上 下
16 / 94
~第一章~

16.アーミside

しおりを挟む
 実家から追い出された。
 それだけではない。
 私……私は伯爵家から存在を抹消されてしまった。

 伯爵令嬢の私はもはや存在しない。
 いるのはギルドの「アーミ」。

 世界が足元から崩れていくような感覚を覚えた。
 近衛騎士団長の父に相応しい娘だと呼ばれたくて必死に剣技を学んでいた。

 あれだけ頑張って、やっと手に入れた地位をこんなに簡単に……。

 恋に溺れた代償。
 何の疑問も抱かなかった。
 まさか他国の間者スパイだったなど……。




 

 
『何のためにお前たちをの元に向かわせたと思っている』

 父上に言われるまで気付かなかった。
 その意味を。
 てっきり、女騎士になるための修行。その一環だとばかり思っていたのだ。
 けれど、良く考えてみれば『彼』は元貴族。しかも優秀な頭脳を持っていた。この国の上層部は『彼』を欲しがっていたのだろう。だからこそ、女ばかりを向かわせた。

 国や父上の思惑とは違う方向へ進んだ私たち。
 この国に私達の居場所などない。

 戸籍を変え、名前も変えた。
 父上がエルを連れて行くように言った意味も理解した。
 彼女の回復魔法はこの先役に立つ。特に剣士の私に必要だと判断されたのだろう。今まで剣を握り続けてきた私には他に何もない。生計を立てるにしても剣士になるしかない。宮廷の女騎士を目指していた。

 

『王家以外で女騎士を雇っているところは公爵家くらいだろうが、分っているな?この国で暮らす事はできない以上はこのまま冒険者として生きていかなければならない』

『父上……私は……』

『お前も貴族の娘だ。貴族が雇うのは出自がハッキリとしている事が大前提だということは理解しているだろう』

 他国の王宮や貴族家の出仕は無理だと言われた。
 確かに無理だ。
 平民の身分では。



『それとこれは極秘だが――――』

 
 その先は耳を疑った。
 まさか薬物を使われていたとは思ってもなかった。しかも、薬で思考回路を操作されていたらしい。なんて卑劣なやり方!許せない。私達は騙されていた!!

 今更だ。
 薬のせいだと訴えたところで誰も相手をしない。
 父上ですらそうだ。

 
『薬物の入手元は探るな。下手に手を出して相手に勘付かれてしまえば、今度は命が危なくなる。それは解っていような?』

 だから黙っていろと暗に命じられる。
 父上はいつも正しい。
 ただ従うしかなかった。


『これからは先は、お前の判断が全てだ。間違えないように生きなさい』
 
『…………はい』





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜
ファンタジー
第二王子のマリウスが学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付けた相手は人違いだった。では一体自分の婚約者は誰なのか? 困惑するマリウスに「殿下の婚約者は私です」と名乗り出たのは、目も眩まんばかりの美少女ミランダだった。いっぺんに一目惚れしたマリウスは、慌てて婚約破棄を無かったことにしようとするが...

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

虐め? そんな面倒なことしませんよ?

真理亜
恋愛
卒業パーティーで謂われなき罪の元、婚約破棄を告げられた公爵令嬢は「虐め? そんな面倒なことしませんよ?」と冤罪を主張する。なぜなら「私がその女を目障りだと感じたら、我が公爵家の力を以てして髪の毛一本残さずさっさと始末してますよ? その女が五体満足でこの場に居ることこそ、私が虐めなどしていない証拠です」と、そう言い切ったのだった。

帰ってこい?私が聖女の娘だからですか?残念ですが、私はもう平民ですので   本編完結致しました

おいどんべい
ファンタジー
「ハッ出来損ないの女などいらん、お前との婚約は破棄させてもらう」 この国の第一王子であり元婚約者だったレルト様の言葉。 「王子に愛想つかれるとは、本当に出来損ないだな。我が娘よ」 血の繋がらない父の言葉。 それ以外にも沢山の人に出来損ないだと言われ続けて育ってきちゃった私ですがそんなに私はダメなのでしょうか? そんな疑問を抱えながらも貴族として過ごしてきましたが、どうやらそれも今日までのようです。 てなわけで、これからは平民として、出来損ないなりの楽しい生活を送っていきたいと思います! 帰ってこい?もう私は平民なのであなた方とは関係ないですよ?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

処理中です...