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~第二章~
44.閑話2
しおりを挟む遡る事、十数年前――
「私、ママになる!」
とある宴で宣言した黒の妖精は満面の笑みで、赤子を皆に見せびらかしていた。生まれたばかりなのか目も開いていない小さな人間の赤ん坊。
どこから持ってきた!?
他の妖精達は驚きと困惑を隠せない。
しかし黒の妖精は全く気にしていないようで、「ほーらママだよぉ?」などと愛おしそうに見つめている。
「ちっちゃくって可愛い~~っ。今日からここが君の家だよ」
まるで明日の天気でも話すかのように軽く言い放つ。
その発言に精霊王達ですら目を見開いた。周囲にいる妖精たちも余りの事に絶句し動くことが叶わない。
「あんな澱んだ空気は子供の体に悪いもんネ。ここならダイジョブだからネ」
人間の子供を精霊界で育てる発言自体は特に問題はない。一昔前に流行った事をしているだけの話だ。ただ、問題なのは……。
チュッチュッ。
人の赤子に祝福のキスを送り続けている事だろう。
精霊王達は頭を抱えた。
妖精が人間に祝福を与える事は別にいい。
ただ、与える量が問題だった。妖精は気まぐれだ。興味を持てばどこまでも追いかけて来るが、飽きれば簡単に捨ててしまう。そしてそれは、物だけではなく生き物にも当てはまるのだ。
そんな存在を、この場で平然と溺愛し過剰な祝福を与える黒の妖精は、「まだちっちゃい赤ちゃんだからネ。ママがずぅ~~~と傍にいるネ!!」と、明るく、それでいてはっきりと言い切った。黒の妖精に見守られながら気持ちよさそうにしている赤ん坊を見て一同は心の中で思った「ヤバイ」と―――
黒の妖精に赤ん坊を返してくるように促しても「やだぁ~、私の子供なんだモン!」と言って聞かない。妖精に魅入られた子供の中には極稀に、妖精に染められて人外の存在になってしまう人間もいる。黒の妖精が連れて来た赤ん坊にはその兆候があった。如何に妖精といえど、赤ん坊はソレを『異物』と見なし恐れる。そのため通常では泣きわめかれる筈なのだが……。
「可愛いよね~~~っ。ママを見て笑ってる!」
黒の妖精が与える祝福によって、赤ん坊の体に変化が起こり始めていた。髪の色が変化し、瞳の色が変色していく。黒の妖精と同じ『色』に変わっていくのだ。
妖精達のざわめきが大きくなった。
このままでは黒の妖精によって、赤ん坊が人外になる。人外になった赤ん坊がどう変化するかは誰にも分からない。一説には人間界を滅ぼす破壊神になるとも言われている。
「黒の妖精! すぐにその子を返すのだ!!」
一人の精霊王が叫ぶが、黒の妖精は頑として首を縦に振らない。それどころか「こんな可愛い子を殺すなんてダメェ!! 絶対イヤァ!!」と叫び返した。
精霊王達は必死に説得した。
だが、黒の妖精は納得しない。
最後は強制的に赤ん坊を取り上げるしかなかった。
泣き叫ぶ黒の妖精には気の毒だが、赤ん坊を破壊神にする訳にはいかない。
そうして、黒の妖精は人間界に行けないようにされた。
騒動の要因である赤ん坊は元の場所に戻した。
それで終わったものと思っていた。
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