【完結】魔法薬師の恋の行方

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
12 / 52
本編

12.姉side

しおりを挟む
 犬も三日飼えば情が移る――――


 ライアンと付き合い始めた頃の弟は、まさにだった。本人は全く気付いていなかったけど、家族や親戚達、ノアに近しい人ほど本人以上にその事に気付いていた。それ以上に理解していた。
 ノアを射止めるためにはだと。
 今の状況はノアがある程度妥協した結果に過ぎない事をよく分かっていた。

「こうなったのもある意味必然よね」

「母さん……」

「あら?何に驚いているの?ミラも同じような事を考えていたでしょう?」

 言い返せない。
 
「でもね、ミラ。ノアの判断は正しいわ。どんなに無視されようと粘り強いライアン君と彼の強力な味方たちファンクラブが相手なのよ?無駄な抵抗は止めて大人しく状況を受け入れた方が何かと安全ですものね。あれ以上拗らせたりしたらライアン君、そのうちノアを監禁してしまいそうだったもの。アレは危なかったわ」

 のほほんと笑いながら紅茶を飲んでいる母を眺めながら当時を思い出す。
 確かに狂気じみていた。
 ノアが断るのが面倒になって付き合うのを了承しなかったら一体どうなっていた事やら。

「まぁ、愛情の温度差はあったけれどそれは仕方ないわね。だって、ノアは研究に時間が取れなくなることが嫌で恋人になったようなものですものね。妙な友情を感じたからこそ嫌悪感は湧かなかったみたいだけど。あの状況でノアを落とすなんて流石だわ」

 うんうんと一人納得している母は置いておいて、実際はそうなのだ。
 魔術学院の名物カップルとなっても尚、私には二人の仲はどうみてもライアンの一方通行だった。
 そもそも弟は研究にしか興味が無かったし、恋愛などする暇があれば少しでも研究に没頭したいという性格である事は重々承知している。だから、私は二人が一緒に暮らすと聞いた時は少し心配したものだ。ライアンはああ見えて意外と寂しがり屋だから、弟が逃げないように必死になるだろうと思ってた。始終束縛してくるライアンにノアが嫌気をさして逃げ出すかと思っていたんだけど……世の中、分からないものだわ。
 
 あの弟がライアンに惚れるなんて。
 

「それにしても……このクッキーとても美味しいわ!どこのお店かしら?」

 先程までの会話がまるで無かったかのように話題を変える母を見て苦笑してしまう。
 こういうところがノアとよく似ているのよね。
 容姿もノアは母さん似の黒髪黒目の童顔。対して姉の私は父さん似の金髪碧眼。だから、初対面で姉弟と分かる人間はゼロ。

 性格もノアは母さん似、というよりも母さんの実家似なんだよね。

 母さんの実家は子爵家。

 とにかく、ちょっと変わっている貴族で、貴族らしくない。どちらかというと学者肌。女はそうでもないけど男の殆どが変人鬼才のオンパレード。自室の研究室に籠って出てこないらしい。

 母さんの父、私とノアの祖父なんか特に顕著で、妻子をほったらかしにして研究一筋。
 しかもかなり自由奔放。よくもまぁ、祖母は祖父を見限らなかったものだと感心する。タコ糸の切れた凧みたいな祖父は見捨てられていてもおかしくないというのに。……それくらい研究に情熱を燃やしている一族なので、我が家も当然その影響を受けているわけ。主にノアが。

『ノアはお父様そっくり』

 とは母さんの口癖のようなものだ。

 だからという訳でもないけど、私と母さんがノアとライアンの交際を認めた理由の一旦はそこにある。ふわふわと世間ずれした弟をしっかりと繋ぎ止めてくれる相手が必要だったのだ。
 まさか裏切られるとは夢にも思わなかったけどね。
 ノアに男心について説教していた頃の自分が懐かしい。あれは何年前?もうすぐ四年経つんだっけ? はぁ、何とも言えない複雑な気分だわ。



 

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完結】トルーマン男爵家の四兄弟

谷絵 ちぐり
BL
コラソン王国屈指の貧乏男爵家四兄弟のお話。 全四話+後日談 登場人物全てハッピーエンド保証。

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

処理中です...