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伯爵家長男side
しおりを挟む言葉がないとはこの事だろう。
公爵家の執事長の話は続いた。
「伯爵家が御三男にどのように言い聞かせたのかは存じませんが、公爵一家の家族旅行に何時も御同行なさって御出ででした。旦那様と奥様も流石にこれはいけないとお思いになり伯爵家に問い合わせたところ『ヘスティア様と御三男の仲がより深まり伯爵家としても喜ばしいかぎりだ』という内容の返答を頂きました。御三男はヘスティア様の婚約者。いずれは家族になる存在でございます。旅行日に大荷物を持って来られた御三男を伯爵家に帰すのはあまりに不憫に思い、御一緒に同行する事をお許しになりました。旅行先でも御三男は『アレが欲しいコレが欲しい』と旦那さま達におねだりをなさる始末。他家の旅行に連れ添って行かれる場合は、親が子供に使う金額を持参させるのが一般的なのでございますが……どうやら伯爵家は『一般』とかけ離れていたようで、御三男に旅行費はおろか、お小遣いすらお渡ししていませんでした」
母は遂に泣き崩れた。
父も顔面蒼白だ。
傍聴席だけでなく裁判官の自分達を見る目は冷ややかだ。
ヴィランが公爵家の金で豪遊していたなんて知らなかった!
でも何故だ!?
あの子は公爵家で可愛がられていた筈だろう?
「公爵家の自室は伯爵家の何倍も広いんだ」
そう自慢していた。
「旅先でこんなに買ってもらったんだ」
嬉しそうに、公爵家に買ってもらった品々を自慢していた。
「次は南に行くんだ!」
久しぶりに揃った家族の夕食席で自慢げに話していたじゃないか!
「伯爵家の御三男が使った金額は、スタンリー公爵家にとってははした金に過ぎませんでしたが……その後の伯爵家の対応もまた呆れかえるものがございました。『これからもよろしくお願いいたします』と言わんばかりのお礼状の手紙が当家に届きました。当時は二桁にも満たない子供。御三男も物の道理が分かる歳に成長すれば自ずと御自分の立場を自覚すると思い、旦那様も奥様も見守っていたのですが……まさかこのような形で裏切られようとは……」
公爵家の好意だとばかり思っていた。
ヴィランの言葉を鵜呑みのしすぎたせいか取り返しがつかない事態になってしまった。「そんなつもりはなかった」といった処で信じる者はいないだろう。ヴィランが伯爵家ではなく公爵家に入り浸っていたのは周知の事実だ。
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