
「だってそうだろ?僕以外に一族で魔力持ちなんてもういないじゃないか。これから先だって生まれてくる確率の方が低いっていうのに何時までも『魔術師の名門』の看板に固執するのはどうかと思うよ。現政権は、魔力持ちが生まれなくなってもいいように対策をとっている段階だろう?その真逆の事をしてるから父上の一派は煙たがられてるんじゃないか」
「……ッ!」
「父上、時代の変わり目だ。これ以上過去に囚われていたら取り返しがつかなくなる。その前に手を引いた方が良い。これは息子からの忠告だ。じゃ、僕は行くよ」
「待て!ラ―――……」
ガチャ、パタン。
息子は振り返ることも無く出て行った。
ライアン。
何故だ。
何故分からない。
お前が生まれるまでキング侯爵家がどれほどの屈辱を味わったか。
キング侯爵家は優秀な魔術師を輩出してきた家柄だ。建国の王を支えた偉大な魔術師を祖に持ち、それ故に「侯爵」の位を得たのだ。これで領地持ちの貴族ならば何処かの段階で諦めて別の道を選んだかもしれん。だが、我が一族は代々領地を持たない宮廷貴族だ。だからこそ先祖の功績によってのみ与えられた地位を無にする訳にはいかなかった。魔術師の家系に魔力持ちが生まれてこないという致命的な問題を抱えながら「文官」として登城せねばならなくなった一族の無念を何故理解しないのだ!!?
何故こんなことになった!!
私は今、下民共に訴えられ裁判の日を待つ身だ。
下々の分際で侯爵の私に歯向かうとは何様だ!!!
「ライアン、何処に行く気だ?」
「決まってる。ノアを迎えに行くんだ」
「馬鹿者!!お前はダズリン男爵令嬢と結婚するんだ!!!」
「バカは父上の方だよ」
「なんだと?!」
「父上、現状を理解して言ってる?」
「当たり前だ!彼女の胎にはお前の息子がいる。つまり、私にとって孫息子がいるんだぞ!?侯爵家の跡取りがだ!!」
「まだ息子が生まれるとは限らないけどね。まぁ、確かに父上の孫がいるのは認めるけど」
「なら!」
「でもさ、ソレが人の形をして産まれてくる保証はないことを理解してる?」
「な……に?」
「新聞や雑誌で今注目されているエラ・ダズリン男爵令嬢の胎の子は『キメラ』の可能性が高い。どんな姿で産まれてくるか分からない、って言ってんの。もしかしたら手や足が四本も五本もある異形の姿をしてるかもしれないし、ゴブリンの顔をしてるかもしれない。もしくは全く人とは異なった……そうだなスライムとか?そんな姿に生まれてくるかもしれない。父上はそれを覚悟してる?」
「ダズリン男爵令嬢は理論上は普通の子供として生まれてくると言っていたぞ」
「理論上はね。けど実際の処は生まれてこない事には何とも言い難いはずだ。だから、彼女は色んな研究所から狙われている訳でしょ?本当に人間として生まれるのか、それとも別の生き物として誕生するのか、それは誰にも分からない。マッドな連中からしたら眉唾の代物だ。父上もそれが分かっているから彼女を保護してるんだろ?」
「そ、それは……」
ライアンの言う通りだ。
その懸念が常にある。
屋敷の中は安全だが外はそうではない。
「運よく、彼女の子供が人間の形で産まれたとしても成長過程でどんな風になるかなんて誰にも分からない筈だ。もしかしたら巨人のようにデカくなる可能性だってある。人の姿をしていたからって言葉が通じるとも限らないしね」
「……」
「それに、ここまで騒がれてるんじゃ、うちで育てるなんて無理だ。素性を隠して孤児院に入れた方が健全だよ。それか、彼女に整形してもらって全くの別人になって別の土地で母子で暮らしてもらうかだろうね。その場合、養育費くらいは僕も出すよ」
「ライアン!生まれてくる子供は魔力持ちの可能性が高い!!お前と彼女の子供なら更に強い力を持っている筈だ!!」
「だから何?魔力があろうがなかろうが僕には関係ない話だよ。父上も何時までも過去の栄光に縋って生きるのは止めたら?」
「なんだとっ!?」
「だってそうだろ?僕以外に一族で魔力持ちなんてもういないじゃないか。これから先だって生まれてくる確率の方が低いっていうのに何時までも『魔術師の名門』の看板に固執するのはどうかと思うよ。現政権は、魔力持ちが生まれなくなってもいいように対策をとっている段階だろう?その真逆の事をしてるから父上の一派は煙たがられてるんじゃないか」
「……ッ!」
「父上、時代の変わり目だ。これ以上過去に囚われていたら取り返しがつかなくなる。その前に手を引いた方が良い。これは息子からの忠告だ。じゃ、僕は行くよ」
「待て!ラ―――……」
ガチャ、パタン。
息子は振り返ることも無く出て行った。
ライアン。
何故だ。
何故分からない。
お前が生まれるまでキング侯爵家がどれほどの屈辱を味わったか。
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