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~第一章~

20.アンハルト国王side

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 「……はぁ」

 まさか、このような事態になるとは……。
 溜息が止まらない。

 理由は解っている。
 自分の子供達が仕出かした事だ。文句の言う先がない状態だ。後悔しても足りない。

 何故、気付かなかったのか。
 そして、どうして止める事ができなかったのか。

 可愛い一人娘の願いを叶えたいと思った。
 今でもアレは間違いでは無かった筈だ。
 どこの馬の骨か分からない血筋の男と婚約などさせられないだろう。

 だからこそ、婚約者をに変更したのだ。



 アンハルト王国は百年程、戦争も内乱もない。至って平和な国だ。周辺諸国との関係も悪くない。そのため、娘を他国に嫁がす必要もなかった。
 目に入れても痛くないほど可愛い娘だ。
 国の外になど出したくない。
 だからこそ国内で相応しい相手を見つけようとしたのだ。

 選び抜かれた婚約だった。

 家柄、血筋、能力――――


 パッツィーニ侯爵家は代々高名な魔術師を輩出してきた名門。

 嫡男のサバスは両親に似て美しい男だった。
 魔力量も豊富で、将来は父親の後を継いで宮廷魔術師として活躍するだろうと期待されていた。

 最初はサバスを王女の婿にしようと考えた程だ。

 だが娘を娶るには今一つパッとしない。
 一国の王女を娶るのだ。
 目に見える形での実績が欲しかった。



『まだ子供ですから』

『数年後に誰もが認める人物に成長するでしょう』

『今でこそあれだけの美少年です。王女殿下に相応しい男性になると思われます』



 臣下達はパッツィーニ侯爵家と王女の縁組を勧めてくる。
 彼らの言い分は理解している。パッツィーニ侯爵家との縁組は政治的に意味がある。
 
 だが、私は娘を政略に使うつもりはなかった。
 
 そもそも娘の幸せを考えるなら、そんなものは邪魔にしかならない。娘の幸せが一番大切なのだ。
 
 何もパッツィーニ侯爵家の嫡男に拘る必要はないだろう。
 名門の家柄とはいえ、パッツィーニ侯爵家は宮廷貴族。
 やはりここは領地持ちの貴族の方が良いのではないかと思ったのだ。肥沃な大地と広大な領土を持つ貴族は経済面で安定している。
 要は、娘を嫁がすにあたり、安心できる要素が欲しかったのだ。
 
 なにも、焦る必要はない。
 幸いにも王都には多くの貴族がいる。
 その中からこれだと思った相手を選べばいいだけだ。そう考えた私は他の候補を探す事にしたのだが……困ったことに、パッツィーニ侯爵家の次に有力なのはオセロメー公爵家だった。

 オセロメー公爵家は確かに豊かな領地を持っているし、王家との繋がりもある。
 王女を降嫁するのに申し分ない血筋と家柄だ。
 
 しかし問題はその息子達にあった。
 
 長男のクレール伯爵はまだ良い。
 
 だが、下の息子二人は問題だらけだった。
 
 特に次男は最悪だ。
 何を考えているのか分からない。常にニヤけていて気持ち悪い上に、性格も悪かった。
 
 三男も怠惰で無気力な印象を受けた。
 
 調べたところ、公爵自身も領地経営は人任せらしい。
 
 クレール伯爵はまともだが、他が駄目だ。あのような連中と親族になどなりたくない。娘が苦労するのは目に見えている。
 
 仕方なく他の有力貴族の子息を探したが見つからない。
 途方に暮れていた時に、ある噂を聞いた。

 
 ―――パッツィーニ侯爵家の次男は『天才』である。
 
 僅か七歳で最高学府に飛び級で入学。
 十歳になるまでには卒業できるほどの頭脳だと教員たちは絶賛しているらしい。
 しかも、その成績は歴代でもトップクラスだとか。『魔力無し』の記述は少し気になったが、そんな事はどうでも良かった。
 何よりパッツィーニ侯爵家の次男は学生の身でありながら既に数多くの特許を取得しているとか。それは魔術式であったり魔道具であったりと多岐に渡る。
 
 聞いただけで分かる。
 これは本物だ。
 次男の実績は王女の婿になるのに申し分なかった。
 娘も『天才の妻』という肩書きはさぞかし誇らしかったのだろう。かなり乗り気だった。
 
 そうして、サビオ・パッツィーニと娘の婚約を取り付けた。

 数年後、サビオ・パッツィーニが侯爵家の実子ではないと発覚した後は、本物の次男と王女の婚約を強引に推し進めた。
 理由は簡単だ。
 娘が本物の次男に恋をしていたからだ。


 それが……。


「まさか、こんな事になるとは……」

 思わず頭を抱えてしまった。





 

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