32 / 60
【婚約者のための人脈作り】
小さな社交界
しおりを挟む――某伯爵家の茶会――
「ロジェス伯爵夫人とその御令嬢が御到着なさいました」
案内役の執事が私達の登場を口にすると、客人たちは一斉にこちらに顔を向けてきました。
様々な視線が突き刺さります。
好奇心に満ちた瞳、探る様な眼差し、困惑した視線、恐怖や脅えが混じった目。
実に色々です。
「バーバラ、ここは戦場ですよ。決して油断してはいけません」
「はい」
先生にも以前言われました。
茶会は小さな社交界だと。
隙を見せてはいけないとも。
「この屋敷の女主人で、主催者のランスリット伯爵夫人に挨拶に行きますよ」
「はい、お母様」
私の隣で優雅に微笑むお母様は既に「貴婦人」の仮面を装備しております。
流石です。
私も見習わなければなりません。
スマイル、スマイル、スマ~~~~イル。
「ランスリット伯爵夫人、お久しぶりですわ」
「ロジェス伯爵夫人。…本当に、お久しぶりです……」
「今日は、お招きいただきありがとうございます」
「い、いえ、こちらこそロジェス伯爵夫人と御令嬢を招くことが出来て光栄です」
「急な出席でご迷惑ではなかったかしら?」
「い、いいえ。とんでもないです」
「ふふふ。本当にごめんなさいね。なにしろ、大切な娘の事だからどうしても慎重になってしまったの。数年前の茶会ではコバエが大勢いたものだから」
「……それは…大変でしたわね…」
「ええ、本当に。でも、お陰で大掃除が出来たみたいで主人も喜んでいたわ」
「ま…ぁ……」
主催者であるランスリット伯爵夫人の笑顔が引きつっております。先に来ていたお客様方もこちらに顔を向けたままですし、なんだか思いっきり注目を浴びておりますわ。注目されるのは慣れません。屋敷に引き籠っていたせいでしょうか。人が多い場所はどうも苦手ですわ。
「まあ、それはご丁寧に」
お母様の挨拶が終わったようです。
「バーバラ、よかったわね」
なにがでしょうか?
皆様の視線が気になって、途中からお母様たちの話を聞いていませんでしたわ。
「こちらには躾の行き届いた令嬢ばかりだそうよ」
「まあ。素晴らしい淑女たちという事ですね」
「そういうことよ」
「嬉しいですわ、お母様」
ざわざわざわ。
なんでしょう?
皆様の様子がおかしいような?
気のせいでしょうか?
「ロジェス伯爵夫人、バーバラ嬢、今日は楽しんでいってください」
先ほどよりも顔色を悪くしたランスリット伯爵夫人が私たちを歓迎する旨を伝えてくださいました。青白い顔のランスリット伯爵夫人に対して鷹揚に挨拶を済ましたお母様に倣うように、私も丁寧に挨拶を終わらせました。
119
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
(本編完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?
青空一夏
恋愛
私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。
私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・
これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。
※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。
※途中タグの追加や削除もありえます。
※表紙は青空作成AIイラストです。
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる