上 下
2 / 94
~プロローグ~

2.プロローグ~ある侯爵家の話~

しおりを挟む
 魔法理論。
 ある意味、魔力持ちが忌避したがる学問のひとつだ。

 とある魔術師や魔法学校ではあえて教えないという方法を取る処もある程に。


「神殿に睨まれるぞ?」

「ああ、魔力は神から与えられた特別なもの。選ばれし人間のものと宣うから、魔法研究が進まないんですよ」

「それを言うな」

 苦虫を嚙み潰したような表情の父は次男の言葉を否定はしなかった。

「魔力を持つ一般市民が神殿に攫われている現実を見てください」

「……あれは魔力持ちの保護だと聞いている」

「それを真実だと受け取る人間は少ないと思います」

「……外では言うな」

「勿論です。僕も命は惜しいですから。ただ、神殿の露骨な魔力持ちの囲い込みを考えると、僕の養子先は軍関係が良いかもしれません。それか僕が護身術を身に付けてからの方が安全かもしれませんね」

 要は、神殿も狙ってくる恐れがあることを遠回しに伝えた。
 魔力無しでもサビオは魔術師一族のトップの家系。で利用価値はある。特に最近の神殿はきな臭い。


「…………養子に出すのを先延ばしにしよう。サビオは学問で身を立てれるように励め」


 意外なほどあっさりと父は妥協案を出してきた。
 父の隣にいる母はどこかホッとした顔だ。分かりにくいが母親は親としての情が厚い。父親は親と言うよりも一族の当主としての判断だ。

 どちらにしても外に出すのは厄介な次男に、準成人になるまでに生き延びられる成果を出せと命じた。

 次男の言いたいことを正確に把握しての言葉だろう。

 一族ごと魔力持ちは、とある人間からしたらだ。
 そうならないように「世間に認められる研究者になれ」と発破をかけた。

 五歳の幼児に言うセリフではない。
 現に、八歳の長男は父親の裏の意味を全く理解していなかった。

 だが、サビオは大層賢い子供だ。
 『魔力無し』を補って余りある頭脳の持ち主であり、しかも精神年齢が異常に高かった。
 
 その二つが上手く作用したせいだろう。

 学問と武術を徹底的に学んだ。
 命と人としての尊厳が掛かっている。

 魔法理論で魔法がなんなのかを理解し分析する。
 そこから新しい物を生みだせないかと試行錯誤を繰り返した。

 最初は、あのパッツィーニ侯爵家の直系でありながら『魔力無し』と言う事で他の貴族たちに嘲笑されていたサビオであったが、新たな魔法道具や魔法薬を提案し作成した事で国は発展した。庶民の暮らしは良く、僅か七歳でその才能を認められ最高学府に飛び級で入学し、三年で卒業を果たした頃には『天才』の名を不動のものとしていた。
 
 過去に彼を嘲笑った者達はその頃にはもはや何も言わなくなっていた。

 学府を卒業後は王太子の側近として仕えることになり、その際に王女と婚約を果たした。
 
 全てが上手くいっていた。
 『魔力無し』の侯爵家次男の彼の未来は明るいはずだった。
 まさかそれが崩れる事になるとは一体誰が想像できただろうか?


 その日、サビオの世界は一変した。

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...