58 / 94
~第三章~
57.ブランデン国王side
しおりを挟むこれが一国の国王と王女が出す手紙だろうか?
「これは酷すぎます」
宰相の言葉に深く同意せざるを得ない。
自分達がサビオにした仕打ちを忘れたのか?
よくもまぁ図々しく手紙が出せたものだ。
愚かすぎる。
まさかとは思うが、本当に覚えていないのか?
それとも彼らの頭の中では『無かった事』にでもなっているのか?
だからこんな内容を書けるのか?
罪悪感が一切感じられない。
謝罪の一言もない。
使者達もそうだ。
彼らは主人である国王の言葉をそのまま言うだけ。子供の使いではないのだぞ?
丁寧に送り帰せば、手前勝手な難癖をつけてくる始末。
自分達の行動を振り返って文句を言って欲しいものだ。
「返せと言われてもな……」
「このような手立てで来るとは思いもよりませんでした」
「私もだ。秘密裏に謝罪してからの交渉になると思っていたのだがな……」
正直、予想外過ぎた。
まさかこんな手段を取ってくるなんて思わなかった。
馬鹿の一つ覚えのように「我が国の侯爵子息を返還しろ」の一点張り。
その前にやる事があるだろうに。
ブランデン王国としては、いくら言われようと本人だと認める事はできない。だからこそ「そんな人間は存在しない」と言っているのだ。言葉を濁しながら分かり易く伝えてやった。
「何度も言うが本人がいないのだから返しようがない」――と。
勿論これは表向きの理由だ。
正確には本人が拒否しているし、その上、偽物の存在が未だにあの国にいる以上はどうしようもできない。遠回しに「偽物と神殿をどうにかしろ。話はそれからだ」と言っているのに、向こうの国王は聞く耳持たず。まるで話が通じない。挙句の果てに「サビオが戻れば全てが上手くいく。問題が全て解決するんだ」などと宣う始末。
呆れて物も言えないとは正にこの事だ。
私の気持ちとしては「知ったことか!自分で蒔いた種だろう。自業自得だ!!尻拭いをサビオにさせる気か!!てめぇの尻はてめぇで拭け」と言いたい。勿論、心の声だ。言葉にすると相手を刺激しかねないからな。まぁ、歪曲して伝えたが、あの国王の事だ、私の言わんとしていることの十分の一も理解していないだろう。
一早く気が付いて欲しいものだが……残念ながら無理だろうな。何とも情けない。
あの阿保国王がそれに気づくのは一体いつになることやら。
「全く、愚かな事だ……」
思わず愚痴が漏れてしまう。だが、仕方あるまい。
「どういたします?」
宰相も困り顔だ。私と同じ意見だろう。
「この調子では何時になっても話が進まないでしょうね」
宰相が眉間に指を当てながら呟いた。彼の言い分は尤もだ。
これ以上放置する事もできない。そろそろ手を打つ必要がある。
「国王が人の話は聞かないのだから話し合いに応じる必要はない。かと言ってこのまま放置したところで諦めないだろう。下手をすればサビオを誘拐する可能性もある」
「はい。あちらの重鎮達は偽物を本物のままでいさせるようです」
「そんなところにサビオを戻せるはずがない」
「神殿の動きも気になります」
「ああ、そうだな。彼等の狙いは何だ?」
「私にもさっぱり」
私にも分からない。神殿の真意が全く読めない。そもそもサビオを偽物の侯爵子息とした意図が解らない。
「正式な使者をだす」
「それでは!?」
「アンハルト王国に厳重に注意して二度とこのような事が無いようにしてくれ」
「畏まりました」
こうして、私とアンハルト王国の間で密約が成立した。
130
お気に入りに追加
1,864
あなたにおすすめの小説
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
望月かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから
ハーーナ殿下
ファンタジー
冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。
だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。
これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。
魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる