【完結】魔法薬師の恋の行方

つくも茄子

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本編

16.とある学生side 

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 学院長室から出られた時は外はどっぷりと暮れていた。
 僕は学院長から卒業までの三ヶ月間の停学を言い渡された。卒業はさせてやるが出席はするなという事だそうだ。偉そうに「反省するように」なんて言っていたが、何を反省しろっていうんだ?!コニー子爵が勝手に僕の開発した物を改造していたんだからどうしようもないじゃないか!!

 その後、刑事に説明された。
 子爵のお抱え研究者たちが僕の開発した魔法道具や魔法薬を元に色々と改造して密売していたらしいのだ。もっとも、その研究者達もお抱えというよりもアングラな連中だったようだ。「気付かなかったのか」なんて言われたけど子爵の研究施設では皆黙々と作業しているだけで話かける者なんて誰もいなかったんだから仕方ないじゃないか。僕の開発した物の多くは人身売買の奴隷に使用されていたと聞いて驚いた。迷子防止用の道具は奴隷たちの位置情報を把握するために使われていたらしいし、通信機も逃亡防止用に使っていたみたいだった。この国は数年前から奴隷を禁止している。売り買いは重罪に値するけど他国ではそれがまかり通っている国はまだあるから、多くが他国に売り飛ばされたようだった。でもそれは表向きで、裏組織には未だに非合法的に取引されているって聞いた。だから犯罪組織にとっては僕の作った物が高価になるので目を付けられていたみたいだ。そして今回たまたま僕が作った魔法道具が使われただけであって僕自体は何もしていない。僕はただ利用されただけだと訴えてみたけど、それすら聞き入れてもらえなかったよ。

 何もしていないのに……。

 先生からも「知らなかったという言葉では済まされない問題だ。ローガンが今回刑罰に処されなかったのは偏に君が未成年で責任能力がないと判断されたからだ。それに君が魔術学院の生徒ということもある。刑事たちは何も言わなかったが恐らく上からの圧力がかかったに違いない」と言われた。
 
 納得できなかった。
 だってそうだろ?使用目的まで考えながら研究する人間なんていない。理不尽だ!

 そんな感情が顔にも出ていたのだろう。
 先生から叱責された。

「いいか、ローガン。私も君が故意で開発した訳でない事は分かっている。子爵に良いように利用されたのもな。だけど君はやり過ぎたんだよ。魔法開発を悪用されれば大変な事になる事を自覚しなければならない。刑事たちは気付いていなかったが、ローガンの開発した魔法薬の多くが魔法薬草を多数使用していた。中には混ぜ込めば劇薬になる恐れがある物もあった。君は魔法道具研究が専門だ。だからこそ見逃された部分もある。危険になると言う事はどこかで分かっていたのではないか?」

「!!!」

「身の覚えのある顔だな」

「理論上は、そうなる場合もあるだけです。絶対に危険だとは言い切れない……」

「ああ、まだ臨床実験もしていない段階だからな」

「…………はい」

 返す言葉がなかった。

「終わった事を何時までも嘆くことはできない。君はこれを踏まえて行動しなければならない」

「はい」

「謹慎処分だけで済んだのは本当に幸いだ。この三ヶ月間自分の今後をよく考える事だ」

 先生はそれ以上何も言うことはなかった。ただ無言で肩をポンと叩かれただけだった。僕はその間中、ずっと顔を上げられないまま俯いていただけだった。だから気付かなかった。先生が憐れむように僕を見ていたことを。その意味を――――







 
 あれから一ヶ月経った頃に魔法道具研究からの内定が取り消された。


「な、なんで……どうしてこんな…………」

 信じられなかった。
 内定取り消しの理由が詳細に書かれた手紙も同封されていた。
 そこには『君の開発した魔法道具の危険性を考慮し、今後は魔法道具研究に携わる事を認めない』と書かれていた。
 意味がわからない!?
 子爵が捕まってその悪事が公表されたのも理由だと書かれていたけど、僕には関係ないじゃないか!そもそも僕以外の奴が勝手に改造して販売をしていたんだぞ!?僕にどうしろっていうんだ!!
 抗議しようにも相手は国だ。
 負けは確定している。
 それならばと、少々妥協して別の就職先の面接を受けたものの何故か全て落とされてしまった。理由を聞いてみても同じだった。どこへ行っても同じ理由で落とされたのだ。『君の開発したものは我々に合わない』とか、『危険な物は置いておけない』、『他の者の方が有能である』などと言われてしまうのだ。僕の開発するものはどれも画期的で素晴らしいものだと自負しているのにコニー子爵の件が尾を引いているのか僕の技術を認めてくれない企業が多かった。

 僕は孤児だ。
 学院卒業後には孤児院を出て行かないといけない。
 卒業まで二ヶ月を切った今なりふり構っていられなくなった僕は誘われるままに裏社会に足を踏み込んでいた。
 裏社会の人間は僕の技術を歓迎してくれた。表の世界よりも遥かに良い待遇を用意してくれた。それは僕が捕まる日まで続いた。

 



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