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元伯爵side

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 爵位も財産も失った。
 妻は裁判後に正気を失い精神病院行きになった。国一の病院だ。経営者がスタンリー公爵家の寄り子の伯爵家である以上、研究対象にされている事は間違いない。会うたびに情緒が不安定なのだ。担当医師からは「心の病は一生の戦いですから、その日によって良くも悪くもなります。一朝一夕で解決する問題ではありません。気を長くして治療していくしかないんです」と言われたが到底納得は出来なかった。かといって、悪評高い我が家の人間を受け入れてくれる病院は他にないのも確かなのだ。

 王太子殿下の側近であった双子の兄弟達はその地位を剥奪された。決まっていた婚約も相手側から婚約解消を言い渡された。

 長男は文官として地方に左遷された。貧困地区としてブラックリスト入りしている男爵領の立て直しを任された。長男が生きて王都に戻る事はないだろう。上手く経済の立て直しが出来れば話は別だろうが……極めて低い。1割以下だ。

 次男は軍人として辺境の最前線地区に行かされた。幾ら剣術に秀でていてもそれは騎士としてだ。軍人としての能力が息子に備わっているかは未知数だ。生き残れる可能性は五分五分といった処だろう。

 末っ子の四男はその美貌を活かし有閑マダム達の玩具として飼われている状態だ。


 全ての元凶である三男はある研究所に引き取られて行った。

 国家機密の研究所という噂が絶えない場所だ。
 碌な扱いはされていないだろう。
 妻同様に何かの被験者扱いが関の山だ。


 私は解雇処分を言い渡される前に辞表を提出した。
 何れ辞めさせられる定めだ。
 他人に辞めさせられるか、自分で辞めるかの違いだ。
 それでも自分から辞める道を選んだのは少なからず残っていたプライド故だ。


 結果として辞める事なく今も仕事をしている。

 辞める事が出来なかったのだ。

 勿論、この決定に反対する者は多かった。
 殆どの者が異を唱えたのも当然の事だ。
 それでも私は辞める事は許されなかった。

「責任をとって辞める? 貴殿はそれで満足だろう。だが貴殿のお陰で“婿入り条件”が一層厳しくなった。無能な男なら問題ないかもしれないが、優秀な男では到底耐えられないだろう条件だ。なのに当事者の貴殿は職を辞して終わろうとしている。そんな事は許されない。貴殿に責任感というものが存在するならココに居続けろ。ああ、辞職届など決して受理しないから安心したまえ」

 私の罰は「上層部から飼い殺され続ける」事だった。

 貴族ではない。
 法務大臣でもない。

 一介の平民として「法」に携わっていけ、というものだった。


「特別資料室長」

 それが私に付いた最後の肩書き。
 室長といっても部下は一人だけ。
 仕事内容は中々皮肉が効いている。

 何しろ、「過去の“御家乗っ取り”に関する事案整理」なのだから。
 既に終わった案件を調べてどうするのか、と思われるが“御家乗っ取り”は何も貴族だけではない。商店を婿が乗っ取った話もあれば、豪農の跡目が愛人の子供になった例もある。どれも処罰されているが、“御家乗っ取り”は終わる事のない犯罪とされている。

「これからも“御家乗っ取り”はある。今後起きる“御家乗っ取り”を事前に取り押さえる必要性がある。そのためにも過去に起きた事件を調べてこれからに活かしたい。もよくよく調べるように」


 嘗てのライバルであった男からの言葉ほど耳の痛いものはない。 


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