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第3話結婚前3
しおりを挟むその日、ジョアンの父君であり私の伯父でもあるグリア侯爵がアウストラリス伯爵家を訪れました。
「フアナ、済まないな」
「随分、お疲れのようですね」
「ああ、疲れた。実の息子だというのに……話がこれほど噛み合わないとはな」
「ご愁傷さまです」
「まさか……自分が伯爵家の当主になる気でいたとは」
「爵位を受け継ぐのは間違いありませんから」
「フアナの婿になる男がアウストラリス伯爵位を得られるのだ。貴族の常識だろうに……自分の叔父が伯爵家の婿だという事を忘れていたらしい。呆れた話だ」
従兄の馬鹿さ加減にどのような顔をすればいいのか分かりません。
伯父様は一気に歳を取ったように感じます。ジョアンは頭は良いのに何処か抜けたところがありますからね。大方、侯爵家が持つ爵位の一つだとでも思っていたんでしょう。アウストラリス伯爵家は二代続けて跡取り息子に恵まれませんでした。私の母は流行り病で三歳の時に亡くなり、父も三年前から病床に伏しています。代々伯爵家に仕えてくれる者達の忠義と伯父様の後ろ盾がなければ爵位と財産を狙う親戚達にアウストラリス伯爵家は食い物にされていた事でしょう。そうしないためのジョアンとの婚約でした。伯父と父は仲の良い兄弟で、伯父は歳の離れた弟を溺愛しています。私とジョアンの婚約も父の為でしょう。父の血を引く唯一の子供。そして伯爵家直系の一人娘。下手な男に任せるよりも自分の息子に託した方が安全との判断だったのかもしれません。そうでなければ従兄妹同士が婚姻する事はあまりありませんからね。何しろ、最も血の濃い親族。婚姻する旨味は殆どありませんもの。
私もジョアンと彼の兄とは兄妹同然に育ちました。
ジョアンは私よりも四歳年上の二十二歳。
王立大学を首席で卒業したほどの人物です。容姿、家柄、能力、共に自慢の婚約者だったのですが……。
「我が家にお越しになった女性は結局誰だったのですか?」
「……ヒル准男爵の令嬢だ。名前はベアトリス・ヒル。ジョアンとは王立学園の同級生だ。」
あら……彼女、成人済みだったのですね。あのように感情の赴くままに怒鳴り散らしていらしたので未成年だとばかり思っていましたわ。四歳も年上だったのですね。とても二十二歳とは思えない言動の数々でした。
いえ、その前に……。
「貴族階級だったのですね」
マナーが全くなっていませんでした。
「父親がヒル商会の会長だ。数年前に爵位を買った男で、令嬢は十五歳まで平民として過ごしていたせいか学園でも浮いた存在だったらしい」
「学園でもマナーの授業はあった筈ですがヒル准男爵令嬢は身につける事が出来なかったようですね」
あれでは貴族社会で生きていく事は出来ないでしょう。
もっとも、御実家のヒル商会は王都でも有数の大商会。王室御用達になるのも時間の問題だと噂されている程です。貴族と結婚するよりも同じ商人と結婚する方が気楽で良いのかもしれませんね。
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