60 / 70
元婚約者の現状
しおりを挟むとても正常な人間の書く文章ではありませんでした。
最後に送られた手紙は常軌を逸脱していました。
“ヘスティア、僕達の子供が生まれたんだって!元気な男の子だって聞いたよ。新しい家族の誕生だ。跡取りの男子が生まれたらヘスティアも僕との時間を大事にしてくれるよね。父上も母上も酷いんだ。僕を病院に連れて行こうとするんだ。ヘスティアからも言ってくれ。僕はマトモだと。公爵領に行く仕度は整ったっていうのに両親は王都に残るっていうんだよ?信じられないよね。僕だけでも家族の元に帰りたいよ。早く迎えに来てくれ。”
有り得ません。
読んでいて恐怖を感じました。
「そもそもヴィランは留学をしていたのではなかったのですか?どうして帰ってきたんです」
あの襲撃未遂後、ヴィランは隣国に留学をしていました。王家が動いた結果でしょう。ヴィランの母君は王太子殿下の乳母ですから。私としても物理的に離れてくれるならばと思って事を荒立てなかったというのに……。
「その事じゃがな、どうやら留学席でも噂が出回っておったらしい。ヘスティアとの婚約解消から襲撃事件に関してのことをのぉ。そのせいで留学先の学校から受け入れるのをかなり渋られたらしい。まあ、王族の推薦という形にして無理やり受け入れさせたようじゃがな。学校側も隣国とはいえ王族の依頼とあっては拒めなかったのじゃろう」
「自主退学したと聞きましたが……」
「う~……む。留学先で虐めを受けたらしい。まぁ、貴族専用の学校じゃ。暴力沙汰はなかったようじゃが……どうも無視され続けておったらしい。それに耐えかねての退学じゃ。恐らくヴィランが勝手に退学届を出して帰国したんじゃろう。寄宿先の寮でも必要最低限の会話しかしてくれなかったようじゃしな」
ヴィランが退学してきたと聞いた時から嫌な予感はしていました。それに、ヴィランが虐めを受けるのもある意味で当然かもしれないとも思いました。
「帰国後は、自宅に引き籠っておったようじゃが……ヘスティアに復縁願いを出してくるとはな……」
「ヤルコポル伯爵夫妻はヴィランを病院に連れて行こうとしたらしいですが、実際の処はどうなのですか?」
「それは本当の事じゃ。病院は病院でも『精神科』の方じゃがな。まぁ、王都がどんどん酷い状態になっておったからヤルコポル伯爵夫妻としては、入院させることで暴徒から逃してやりたかったのじゃろう。親の心子知らずとは、まさにこの事じゃな」
「……そうですか」
溜息がでます。
ヴィランから送られてきた手紙には私への謝罪の言葉は一言もありませんでした。書かれていたのは自分の不幸を嘆くものばかり。家族だから許してくれ、と言わんばかりの内容。私は貴男の家族ではないと言いますのに! 勝手に私の息子を自分の子供と脳内変換までしていた時は始末するか迷ったほどです。
だからでしょうか。
元婚約者の末路を聞いても全く心に響かないのです。
寧ろ、安堵感の方が勝っています。
一度目の恐怖もありません。
既にヴィランは過去の人物となり果てていました。
もはや、興味もなければ情も消え失せています。
公爵領と家族に危害が及ばなければヴィランの存在など、どうでも良いのです。
81
お気に入りに追加
2,853
あなたにおすすめの小説
何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
押し付けられた仕事は致しません。
章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。
書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。
『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
毒家族から逃亡、のち側妃
チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」
十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。
まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。
夢は自分で叶えなきゃ。
ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる