上 下
64 / 70

王太子の愛妾side

しおりを挟む

 所長曰く、私の体は老化が酷く遅いらしい。けれど「不老」とまではいかないらしく、されど「不死」に近いものまである。というのも、私は怪我の直りが異様に早く、ここ数年風邪一つ引かない健康体。だからといって殺したら普通に死んでしまう。生き返る事などできない。なんとも中途半端な成功体とされている。

『はっきり言って、君の体はこれ以上薬を投薬し続ければ間違いなく死亡する可能性が高いんだ。お偉方は君を貴重なサンプルとしてこのまま実験体として扱うつもりだ。そう命令がきたんだけどね、僕としては折角ここまできた成功体をむざむざ死なすのは惜しいんだよね。だってそうだろう?君みたいな成功例がこれから先でる保障なんて何処にもないからね。寧ろ、君自身が奇跡に近い。僕としては貴重なサンプルを酷使するんじゃなくて経過観察すべきだと考えているんだ。丁度、君の存在に嗅ぎついて引き取りたいっていう奇特な御仁も居る事だしね。ああ、安心していい。表向き、君は薬によって死んだ事にするから。これは君にとっても良い提案だろう?苦い薬を飲まずにすむ上に外の世界で生きる事ができる。僕だってサンプルの観察を続けられる。危ない橋を渡ってまで君を欲する貴族様は君を手に入れられる。皆が幸せになれるってもんだ!』

 この男は間違いなくの部類だろう。

 そうして私は所長のいう「お貴族様」の囲われ者になった。
 侯爵家に入り婿した男爵家の五男だった男。若い頃はそれは美男だったのが分かる顔立ち。男が言うには、夜会で一目惚れした私を忘れられずに探し続けていたらしい。男の妻は鬼籍に入っていて一人息子がいた。風邪を拗らせて亡くなった奥方。それが偶然と思うほどおめでたい頭はしていない。だって、奥方が亡くなったのは私が侯爵家に引き取られる一ヶ月前。風邪薬に何かを仕込んだのだろう。もしくは薬を提供したのは所長かもしれない。

 数年、男の愛人をして暮らした。
 男の死後はその息子を篭絡して愛人の座に収まった。

 見た目が二十代の若いままの姿はこんな時に役に立つらしい。中身は皺くちゃのお婆さんだというのに。男とは何と愚かな生き物だと内心嘲笑った。


 目の前にいる若い侯爵。
 彼には感謝している。
 私に復讐の機会をくれたのだから。

 


しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

押し付けられた仕事は致しません。

章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。 書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。 『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」 十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。 まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。 夢は自分で叶えなきゃ。 ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...