【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
17 / 70

元伯爵side

しおりを挟む
 
 爵位も財産も失った。
 妻は裁判後に正気を失い精神病院行きになった。国一の病院だ。経営者がスタンリー公爵家の寄り子の伯爵家である以上、研究対象にされている事は間違いない。会うたびに情緒が不安定なのだ。担当医師からは「心の病は一生の戦いですから、その日によって良くも悪くもなります。一朝一夕で解決する問題ではありません。気を長くして治療していくしかないんです」と言われたが到底納得は出来なかった。かといって、悪評高い我が家の人間を受け入れてくれる病院は他にないのも確かなのだ。

 王太子殿下の側近であった双子の兄弟達はその地位を剥奪された。決まっていた婚約も相手側から婚約解消を言い渡された。

 長男は文官として地方に左遷された。貧困地区としてブラックリスト入りしている男爵領の立て直しを任された。長男が生きて王都に戻る事はないだろう。上手く経済の立て直しが出来れば話は別だろうが……極めて低い。1割以下だ。

 次男は軍人として辺境の最前線地区に行かされた。幾ら剣術に秀でていてもそれは騎士としてだ。軍人としての能力が息子に備わっているかは未知数だ。生き残れる可能性は五分五分といった処だろう。

 末っ子の四男はその美貌を活かし有閑マダム達の玩具として飼われている状態だ。


 全ての元凶である三男はある研究所に引き取られて行った。

 国家機密の研究所という噂が絶えない場所だ。
 碌な扱いはされていないだろう。
 妻同様に何かの被験者扱いが関の山だ。


 私は解雇処分を言い渡される前に辞表を提出した。
 何れ辞めさせられる定めだ。
 他人に辞めさせられるか、自分で辞めるかの違いだ。
 それでも自分から辞める道を選んだのは少なからず残っていたプライド故だ。


 結果として辞める事なく今も仕事をしている。

 辞める事が出来なかったのだ。

 勿論、この決定に反対する者は多かった。
 殆どの者が異を唱えたのも当然の事だ。
 それでも私は辞める事は許されなかった。

「責任をとって辞める? 貴殿はそれで満足だろう。だが貴殿のお陰で“婿入り条件”が一層厳しくなった。無能な男なら問題ないかもしれないが、優秀な男では到底耐えられないだろう条件だ。なのに当事者の貴殿は職を辞して終わろうとしている。そんな事は許されない。貴殿に責任感というものが存在するならココに居続けろ。ああ、辞職届など決して受理しないから安心したまえ」

 私の罰は「上層部から飼い殺され続ける」事だった。

 貴族ではない。
 法務大臣でもない。

 一介の平民として「法」に携わっていけ、というものだった。


「特別資料室長」

 それが私に付いた最後の肩書き。
 室長といっても部下は一人だけ。
 仕事内容は中々皮肉が効いている。

 何しろ、「過去の“御家乗っ取り”に関する事案整理」なのだから。
 既に終わった案件を調べてどうするのか、と思われるが“御家乗っ取り”は何も貴族だけではない。商店を婿が乗っ取った話もあれば、豪農の跡目が愛人の子供になった例もある。どれも処罰されているが、“御家乗っ取り”は終わる事のない犯罪とされている。

「これからも“御家乗っ取り”はある。今後起きる“御家乗っ取り”を事前に取り押さえる必要性がある。そのためにも過去に起きた事件を調べてこれからに活かしたい。もよくよく調べるように」


 嘗てのライバルであった男からの言葉ほど耳の痛いものはない。 


しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

婚約者が私の妹と結婚したいと言い出したら、両親が快く応じた話

しがついつか
恋愛
「リーゼ、僕たちの婚約を解消しよう。僕はリーゼではなく、アルマを愛しているんだ」 「お姉様、ごめんなさい。でも私――私達は愛し合っているの」 父親達が友人であったため婚約を結んだリーゼ・マイヤーとダニエル・ミュラー。 ある日ダニエルに呼び出されたリーゼは、彼の口から婚約の解消と、彼女の妹のアルマと婚約を結び直すことを告げられた。 婚約者の交代は双方の両親から既に了承を得ているという。 両親も妹の味方なのだと暗い気持ちになったリーゼだったが…。

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

押し付けられた仕事は致しません。

章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。 書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。 『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...