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とある苦労人side

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「……本気で言ってます?」

 つい、聞いてしまった。
 目の前にいる法務大臣のヤルコポル伯爵に。
 この表の新しい上司、なんというか権力の使い方が中途半端だ。王太子に従順過ぎるのも問題だ。幾ら、不肖の息子の恩人だからって言いなりのままっていうのもな。
 本来なら、他のスタンリー元宰相派同様の処置をするんだがヤルコポル伯爵だけは少々違ってくる。地位も高い上に家柄も良い。しかも王家に近い。何も知らないままではいさせられない唯一の男だ。

 なのに――


「このままじゃあ、貴男は上層部新政権に使い潰されて終わりですよ?」

 ヤルコポル伯爵は口をぱくぱくと開閉させ声にならない声をだしている。俺の言葉に驚愕していた。

「それが政治屋のやり方です。ただでさえ新しい宰相は使い物にならないんですから。上層部にとってみたら自分達を裏切らない上に王太子殿下に従順なヤルコポル伯爵に宰相の仕事を押し付けてくるのは当然でしょう。ちなみに、ヤルコポル伯爵が宰相の仕事を代わりにやったからって評価されるのは宰相であって貴男ではありません」

 目を大きく見開いたヤルコポル伯爵。
 考えてもいなかったな、これは。ずっとスタンリー元宰相の下にいたせいだ。あの爺はワンマンだけど部下の評価はムッチャ公平だったからな。

「ついでに言っときますけど、ヤルコポル伯爵以外の大臣達は皆知ってますから文句は聞き入れられません。特に政界に太いパイプを持つ貴族は個人の能力なんて評価しませんよ。彼らは全体の効率と結果にしか興味ありませんからね……いやはや流石は時期宰相候補と目されていたヤルコポル伯爵です。現政権からの信頼が厚いですね!」

 おっと、うっかり上司相手に嫌味を言っちまった。俺の言葉に困惑した顔だ。この上司、嫌味が通用しねぇ。マジかよ。

「……現政権のお偉方の中でヤルコポル伯爵は唯一人のスタンリー元宰相派です。そこのところもよく考えて行動に移さないと御家断絶ですよ」

 俺ならこんな処さっさと辞めてるけどな。居心地が悪いだけじゃない。どう考えても貧乏くじを引かされるんだ。功績を上げても手柄は横取りされるだけだしな。領地にでも……って、そうか、ヤルコポル伯爵領は既に手放してるか……。でも、こんな処にいる位なら新天地で心機一転した方がマシだ。

「私は……他の者から嫌われているのか?……その……前政権にいたから……」

 愕然として呟くように言うヤルコポル伯爵には悪いがもうそんな段階じゃない。っていうかマジかよ。こんな甘ちゃんでよく政界で生きてこれたな!スタンリーの爺に守られてきた弊害か?

「好き嫌いから言ったら『嫌い』の一択でしょうが、そんな単純な話ではありません。下手したら、やり玉に挙げられて見せしめにされかねませんよ」

「大臣達が言っているのか?」

 現状を理解してねぇ。
 ここは空気を読んで察する処だろ!

「こんな下っ端役人に情報を言うアホはいません」

「だが……君は確信をもって言っている……」

「少し情報収集すれば誰でも分かりますよ。現政権の中でヤルコポル伯爵は異端です」

「い、異端?」

「新しい上層部を見て分かりませんか? 殆どが王家寄りの人間です」
 
 俺の言葉にハッとしたヤルコポル伯爵。状況の悪さを漸く自覚した瞬間だった。


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