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元婚約者の部屋
しおりを挟む「お嬢様、いかがなさいましたか?」
「何でもないわ。西側の客室の模様替えはもう終わったのね」
「はい。長年使用していたお部屋で……その分汚れが酷かったようです。綺麗に汚れ落としをする必要がございました」
「十年分の垢落としは出来たのかしら?」
「勿論でございます」
「まさかここまで長く使用するとは考えなかったわ。一時的なものとばかり思っていたから……」
「はい……それは屋敷の者達も同じ意見でございます」
「使用するのが子供だという事も考慮して一番狭い部屋にしていたのに出て行かなかったのには驚いたわ」
「はい。他家の御子様がお泊りをするという事で、何かあっても直ぐに対応出来るようにという配慮から使用人部屋に最も近い客間でもありました」
私はヴィランが嘗て使っていた客間を訪れていました。屋敷で最も小さい部屋。増築し続けている屋敷の中で一番古い部屋でもあったのです。
「……カーテンも変えたのね」
「はい。前は暗い印象が拭えない部屋でしたので……いけませんでしたか?」
「いいえ。この方が明るくて気分が良くなるわ」
ただでさえ古い造りの上に雨になると湿気でジメジメする感じが拭えない部屋です。以前は重厚な雰囲気の壁紙とカーテンでした。名門貴族の部屋に相応しいといえばそれまででしょう。ヴィランはそんな部屋を何故か好んでいました。
どちらかというと明るい色彩を好んでいた私からすると、ヴィランの部屋は気が滅入りました。ですから部屋を訪ねるなど数回しかありません。
裁判の結果、ヤルコポル伯爵家は莫大な慰謝料と賠償金を我が公爵家に支払う事になったのです。その中には当然、我が家の使用人達への慰謝料も含まれております。王家に対する今までの忠誠と奉公を鑑みてヤルコポル伯爵家の爵位を高値で買い取りました。そのお金をあわせて完済したのです。
その後のヤルコポル一家は散り散りに……。
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