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~プロローグ~
1.プロローグ~ある侯爵家の話~
しおりを挟むアンハルト王国有数の名家、パッツィーニ侯爵家には二人の息子がいた。
長男のサバスと次男のサビオである。
どこにでもいる普通の侯爵家ではあったが、サビオだけが家族とは似ても似つかない容姿をしていた。しかも五歳の魔力鑑定で『魔力無し』と告げられたのだ。代々、魔術師の家系である侯爵家。魔術師の名門と言われ、一族から聖女を輩出した事すらある。
その家の息子がよりにもよって『魔力無し』。
これは致命的ともいえた。
数ある分家の一つだったならばこうも大事になっていなかっただろう。「一人くらい魔力無しがいても別にいいか」ですまされた筈だが、あいにく、パッツィーニ侯爵家は宗家だ。分家のようにはいかない。
問題の息子をどうするべきかと両親は悩んだ。
一時期は養子に出す話まであった程に。
結果として、養子に出される事はなかった。
弟を他家に出すことを兄のサバスが猛反対したからだ。
「弟を他家にやるなんて親のする事じゃない!!」
サバスは三歳下の弟を何だかんだと可愛がっていた。だからなのか、『魔力無し』という理由で養子に出される事に納得ができなかった。
「サビオは、パッツィーニ侯爵家では生きていけない」
「なんでだよ!?」
「魔力がないという事は、魔法が使えないという事だ。代々宮廷魔術師の家系である我が家ではやっていけない。親族達も許さないだろう」
「はぁ!? 年に一度くらいしか会わない親戚連中なんて関係ないだろ!!」
「馬鹿なことを言うな。これは一族存亡に関わることだ。だからこそ、サビオを養子に出すんだ」
「一族?!それがなんだっていうんだ!養子先だってそうだろ?何で他国なんだよ!!」
「その方が安全だからだ」
「魔力無しを厄介払いしようって魂胆が見え見えだ!!」
「サバス!!」
父と兄の言いあいを黙って聞いていたサビオは父親が何を言いたいのか理解していた。
この国で宮廷魔術師として栄えているパッツィーニ侯爵家は王家との繋がりが深い。その分、敵も多かった。暗殺者を差し向けられる事も一度や二度ではきかない。兄は解っていないだろうが、侯爵邸は強固な結界魔法が施され、侵入者が忍び込めないようになっていた。それも結界魔法が意志を持つかのように『敵』に攻撃を仕掛ける過激ぶり。
貴族であってもこれほどの結界魔法を施している家は他に居ない。
つまり、何が言いたいのかと言うと。魔法が使えなければ侯爵邸から出られない。出たら最後、暗殺されるのがオチだ。更に悪ければ侯爵家の弱点として脅しの材料に使われる可能性だってある。なので、身の安全を考えると避難するのは当然だった。
「サビオ!お前もなんかいえ!このままじゃ、お前は捨てられるんだぞ!!!」
顔を真っ赤にして怒るサバスに対してサビオは冷静だ。
どっちが年上なのか分からない。
「落ち着いて、兄さん」
「これが落ち着いてられるか!!」
「父さんの言っている事は間違ってないよ」
「人として間違ってる!!」
「でも今のままじゃ、僕は暗殺者に付け狙われて殺されるだろうし、兄さんは僕の巻き添えで一緒に殺されるかもしれないよ?」
「はぁ?!」
驚いて目を丸くしている兄を見てサビオは「あ、やっぱり理解していなかったか」と心の中で溜息をつく。サビオと言いあっていた両親、特に父親は長男が理解せずに感情に任せての言葉だった事に驚いていた。解釈違いという悲劇が親子間で起こっていた。
「魔術師の家系は普通の貴族家より恨まれているから敵も多いんだ。その敵の誰かに殺されたり誘拐される危険を避けるために魔力は不可欠なんだよ。父さん達が僕を国外に養子に出すって言うのも、この国に敵が多過ぎるからだ」
「え?そうなの……か?」
未だ混乱している兄だったが、弟の言葉を理解して、青ざめながら両親に問いかける。両親は沈黙し、観念したかのように頷いた。そんな両親の態度を見て兄の顔色は青から白にと変わっていく。
「養子先の家で魔法理論の研究ができるところがいいんだけど」
「魔法理論だと?」
「うん。魔法理論の研究は未だに勧められていない学問だから。僕はそれの研究をしたいんだ」
「だがそれは……」
「人が魔力を持った理由はいくつか提唱されているけど、どれも憶測に過ぎない。一番有力なのは精霊王が人に魔力を与えたって説と精霊と人との間に生まれたハーフが魔力を持ったって説だ。でも、本当の事はまだ分かっていない。それに魔力を持つ人間は全体的に少数派だよね?」
「ああ、恐らく二割程度に過ぎないだろうな」
「はぁ?!」
父の言葉に兄は驚きを隠せなかったらしい。
驚きの様子からしてまだ勉学はそこまで進んでいないのだろう。両親が跡取り息子を残念な目で見ていた。魔力量は桁違いに高いが、頭脳面ではかなり劣っている。三歳年下のサビオの方が兄よりも賢いのが現実だった。
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