上 下
10 / 52
本編

10.男爵令嬢side

しおりを挟む
 
 
「パパ、あの人は誰なの?」

「ん?誰の事だい?」

「あそこにいる男性よ。アッシュグレーの髪をした人。とっても綺麗だわ」

「ああ、彼はキング侯爵家の御子息だ」

「侯爵家!」

「ライアン・キング様だ。次期侯爵で、将来を期待された魔術師でもある」

「凄い!!」

「ははっ。エラはライアン様の後輩になるんだ。もしかするとエラも魔術師になるかもしれないな」

「え!?」

「魔力を持つ特別な子は魔術学院に通うのが決まりだ。エラも来年からそこに通う事になる」

「私が魔術師……」

「適正があれば、の話だが。その可能性はある」

 父の話に俄然ヤル気が出た。
 
 名前は、ライアン・キング。
 父の話では、名門貴族の御曹司で未来の魔術師長とまで謳われるらしく、彼は注目の的だっていうわ。それも納得ね。家柄や魔術師としての実力もそうだけど、私が目を引いたのはその彫刻のように美しい姿形。一目で恋に落ちたわ。

 私が魔術学院に入学した時は残念なことにライアンは卒業した後だったけど、講演会などで何度も見かけてはその姿に見惚れた。

 あんなに綺麗な男性は初めて見た。

 声だって凄く良いの。
 ウットリしちゃうわ。

 初めて見た時からドキドキが止まらない。
 もうすっかり彼に夢中になっていたわ。
 家でも彼の事ばかり話すものだから父は笑って言うの。

『そんなに好きなら結婚すればいい』

 目から鱗だった。確かに結婚するなら彼よね。
 でも、流石に侯爵家と男爵家じゃ身分が違う事は何となく分かる。
 
『はははっ。今は身分なんて関係ない。特にキング侯爵家は魔力持ちの令嬢がお好みだ。エラにも十分チャンスはある』

 父の言葉に勇気を貰ったわ。

 いつかは彼と結ばれたい。
 彼の恋人になりたい。
 彼の妻になりたい。

 その夢を実現させないと!!
 
 ちょうど、彼が立ち上げたサークルにも入会したわ。
 そこで直に顔を会わせるうちに彼が見た目だけでなく中身もパーフェクトな好青年であることに気づいたの。相手が誰であっても態度を変えたりしない。平等で紳士的な優しさを持っていて、困っている人は見捨てない。そんな彼だからこそ惹かれていったのよ。
 私は彼に会うためにサークルに参加しているといっても過言ではなかった。

 でも、サークルを通して分かった事があったわ。
 それは彼に「男」の恋人がいるということだった。

 あんなに素敵な彼が男を恋人にするなんて思わなかった。

 相手の男の名前はノア・タナベル。

 ちらっと見たけど黒髪の地味な男だった。
 
 ライアンの横に立つには相応しくない!
 きっとノア・タナベルが体を使ってライアンを誑かしたに決まっているわ!
 男のくせに!
 そうじゃなきゃ考えられない。
 同性愛なんて非生産的で汚らわしいものライアンがする筈ないもの。

 だからチャンスを待ったわ。
 彼はノア・タナベルに騙されているんだもの。
 私の愛の力で助けてあげないと!

 そう思って数年、やっとチャンスが舞い込んできた。


 
「最近、ノアが構ってくれないんだ~~っ。仕事が忙しいみたいでさぁ。僕はこんなにもノアを愛してるって言うのに!」

「それは彼が悪いわ。あなたをこんなに悲しませて」

 お酒が入っているせいもあるでしょうね。彼は珍しく愚痴ばかりこぼしていた。いつも完璧な彼の違う一面を見れて、少しだけ嬉しかった。でも同時に苛ついた。なんであんな冴えない男のためにライアンが振り回されているのか分からなかったから。

「さぁ、飲んで飲んで」
 
「う~~ん……あれ?他の皆は?」
 
「ああ!皆は先に酔いつぶれちゃって帰ったわ」
 
「え~~~~!いつのまに?」
 
「そんなことより、さぁもっと飲んで。嫌な事は飲んで忘れちゃいましょう」


 酔っぱらっているライアンの返事は聞かずにグラスにお酒を入れる。勿論、アルコール度数の高いものばかり選んだわ。
 あらかじめ準備しておいた媚薬を酒の中に入れライアンに飲ませた。効果は数分もしないうちに現れた。体が火照り息遣いも荒くなったのだ。

「大丈夫、私が介抱してあげるわ」

 そっと耳元で囁きベッドへと押し倒す。後は欲望のままに身を任せるだけで良かった。今まで我慢してきた想いを全てぶつけるように激しく抱き合ったわ。私の方が先にイってしまったぐらい気持ち良くて興奮した。

 ふふふ。これでもう私だけのライアンよ。もう誰にも渡さない!!!



しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

処理中です...